SGRAメールマガジン バックナンバー

Chang Wei-Jung “I’ve Met Movies While Studying in Japan”

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SGRAかわらばん712号(2018年2月22日)

【1】エッセイ:張いよう「日本留学で映画と出会った私」

【2】日韓アジア未来フォーラムへのお誘い(3月16日、ソウル)
「北朝鮮開発協力:各アクターから現状と今後を聞く」
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【1】SGRAエッセイ#558(私の日本留学シリーズ#15)

◆張いよう「日本留学で映画と出会った私」

日本に留学する前は、映画好きではなかった。全く見ないわけではないが、年に1回見るかどうかで、見たとしてもハリウッドの人気作だった。特に邦画には、テンポが遅いし、わかりにくいとの印象を持っていた。それは、小学生の頃に従姉と観た岩井俊二の「ラブレター」だったせいかもしれない。まだ小学生の私には、さすがに難しかった。しかし、日本に来てから、日本語練習という目的で、映画を見ようと劇場まで足を運ぶようになった。最初に見たのは、王子駅付近の古い映画館で上映されていた「容疑者Xの献身」だった。当時はまだ日本語力が不足していたので、映画の内容を全く覚えていないが、それ以来映画にハマってしまった。

「どんな映画が好きか」と聞かれても、なかなか答えにくい。好きな監督の作品は必ず観るし、予告を見て気になるものも観る。一方、「どうして映画が好きになったか」と聞かれると、私は迷わず答える。映画を見ると、2時間ほど全く現実と違う空間に没入し、まるで現実から解放されるかのような快感を味わえるからだと。テンポが良く明快で爽快感のある映画はもちろん好きだが、観終わってもずっとモヤモヤしながら内容を反芻してしまう映画のほうが個人的には好みである。特に日本の映画館で観ると、本編が終わっても、ほとんどの観客が席に座ったまま、エンドロールが終わるまで待つので、この空白の時間が好きだ。人生を反芻するのは辛すぎるから、私は映画を反芻する。

ここでは、好きな監督の作品をいくつか紹介したい。まずは、日本人なら誰でも知っているであろう、岩井俊二監督である。写真のような究極の美しさを追求する岩井監督の美学は観客を魅了する。たとえば、「PiCNiC」という映画は精神病患者を描く物語であるが、薄暗い色調で撮られた不気味な精神病棟でさえも芸術品のように映る。最後の場面――浅野忠信とCharaが夕焼けの映える海上で抱き合うシーンは、心臓が止まるほど衝撃的に美しかった。

最新作の「リップヴァンウィンクルの花嫁」では、ウェディングドレス姿の黒木華とCOCCOが楽しく踊り回るシーンも、永遠に踊っていて欲しいぐらい、ずっと観ていたいほど美しかった。そして、あの名作「ラブレター」は3回観た。小学生だった私には理解できなかったあの名シーン――女性の藤井樹が雪で覆われる山に向かって、「元気ですか?私は、元気です!」と叫び倒すシーン――を、大人になって改めて見たら、心が震えるほど感動的だった。私にも、呼んでも振り返らない、戻ってこない人がいる。映画を観ながら、そういった人たちに、「私は元気です!」と、心の中で藤井樹と一緒に叫んでいた。

次に紹介したいのは、岩井俊二より好きな監督、是枝裕和監督である。最初に観た是枝監督の作品は「空気人形」だった。美しい女優と周りの登場人物との対比で、都市の中に潜んでいる巨大な孤独感を上手に表現している是枝監督の世界観に圧倒された。その後、是枝監督のほとんど全作品を観た。誰でも共感できそうな、平凡だけど頑張って乗り超えなければならない人生のあり方、そしてちょっとぎこちないけどどこからか絆が生じてしまう人間関係をめぐる監督の温かみのある繊細な描き方に魅了される。特に、俳優を一人ひとりアップせずに、全体を映しながら、登場人物たちのさりげない動きと会話を撮ることで、日常生活にありそうな場面を撮るという是枝監督の特徴は共感を呼ぶ。

最も好きなのは「奇跡」という映画である。この映画も3回観たが、若い兄弟の絆と子どもたちの純粋な表情に心が打たれる。大人になって、いつから奇跡を信じないようになったのだろうか。奇跡が起きる瞬間を求めて、山の奥を訪ねた子どもたちの純粋で純情な顔は、いつしか冷えてしまった心を温めてくれる。そして、映画に少しだけ登場し、主人公には「ぼんやりした味」と不評な九州名物「かるかん」。この前、九州に旅行した時に、土産物屋でかるかんを買って食べてみた。確かに「ぼんやりした味」だなぁと咀嚼しながら、そう考えていた。奇跡の起こらない人生の味もきっとそう――ぼんやりしているけれど、噛めば噛むほど、ほんのりとした甘さを感じると。

最後は是枝と真逆のタイプの、スペインのペドロ・アルモドバル監督である。是枝が平凡の日常の繊細な味を引き出すのであれば、アルモドバルは鮮明な色彩を操りながら、様々な形の「愛」を劇的に表現するところが特徴的である。愛と欲望、愛と嫉妬、愛と復讐、愛と懺悔、アルモドバルは様々な側面から「愛」の本質を追究してきた。愛の故に人生が狂ってしまう。でもそこまで狂わないまでも、皆はきっと人生の瞬間瞬間に「愛」をめぐる様々な課題と向き合ってきただろう。

