SGRAメールマガジン バックナンバー

Nikkan Asia Future Forum #18 Report

 

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SGRAかわらばん769号(2019年5月2日)

【1】金雄熙「第18回日韓アジア未来フォーラム報告」
テーマ「日韓関係の現在地と改善案」

【2】国史対話メールマガジン第3号を配信
孫軍悦「国境を超える史学史の対話」

【3】第9回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送)
テーマ「帝国日本の知識とその植民地」
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【1】金雄熙「第18回日韓アジア未来フォーラム『日韓関係の現在地と改善案』報告」

2019年3月23日(土)、韓国ソウル市の未来人力研究院オフィスで第18回日韓アジア未来フォーラムが開催された。今回のフォーラムは、2018年8月にソウルで開催した第4回アジア未来会議の後、しばらく間をおいてこれまでの成果と課題を踏まえ、フォーラムの進め方などを整備して再スタートしようと思っていたところ、今西さんの緊急提案により、急きょ開かれるようになった。政治レベルにおける日韓関係の「軌道離脱」とも読み取れる異常な展開がその背景にあった。

日韓関係はどうしてここまで悪化してしまったのか。日韓の専門家たちは今の状況をどう診断し、どのような解法を提示するか。現状を打開するためには何をすべきか。今回のフォーラムでは日韓関係の専門家を日韓それぞれ5名ずつ招き、「日韓関係の現在地と改善案」について忌憚のない意見交換を試みた。

フォーラムでは、渥美国際交流財団関口グローバル研究会の今西淳子(いまにし・じゅんこ)代表による開会の挨拶に続き、日本と韓国からの2名の専門家による基調報告が行われた。まず、木宮正史(きみや・ただし)東京大学大学院総合文化研究科教授は、「日韓関係をどう「科学」し、「実践」するのか」という題で、日韓関係の現状は、従来の相互対立を政策選好の共通性でカバーしてきた状況から、相互対立と政策選好の違いが増幅し、対立を管理せず、むしろ放置している状況であるとした。政策選好を接近させてそのために協力するということは難しいとしても、少なくとも各自の政策選好を妨害しないようなミニマムな合意を形成することは不可能ではないし、そうした政府による管理を可能にするような市民社会間関係は成立していると主張した。また、むやみに市民社会間関係の対立を刺激することで、そうしたことさえも困難にしてしまうような選択は控える必要があると強調した。

李元徳(リ・ウォンドク)国民大学教授は、「韓日関係の現在と改善の見通し」について報告した。外交的に冷え込み、好感度も急速に低下し、1965年の国交正常化以来最悪の局面を迎えているが、人の往来、韓流は依然として健在である奇異な現象に触れた。日本国内の嫌韓、韓国内の反日の勢いは次第に強化されつつあり、韓日関係は攻守転換し、加害者・被害者関係の逆転現象が目立つようになったと診断した。そして最近の関係悪化要因の中で、「徴用工問題」が最も核心的な悪材料であるとしたうえで、3つのシナリオを提示した。シナリオ1は放置、シナリオ2は基金(財団設立)による解決、シナリオ3は司法的な解決(仲裁委員会または国際司法裁判所)で、そのうち、シナリオ3が選択可能な適切な道ではないかとの意見を示した。

