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Husel “Ulaanbaatar 2019 Autumn”

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SGRAかわらばん812号(2020年3月26日)

【1】エッセイ:フスレ「ウランバートル・レポート2019年秋」

【2】寄贈本紹介:フスレ著『ハルハ河・ノモンハン戦争』
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【1】SGRAエッセイ#625

◆ボルジギン・フスレ「ウランバートル・レポート2019年秋」

モンゴル高原の東部にはメネン、フルンボイル、ヌムルグ草原がつながって果てしなく広がり、牛や羊や馬やガゼルがゆったりと草を食べながらあるき、穏やかで暖かい日の光に照らされ、青空には白い雲がうかび、なごやかな風がわたりすぎてゆく。

この広い草原地帯には複数の川が流れており、その内、大興安嶺山脈を源流とするハルハ河は同山脈の麓から北東へと流れ、くねくねと曲がり、途中、二つに分かれる。その一つはボイル湖に流入し、その北からはオルシュン川(Orchun_Gol)が流れ出てフルン湖へと続く。もう一つはシャリルジ川(Shariljiin_Gol)といい、オルシュン川と合流する。

ハルハ河にそって複数のオボー(モンゴルの山や峠に石や木で作られた構造物。宗教的役割と同時に境界標識や道標としての役割も持つ)が点在しており、流域の真ん中辺の東岸にノモンハン・ブルド・オボーが建てられており、静かに周りを見守っている。ノモンハン・ブルド・オボーの「ブルド」つまり「泉」を源とするホルスタイ川は西へと流れ、ハルハ河に注ぐ。この「泉」の周辺にはヨシが多いため、地元の人たちは、その川をホルスタイ川(ヨシの川)と呼ぶが、川が西へ流れていくにつれ、楡、即ちモンゴル語でハイラースが多くなっていくため、ハルハ人はその川をハイラースト川(Khailaastiin_Gol)と呼ぶ。

こんな天国のような草原地帯で、1939年5月から9月にかけて、激しく、壮絶な戦いが繰り返された。

2019年はハルハ河・ノモンハン戦争80周年にあたる。この記念すべき年を迎えるにあたって、ウランバートル、モスクワ、東京でさまざまな記念シンポジウムがおこなわれた。その一つが、私が企画したウランバートルにおける国際シンポジウムであった。

今回のシンポジウムの開催において、モンゴル日本関係促進協会会長・元駐日モンゴル大使のS.クレルバータル(S.Khurelbaatar)氏が非常に熱心、かつ積極的に協力してくださった。4月と5月に日本を訪問された際には、一橋大学名誉教授田中克彦名誉教授や二木博史・東京外国語大学名誉教授と私に会って、いろいろと話し合った。そして、日本側の団体の資金が厳しい状況のなか、氏のご尽力のおかげで、モンゴル外務省からも支援を得た。さらに、シンポジウムの前日には、氏を始めモンゴル日本関係促進協会の方々が会場にて、設営などにも携わってくださった。

2019年8月29、30日の2日間にわたって、公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)とモンゴル日本関係促進協会、日本モンゴル学会、昭和女子大学国際学部国際学科の共同主催、昭和女子大学、モンゴル日本学会、モンゴル科学アカデミー歴史・考古学研究所、モンゴル・日本人材開発センター、モンゴルの歴史と文化研究会、NGO「バルガの遺産」協会の後援、公益財団法人守屋留学生交流協会の助成で、第12回ウランバートル国際シンポジウム「ハルハ河・ノモンハン戦争80周年:歴史、記憶、そして教訓」がモンゴル・日本人材開発センター多目的室で開催された。

開会式では、クレルバータル氏が司会をつとめ、D.ダワースーレン(D.Davaasuren)モンゴル外務省国務長官、高岡正人在モンゴル日本大使、二木先生が祝辞を、田中克彦先生が開会の辞を述べた。

今回のシンポジウムには、モンゴル、日本、ロシア、中国、韓国、香港などの国や地域からの100名余りの研究者が参加し、共同発表を含む、18本の報告があった。D.ソドノム(D.Sodnom)元モンゴル首相をはじめ、10名を超える元駐欧米、アジア諸国のモンゴル大使がシンポジウムに参加した。その内、Ts.バトバヤル(Ts.Batbayar)モンゴル外務省顧問・元駐キューバモンゴル大使、モンゴルにおけるハルハ河・ノモンハン戦争研究の第一人者、R.ボルド(R.Bold)駐トルコモンゴル大使、そして、S.チョローン(S.Chuluun)国際モンゴル学会事務総長・モンゴル科学アカデミー歴史・考古学研究所所長なども参加し、最新の研究成果を報告した。その詳細は、別稿にゆずりたい。

