SGRAメールマガジン バックナンバー

Wu Xiaoxiao “Nagasaki, surrounding the ability to take action”

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SGRAかわらばん809号(2020年3月5日)

【1】エッセイ:武瀟瀟「行動力にまつわる長崎」

【2】寄贈本紹介:李テイ著『日本語教育におけるメタ言語表現の研究』
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【1】SGRAエッセイ#622

◆武瀟瀟「行動力にまつわる長崎」

長崎についたのは午後でした。雨が降ったり止んだりしていて、出島と大浦大聖堂を見学し、夕食を済ませてホテルについたころにはもう7時半をすぎていました。稲佐山へ夜景を見に行こうと思っていましたが、疲れと雨のせいか、心が揺れ始めました。長い時間をかけて、行き方を調べました。ネットでは色々アクセス方法が書かれていますが、結論から言えば「車がないと難しい」「公共交通機関よりツアーバスがオススメ」とのことでした。夜に市営バスの本数も少ないし、帰る道も心配だし、「明日行こう」、「夜景なんか見なくてもいい」、そう自分に言い聞かせて諦めさせようとしました。

いつの間に、やりたいこと、欲しいものがあっても、始まる前に自分を諦めさせる習慣を身につけたのでしょう。下調べをしすぎ、考えすぎてしまい、結局自分の足枷になります。あるいはやるべきことが山積みで、やらなければならないと知りつつも、先延ばしにしてしまいます。時間がたてばたつほど、行動に移すためのエネルギーが膨大になります。また、先延ばしによって、約束を守れないことになってしまい、そこから罪悪感と恐怖心が生じ、さらに金縛りのように身の動きが取れなくなります。まるで駝鳥のように、迫ってくる「敵」から目をそらして砂の中に逃げます。このように、行動力に欠けることによって、先延ばしにするストレスと自己嫌悪から、さらに行動力が消えていくといった悪循環に陥ります。ですから、「明日行こう」とすれば、百パーセント翌日に行かないことが分かっていました。

結局ネット上のルートに一切従わず、ただ携帯のマップを手にして、ホテルを出ました。

日本語では「方向音痴」という表現があります。方角と聴覚、空間と音、一見無関係ですが、「建築は凍れる音楽」の比喩を思い出せば、実に絶妙な表現だと感心しました。徒歩から路面電車、徒歩からバス、また徒歩からロープウェイ、時には真逆の方向へ行ってしまったり、駅が見つからなかったり、気が付いたら同じ場所を何回もぐるぐる回っていました。しかし、不思議なことに、ホテルから第一歩を歩き出したら、恐怖や不安はだんだん軽くなり、ストレスも消える一方でした。

ロープウェイから降りたとき、遠方から歓声が聞こえ、山麓に大勢の人が動いているのが見え、何かのコンサートが終わるところでした。展望台のエレベーターの扉が開くと、そこに広がるのは光輝く長崎港でした。横に長い港が山々に包まれ、海面に映り込む地上の光は一層際立ちます。さすが日本三大夜景だと思いながら展望台のテラスを一周回り、そろそろ帰ろうとエレベーターへ向かう途中、爆音が聞こえ、思わず後ろを振り返ると、巨大な花火が目の前に咲いていました。真下の海に浮かぶ船から、花火が打ち上げられていました。20分ほど続いていた海上花火大会は実に美しいものでした。何よりも、上から見下ろす花火は初めてでした。

最初の一歩を歩き出したら、身も心も軽くなる。一番近い道ではなくても、歩き続けば、無駄なことは一つもない。行動すれば、絶対に現状よりよい方向へ展開する。それなのに、なぜ最初から、速やかに行動しないのでしょう。行動力が欠ける理由は人それぞれですが、まだ行われていないことに対する過度の思考はその大きな要因だと帰り道にそう思いました。考えれば考えるほど、失敗を恐れ、ネガティブなイメージを未来に投影します。とくに大事なことや困難度が高いことに対して、よりプレッシャーを感じやすく、行動に踏み出すのは時間がかかります。その過度思考の原因は、「完璧主義」や「PCN(先延ばし)症候群」などと言われます。人間、多少そういう「症状」がありますが、「重症者」は、周囲に大変な迷惑をかけることになりがちで、仕事と生活に支障が出るのは当然です。なにより、自信が食い尽くされ、精神衛生上の悪影響は数え切れません。

では、これを改善、解決する方法があるでしょうか。

ホテルを出た時に、稲佐山の山頂から花火を見ることになるとは想像もしませんでした。ただ、ここで行動しないとだめだと急に思いたち、勢いで出発しました。そのあとも、道に迷うのに精一杯で、無事つくことができるかどうか思う余裕さえありませんでした。つまり、事前に自分に考える時間を与えないといいでしょう。第一歩だけでも分かったらすぐ行動します。締め切りがすでに過ぎた論文やエッセイを書くのに、ワードファイルを開くことは一番困難度が高いと思います。それから書きかけた自分の文章を読むことも、また拷問のように感じます。ただ、一旦、最初の心理的な障害をクリアできたら、タスク自体はそこまで人を苦しめるものではなく、むしろ、山頂の夜景や、花火のように、「来てよかった」と思わせ、(意外に)楽しめるものです。ちなみに翌日、九州全体は記録的な豪雨となり、長崎では電車も止まってしまいました。「明日行こう」と先延ばしたら、このような素晴らしい風景を見る機会を逃してしまうことさえ、知らなかったでしょう。

<武瀟瀟(ぶ・しょうしょう)Wu Xiaoxiao>
渥美国際交流財団2018年度奨学生。中国上海出身。上海外国語大学英文学科英語文学・言語学専攻卒業。2011年9月にフランスパリ・ディドロ(パリ第7)大学東洋言語文化学科日本学(日本美術史)コースにて修士号取得。同年10月からパリ国立高等研究実習院(EPHE)歴史学・文献学研究科博士後期課程に在籍。2018年京都繊維大学工芸科学研究科造形科学博士修了。2019年4月から東京国立博物館学芸企画課アソシエートフェローとして働きながら、室町時代の水墨画、中世中国の画題の日本での受容を中心に研究中。

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【2】寄贈本紹介

SGRA会員で日本大学文理学部助教の李テイさんよりご著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。

◆李テイ著『日本語教育におけるメタ言語表現の研究』

メタ言語表現の学習とコミュニケーションのメタ認知の向上を結びつける日本語教育を提案。日本語学習者の視点を基に、メタ言語表現の学習の意義を捉え直した上で、豊富な談話資料より収集したメタ言語表現を分析する。初級日本語クラスでの学び、インタビューで得られた学習者の語り、待遇コミュニケーション論と文章・談話論に基づいた分析、いずれも日本語教師や日本語教育研究者に有益である。

タイトル:『日本語教育におけるメタ言語表現の研究』
(シリーズ言語学と言語教育39)
著者:李テイ
出版社:ひつじ書房
出版年月:2020年1月31日
装丁:A5判上製カバー装 368頁
ISBN:978-4-8234-1021-5

詳細は下記リンクよりご覧ください。
http://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1021-5.htm

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