コーヒーブレイクを挟んだ自由討論では、それぞれの立場や専門領域を踏まえた、内容の濃い議論が展開された。黄永植(ファン・ヨンシキ)元韓国日報主筆は韓国における言論の自由は委縮しており、日韓関係についても知識社会は沈黙していると批判した。徴用工問題については、その重要性を過大評価してはならないと強調した。堀山明子(ほりやま・あきこ)毎日新聞ソウル支局長は今こそ韓国政府が答えを出さないといけないと促した。木村幹(きむら・かん)神戸大学教授は1990年代半ばに日本でみられたような「ガバナンスの崩壊」がいま韓国の対日政策で現れており、その回復こそが重要であるとした。また徴用工問題についてはICJ提訴で確定したほうが望ましいとした。朴栄濬(パク・ヨンジュン)国防大学教授は韓国の外交的孤立を憂慮しつつ、非核化・平和プロセスにおいて「日本軸」を活用する必要があるとした。
豊浦潤一(とようら・じゅんいち)読売新聞ソウル支局長は5か月以上放置されている徴用工問題をICJに提訴するのは日韓外交の敗北を認めることであり、基金(財団)方式以外の方法はないと指摘した。春名展生(はるな・のぶお)東京外国語大学准教授は「韓国被害・日本加害」という枠組みに嵌まらない事例もみつめるべく、国家対国家の図式を相対化する必要があるとした。木宮教授は徴用工問題より、北朝鮮の非核化問題の方がもっと重要でないかとコメントをした。南基正(ナム・キジョン)ソウル大学日本研究所教授は、日韓の間では、賠償を明記し日本の役割と努力の経緯をも認める「歴史宣言」が必要であるとした。また、ICJ提訴はレトリックであり、基金方式で日韓が積極的に解決すべきであるとした。金崇培(キム・スンベ)忠南大学助教授は、いまは韓国に分が悪い状況であり、日韓の差を認めたうえで話し合いを進めるべきであるとした。

最後は、李鎮奎(リ・ジンギュ)未来人力研究院理事長により、時宜にかなったテーマの選定に触れるコメントと閉会の辞で締めくくられた。閉会の辞が終わった午後5時半ごろからは、ケータリングスタイルで懇親会が始まった。まもなく会議場のオフィスはワインバーの雰囲気に一変し、案の定未来人力研究院のワインセラーは空っぽになり、日韓アジア未来フォーラムならではの「狂乱の夜」を再現した。

一般に「忌憚のない話し合いができた」とか「胸襟を開いて議論した」ということは、合意なしで終わったことを意味する場合が多い。今回のフォーラムでは、日韓の間で突っ込んだ話し合いを試みたわけだったが、結果は必ずしもそうだったとは言えないかもしれない。専門家グループによる国際会議ではそれぞれ自国の立場や国益を背負って議論する場合が大いにあるが、今回のフォーラムでは、国籍から離れ、理念的指向によって議論が分かれる場面がしばしば見られた。文在寅政府の「親日清算」や「対日ガバナンスの崩壊」については概ね冷ややかな評価で一致しているような感じもした。

いうまでもなく、良好な日韓関係は朝鮮半島の非核化、平和体制の構築、北東アジアの平和と繁栄において欠かせないものである。日韓関係において正面の「理」のぶつけ合いだけでは互いに魅力を感じないし、側面の「情」だけを強調するのも根本的な問題解決にはならないはずである。昨今のように「理」や「情」が働く余地が狭くなり、背面の「恐怖」だけを振りかざしてマネジメントしようとすると、日韓関係は破綻してしまうはずである。これからはやはりこの3つの要素でバランスをとることが大切であろう。

最後に第18回目のフォーラムが休むことなく成功裏に終わるようご支援を惜しまなかった今西代表と李先生、そして遠くから「春鹿」と宴会に必要な物品などを空輸してくれた石井さんのご尽力に感謝の意を表したい。

当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2019/05/Nikkan18Photo.pdf

<金雄煕(キム・ウンヒ)Kim_Woonghee>
89年ソウル大学外交学科卒業。94年筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、98年博士。博士論文「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。99年より韓国電子通信研究員専任研究員。00年より韓国仁荷大学国際通商学部専任講師、06年より副教授、11年より教授。SGRA研究員。代表著作に、『東アジアにおける政策の移転と拡散』共著、社会評論、2012年;『現代日本政治の理解』共著、韓国放送通信大学出版部、2013年;「新しい東アジア物流ルート開発のための日本の国家戦略」『日本研究論叢』第34号、2011年。最近は国際開発協力に興味をもっており、東アジアにおいて日韓が協力していかに国際公共財を提供するかについて研究を進めている。

