SGRAメールマガジン バックナンバー

Sim Woohyang “Camino de Santiago, a Long 800km Way”

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SGRAかわらばん718号(2018年4月5日)
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SGRAエッセイ#564(私の日本留学シリーズ#18)

◆沈雨香「サンティアゴ巡礼の道、800㎞の道のり」

カミノ・デ・サンティアゴ(Camino_de_Santiago、スペイン巡礼の道)は、フランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポル(Saint_Jean_Pied_de_Port)からスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago_de_Compostela)までの800㎞の道である。1000年以上の歴史があるとされているこの道は、元々は聖ヤコブのゆかりの聖地を巡礼する宗教的なものだったのだが、今日は様々な目的の人々がそれぞれの思いを背負い、道に立っている。この道を歩く人は巡礼者と呼ばれ、800㎞を一か月ほどかけてひたすら歩く。私は2013年、今までの自分を振り返り、これから自分が歩む方向を考えるためこの道の上に立った。

当時私は修士2年で、博士進学と今後の自分の進路について、色々頭を悩ませていた時期であった。そもそも私は歩くことが大好きで、普段から何かを考える時はよく散歩をしていたので、1か月間、非現実的な環境で、ひたすら歩きながら考え事ができる贅沢な時間に大きな魅力を感じた。それがわざわざ遠いスペインまで行き、800㎞を歩く苦労を買った理由である。結果的に、巡礼の道はかけがえのない思い出として私の人生に大きな影響を及ぼした。美しい景色、今も良き友達である巡礼者仲間を含め、当時の記憶は2018年の今も色あせず、焼き付けられたかのように鮮明なものである。そして、この800㎞があったからこそ、私は博士課程に進学し、博士論文が書けていると言っても過言ではない。

とはいえサンティアゴまでの道のりは辛いものであった。ただただ歩くだけだったのに、それを毎日8時間ほど繰り返すと、両足には大きな水ぶくれがあちこちにできで、圧迫され続けた小指の爪は黒く変色し、結局剥がれてしまった。生活用品、着替え、水、寝袋など長期の旅に必要な物を詰め込んだ12㎏のバックパックをずっと背負っていた肩も、腰も、ひざも足首も痛み、終盤には鎮痛剤を飲まないと痛くて歩けないほどであった。大変だろうとは思っていたものの、私の想像をはるかに超えるつらさだった。あまりのつらさに、「私何やってるんだろう。なんでこんなつらい思いしているんだろう。やめようかな。早く終わらないかな。私にはもう無理かな。」と何度つまずいて、何度思ったことか。

しかし、実際私の選択肢に諦めは無く、当然のことながら、サンティアゴに着くには毎日黙々と約25㎞を重ねることしかない。最後は「もうこんなつらい思いをしたのだから、絶対サンティアゴ行ってやる!行ってこのつらさの先に何があるかこの目で見てやる!サンティアゴがこんな苦労する価値があるものだったのか確かめてやる!」との思いで歩き続けた。そして、32日目、到底着けそうになかった目的地、サンティアゴについに到着した。しかし、サンティアゴそのものに私は何も感じられなかった。そう、サンティアゴそのものには意味があるわけではない。そして気づいた。大事なのは過程、私が毎日いろんな思いで苦しみながら歩いた一歩一歩、歩きながら感じた事、考えた事、出会った人々そして交わした会話、共にした時間。私が800㎞を歩いた意味はその過程を経ることであった。大事なのは目的とその結果そのものではなく、そこまでたどり着く道のりにあること、その過程であることを痛感した瞬間であった。

そして、2018年の私はまたとてもとてもつらい道の上に立っている。ただただ自分の頭にあるものを文字にしていく作業の繰り返しが、この上なく苦しくてつらい。「私何やってるんだろう。なんでこんなつらい思いをしているんだろう。やめようかな。早く終わらないかな。私にはもう無理かな。」と何度つまずいて、何度思っているか。しかし、今はただただ一字一字を書いていくしかないこと、それが重なって博士論文という目的地に着けること、そしてこの過程が何よりも大事であること、この道のりそのものが大きな意味をなしていることをわかっている。だから、今日もまたパソコンに向かう。

<沈雨香(シン・ウヒャン)Sim_Woohyang>
2017年度渥美奨学生。2008年来日。早稲田大学教育学部卒業後、同大学教育学研究科で修士課程修了。現在は博士課程に在籍し博士論文を執筆しながら、早稲田大学教育・総合科学学術院の助手に着任。専門は教育社会学。中東の湾岸諸国における高等教育の研究を主に、近年の日本社会における大学のグローバル化とグローバル人材に関する研究など、高等教育をテーマにした研究をしている。

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