彼の作品の中で最も好きなのは、男性同士の愛を語る「バッド・エデュケーション」である。少年たちの間に芽生えた純粋な愛が、愛ゆえに過ちを犯した大人に壊され、少年たちは別れさせられ、成長して、それぞれ違う人生を歩んでいく。しかし互いへの愛と未練は未だに心の奥に刻んでいるほど切ない究極の純愛映画である。映画の最初に登場したセリフ「高速4号線でバイク走行者が凍死。死後もバイクは90キロ走り続けた……寒い夜、若者はどこへ?会いたい人がいたんだ」というように、純愛の強烈さと真摯さを思い知らされる。

アルモドバル監督は、主人公の衣装や飾りをクローズアップして丁寧できれいに撮る特徴がある。たとえば、「トーク・トゥ・ハー」の女性闘牛士のタイツと飾り、「私、生きる肌」の女性主人公がちぎった布の質感、または「ジュリエッタ」の最初に、フルスクリーンに映る鮮紅の布など、アルモドバルが愛する弦楽器の音を聞きながら鮮烈な色彩を観ることもまた、鳥肌が立つほど官能的である。

私は時々思う。もし日本に留学に来なかったら、映画を好きにならなかっただろうと。最初は日本語の練習という単純な目的だったが、今は純粋に映画を楽しめるようになった。そんな映画は私にとって、人生を豊かにするものというよりも、むしろ、人生そのものである。共感したり、考えさせられたりすることで、映画を楽しむわけだが、映画とともに人生を反芻する、というところが、私にとって映画の最大の魅力なのである。

<張いよう Chang_Wei-Jung>
2016年度渥美奨学生。2018年にお茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士後期課程修了見込。専門はジェンダーと文化社会学。日本のポップカルチャーへの積極的な受容を切り口として台湾における親日感情の系譜について研究している。

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【2】第17回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い

下記の通り日韓アジア未来フォーラムをソウルにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。

テーマ:「北朝鮮開発協力:各アクターから現状と今後を聞く」
日時:2018年3月16日(金)午後2時~5時
会場:韓国ソウルThe-K_Hotel http://www.thek-hotel.co.kr/main_sh.asp
参加費:無料
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局 sgra-office@aisf.or.jp

主催:(財)未来人力研究院(韓国)
共催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)

◇フォーラムの趣旨

北朝鮮問題がいかなる方式で解決されようとも、北朝鮮に対する開発支援は今後の交渉過程や問題の解決以降においても、韓国や日本を含め、国際社会が避けては通れない重要な課題である。
本フォーラムでは、北朝鮮開発協力に対する体系的な理解を深めるとともに、北朝鮮開発協力における主なアクターたちの対北朝鮮支援のアプローチとその現状について議論し、新たな開発協力モデルの可能性を探ってみたい。今回は、2016年2月に東京で開催した第15回日韓アジア未来フォーラム「これからの日韓の国際開発協力:共進化アーキテクチャの模索」、2016年10月1日に北九州で開催した第3回アジア未来会議の自主セッション「アジア型開発協力の在り方を探る」、2016年12月仁川松島で開催した第16回日韓アジアイ未来フォーラム「日中韓の国際開発協力:新たなアジア型モデルの模索」における議論を受け、北朝鮮開発援助のあり方について考える。日韓同時通訳付き。

◇プログラム
詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2018/02/Nikkan17Program.pdf

【報告1】孫赫相(ソン・ヒョクサン:慶熙大学公共大学院院長)
「北朝鮮開発協力の包括的理解と多様なアプローチ」

【報告2】朱建栄(しゅ・けんえい:東洋学園大学人文学部教授)
「中国と北朝鮮の関係につむじ風――その変化を注目せよ」

【報告3】文炅ヨン(ムン・キョンヨン:全北大学国際学部准教授)
「韓国、国連の北朝鮮開発協力:現状と評価」

【フリーディスカッション】
-報告者を交えたディスカッションとフロアとの質疑応答-

○モデレーター:
金雄煕(キム・ウンヒ:仁荷大学国際通商学科教授)

○討論者:
李恩民(リ・エンミン:桜美林大学教授)
李鋼哲(り・こうてつ:北陸大学教授)
李元徳(リ・ウォンドク:国民大学教授)
朴栄濬(パク・ヨンジュン:国防大学教授)

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★☆★SGRAカレンダー
◇第17回日韓アジア未来フォーラム(2018年3月16日、ソウル市)
「北朝鮮開発協力の理解-開発協力のフロンティア」<参加者募集中>

第17回日韓アジア未来フォーラム「北朝鮮開発協力:各アクターから現状と今後を聞く」へのお誘い


◇第8回日台アジア未来フォーラム(2018年5月26日、台北市)
「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新た可能性」<ご予定ください>
◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
<論文募集中(締切:2018年2月28日)>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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