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【3】第9回日台アジア未来フォーラム「帝国日本の知識とその植民地」へのお誘い(再送)

下記の通り第9回日台アジア未来フォーラムを台北市で開催します。参加ご希望の方は、下記よりご登録ください。

テーマ:「帝国日本の知識とその植民地:台湾と朝鮮」

日時:2019年5月31日(金)8:50~17:10

会場:国立台湾大学凝態センター国際会議ホール
http://www.ntu-ccms.ntu.edu.tw/zh/contact_us

参加申し込み:お名前と所属、連絡先をSGRA事務局にご連絡ください。
[email protected]

詳細は会議ホームページをご覧ください。
http://iics.ust.edu.tw/2019JAPAN/

〇フォーラムの趣旨

台湾と朝鮮はともに漢文圏に属し、日本帝国の植民地を経験した。こうした過去の歴史は現在の台湾と朝鮮半島の政治と文学に重要な影響を与えている。周知のように、近代日本は漢文など東アジア諸国共有の伝統知識を踏まえながら、西洋文明を吸収して、日清・日露戦争を経て、台湾と朝鮮などの植民地を保有する帝国主義国家を築いた。帝国日本はどのように近代西洋の知識を吸収したのか。帝国日本の政治と知識の欲望において、台湾と朝鮮はいかに認識されていたのか。帝国日本における知識の在り方はどのように植民地における知識の形成と連結していたのか。そして、日本帝国と諸植民地の間にはどのような人間的な交流があったのか。本フォーラムでは、こうした問題意識に基づき、グローバルな視野で、台湾と朝鮮をめぐって、思想史と文学史の視点から、近代日本帝国における知識の在り方と台湾、朝鮮との関連、また日本帝国の諸植民地における人間の移動と交流を探究する。
次のようなテーマを検討する。(1)帝国日本の知識と台湾A:思想史。(2)帝国日本の知識と台湾B:歴史と文学。(3)帝国日本の知識と朝鮮。

〇プログラム

【基調講演】

山室信一(京都大学名誉教授)
「日本の帝国形成における学知と心性」

【第1セッション】

藍弘岳(国立交通大学教授)
「明治日本の自由主義と台湾統治論:福沢諭吉から竹越与三郎まで」

河野有理(首都大学東京教授)
「田口卯吉と植民地」

陳偉智(国立台湾大学博士課程)
「観察、風俗の測量と比較の政治:坪井正五郎、田代安定と伊能嘉矩の風俗測量学」

【第2セッション】

塩出浩之(京都大学准教授)
「近代初期の東アジアにおける新聞ネットワークと国際紛争」

田世民(国立台湾大学准教授)
「近代日本における葬式儀礼の変化と植民地台湾との交渉」

柳書琴(国立清華大学教授)
「祖国に留学する:左翼文化廊下における台湾の文学青年(1920-1937)」

【第3セッション】
月脚達彦(東京大学教授)
「朝鮮の民族主義の形成と日本」

趙寛子(ソウル大学准教授)
「東アジア体制変革において日清・日露戦争をどう見るか:「思想課題」としての歴史認識」

許怡齡(文化大学准教授)
「近代知識人朴殷植の儒教改革論と日本陽明学」

【総括】
林立萍(台湾大学日本研究センター主任)
山室信一(京都大学名誉教授)

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★☆★SGRAカレンダー
◇第5回アジア未来会議「持続的な共有型成長:みんなの故郷みんなの幸福」
(2020年1月9日~13日、マニラ近郊)<論文(発表要旨)募集中>
※奨学金・優秀賞の対象となる論文の募集は締め切りました。一般論文の投稿(発表要旨)は6月30日まで受け付けます。

Call for Papers


アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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