8月29日の夜の招待宴会は、モンゴル日本関係促進協会の主催で、モンゴル外務省迎賓館で開催され、宴会中、モンゴルの伝統の歌や馬頭琴の演奏、民族舞踊も披露された。8月30日の夜の招待宴会は関口グローバル研究会(SGRA)と日本モンゴル学会の主催で、ウランバートルホテルでおこなわれた。

同シンポジウムについては、『ソヨンボ』や『オーラン・オドホン』紙などにより報道された。

ハルハ河・ノモンハン戦争の戦勝80周年を記念し、モンゴルでは『ハルハ河戦争:1939』というモンゴル語・ロシア語・英語対照の資料・写真集が出版された。同資料・写真集はハルハ河・ノモンハン戦争にいたるまでのモンゴルの内外情勢、戦争が起きた原因、戦争、結果、モンゴル・ソ連軍の共同の勝利、英雄的出来事という6つの部分より構成されている。史料・地図・写真・ハルハ河でおこなわれたフィールドワークの資料、個人コレクターのコレクションなど950点余りが収録されている。同時にモンゴル科学アカデミー歴史学・考古学研究所とモンゴル諜報局特別文書館が共同で『マンチューリ会議日記:1935~36年』という資料集も出版された。主にマンチューリ会議の時のモンゴル側の代表のモンゴル文字で書かれた日記をキリル文字に転写し、出版したのである。
また、バトバヤル氏は、それまでのみずからのハルハ河・ノモンハン戦争についての研究成果を発展させた『ハルハ河戦争と大国間の地政学』を出版し、マンチューリ会談を含む、ハルハ河戦争をめぐる日本、ソ連の思惑などについて再検討している。さらに、ミャグマルスレン・ハルハ河郡戦勝博物館館長が編集した『彼らは私たちのために(戦った)私たちは彼らのために(記憶を残そう)』には、モンゴル国ドルノド県ハルハ河郡戦勝博物館がおこなってきたハルハ河・ノモンハン戦争参加者の伝記研究と戦争考古学的発掘調査の成果がまとめられている。同時に、ハルハ河・ノモンハン戦争を記念・たたえる『ハルハ河歌集1』という歌集も出版されている。

シンポジウムを終えて、8月31日から9月6日にかけて、わたしはハルハ河・ノモンハン戦場のドルノド県で現地調査をおこなった。その目的は、ハルハ河・ノモンハン戦場での現地調査のほか、モンゴルのハス映画会社と共同でドキュメンタリー映画『ハルハ河とノモンハン:忘れられた忘れてはいけない戦争』の製作のための現地撮影であった。

実はハルハ河・ノモンハン戦争80周年にあたる2019年に、ロシア政府の提供した800万ユーロにより、モンゴル国政府は同年ハルハ河郡に、郡庁舎、学校、病院などを新たに建設したほか、モスクワの赤の広場の入り口にあるジューコフ元帥の像を複製し、郡の庁舎の前の広場に建てた。その記念式典はドルノド県ハルハ河郡でおこなわれた。私たちはその記念式典に間に合った。

2019年12月と今年1月に私は2度もモンゴルに行き、映画『ハルハ河とノモンハン:忘れられた忘れてはいけない戦争』のポストプロダクションに携わった。この映画のモンゴル語版はすでに完成し、予想以上に出来が良かった。これから同映画の日本語版のポストプロダクションに入る。この映画の脚本の執筆は私である。私には、この映画をどこかの国のためのみに製作するものではなく、多くの国の人びとに納得のできるものにしてもらいたいという願いがある。

モンゴルの草原と会議の写真を下記リンクよりご覧いただけます。

Essay625Husel-Photo

<ボルジギン・フスレ Borjigin Husel>
昭和女子大学国際学部教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006年東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員、ケンブリッジ大学モンゴル・内陸アジア研究所招聘研究者、昭和女子大学人間文化学部准教授などをへて、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945~49年)――民族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、『モンゴル・ロシア・中国の新史料から読み解くハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2020年)、編著『国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2016年)、『日本人のモンゴル抑留とその背景』(三元社、2017年)、『ユーラシア草原を生きるモンゴル英雄叙事詩』(三元社、2019年)他。

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【2】寄贈本紹介

SGRA会員で昭和女子大教授のボルジギン・フスレさんよりご著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。

◆ボルジギン・フスレ著『モンゴル・ロシア・中国の新史料から読み解くハルハ河・ノモンハン戦争』

これまで日本の研究者には利用しえなかった、モンゴル語、ロシア語、中国語の史料、およびオーラルヒストリー調査から得られた基礎的なデータにもとづいて、ハルハ河・ノモンハン戦争(ノモンハン事件)の全体像を解き明かし、20世紀前半の北東アジアの秩序の形成と維持に果たした日本・ロシア・中国・モンゴルの役割をよみなおそうとするものである。

出版社:三元社
A5判上製/328頁
ISBN978-4-88303-504-5
刊行年月 2020年2月28日

詳細は下記リンクよりご覧ください。
http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/504.htm

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