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Morrison and Buritica Alzate “SGRA Session (1) at EACJS#2 Report”

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SGRAかわらばん707号(2018年1月18日)

【1】東アジア日本研究者協議会パネル報告(1)
モリソン、ブリティカ・アルサテ「おぞましき女性の行方」

【2】寄贈本紹介:三谷博「維新史再考」
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【1】東アジア日本研究者協議会パネル報告(1)

◆リンジ―・レイ・モリソン、フリアナ・ブリティカ・アルサテ「おぞましき女性の行方:東アジア日本研究者協議会パネル報告」

2017年10月28日(土)中国天津において、第2回東アジア日本研究者協議会が開催され、私たちはSGRAから参加したパネルの1つ、「おぞましき女性の行方──フェミニズム批評から読む日本神話および昔話」というパネル発表をしました。当日は5人のパネルメンバーを含め、約20人の参加者を迎えてややこじんまりした会となりましたが、熱心な議論が交わされ、実り多い時間を過ごすことができました。

本パネルは日本神話と昔話の原文および現代作家によって語り直された作品をフェミニズムの観点から考察し、家父長的な要素を脱構築することを目的としました。パネルの流れとして、最初に司会者の張桂娥(台湾東呉大学副教授)がパネルの目的およびメンバーの紹介を行い、次に2つの発表をした後、討論者がコメントをし、最後に参加者の質疑応答の時間を設けました。以下、各発表の要旨と討論者によるコメントを簡単にまとめます。

一つ目の発表はリンジ―・モリソン(武蔵大学人文学部助教)による「暗い女の極み──日本昔話の『蛇女房』におけるおぞましき女性像をめぐって」でした。モリソンは「蛇女房」という日本の昔話をフェミニズム批評の観点から考察しました。人間と動物が結婚する、いわゆる異類婚姻譚は世界中に見られる昔話のモチーフのひとつです。日本にも異類婚姻譚が数多く伝承されていますが、「蛇女房」の場合、蛇女房は本性を夫に覗かれた後、自分の子供を人間の世界に置いて動物の世界に戻ります。先行研究では、このような異類女房が人間の世界から悲しく去ってしまう姿を日本昔話の「美しさ」と称賛され、そこに「日本らしさ」も見出されています。そのような見解に対し、本発表はジュリア・クリステヴァのアブジェクション(棄却、おぞましきもの)という概念を用いて、異類女房の「消滅」を男性による女性への「欲望」や「支配欲」として批判的に読み直しました。

二つ目の発表はフリアナ・ブリティカ・アルサテ(国際基督教大学ジェンダー研究センター研究所助手)による「神話の復習と女性の復讐──桐野夏生の『女神記』をフェミニズムから読む」でした。この発表では、桐野夏生の小説『女神記』においてイザナミとイザナキの神話がどのように語り直されているかを説明し、またフェミニストの観点から女性の復讐の描写に焦点を当てました。イザナミとイザナキの神話は、日本の男性中心主義的な文化の構築において重要な役割を果たしています。その文化では、男女は最初から不平等で、女性は穢れや黄泉国と関連付けられています。桐野の『女神記』は、女性の肉体と欲望、さらに妊娠や出産、母親になることなどと関連したものに直接的に結びついた女性の抑圧の心理的かつ文化的な側面を理解する試みだと言えます。桐野はこの小説を通して、女性を裏切られた犠牲者として描写するのではなく、彼女らに声を与えているのだというのが本発表の結論でした。

討論者のレティツィア・グアリーニ(お茶の水女子大学大学院博士後期課程)のコメントでは、神話、昔話、童話など、古くから語り継がれる物語において作り上げられた女性像・男性像が型となり、我々の意識に根付いてしまっていることについて触れました。家父長制による性の抑圧が反映されているそれらの物語が自明のプロットになり、永遠不変な原型となってしまうものの、その物語によって支えられている支配的言説は、歴史的ないし社会的な慣例にすぎない。この結論に至るためには、本パネルの発表のように、神話や昔話をジェンダーの視点から再考し、それらの物語を読み直す、そして書き直す必要があるのだともコメントしました。

2人目の討論者のシュテファン・ヴューラー(東京大学大学院博士後期課程)のコメントでは、ジュディス・バトラーのアブジェクション論の読み方を紹介し、主体と客体の境界線の脆さや瞬間性を指摘しました。つまり、主体と「おぞましきもの」とされる客体の境界線は静的、自然な、普遍的なものではなく、常に繰り返し引き直さなければならないと話しました。さらに、ヴューラーは『女神記』の問題点に触れ、結局この小説は登場する女性を「嫌な女」として描き、これまでの権力構造をただ逆転して男女の二分法的な関係および思考パターンを再生産してしまっているだけなのではないかと反論しました。

発表者がそれぞれの討論者のコメントおよび反論に回答した後、参加者からの質問を受けました。フェミニズムとナショナリズム、日本人と外国人の解釈の違い、日本の理想的な母子像、異類婿の話など、多岐に渡る質問で場が盛り上がりました。

今回は(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)のパネルの発表者およびリーダーとして参加でき、とても嬉しく思っています。発表やさまざまな研究者との意見交換によって、自分たちの研究を発展させ、ネットワークを広げることができました。素晴らしい機会を与えていただき、誠にありがとうございました。(文中敬称略)

第2回東アジア日本研究者協議会国際学術大会の写真は下記リンクよりご覧いただけます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2018/01/2017TenshinPhotoslight.pdf

<フリアナ・ブリティカ・アルサテ Juliana_Buritica_Alzate>
渥美国際交流財団2015年度奨学生。2010年4月に来日。国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科比較文化専攻で修士号を取得。2017年に同研究科博士後期課程を修了。現在は国際基督教大学のジェンダー研究センターの研究助手や神奈川大学の非常勤講師。専門は比較文学およびジェンダー研究。

<リンジ―・レイ・モリソン Lindsay_Ray_Morrison>
2016年度渥美奨学生。2017年に国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科博士後期課程を修了し、現在は武蔵大学人文学部助教。専門は日本文化研究。日本人の「ふるさと」意識の系譜について研究している。

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【2】寄贈本紹介

SGRA特別会員の三谷博先生より新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。

◆三谷博「維新史再考 公議・王政から集権・脱身分化へ」(NHKブックス No.1248)

「明治維新」とは何だったのか 150年の解釈を塗り替える!
幕末、雄藩が目指したのは武力討幕ではなく、幕藩体制を強化するための「公平な議論」だった。その願いが王政復古と中央集権国家樹立、身分制度の解体につながってゆく道筋を、「課題解決と権力闘争の循環」という一貫した視点で描く。幕末維新研究の集大成として第一人者が世に問う、全く新しい明治維新史。

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維新というと、とかく活躍した特定の藩や個人、そして彼らの敵役に注目しがちである。しかし、この選択は実は後世になされ、定着したものである。具体的には、およそ明治の末期から形成されて、文部省『維新史』全5巻(1939~42年)で集大成された。・・・いまでも多くの人はこれらで設定された枠組みに囚われているように見える。世襲身分制の解体と犠牲の少なさという基本的事実が忘れられがちなのは、そのせいに違いない。(まえがきより)

発行所 NHK出版
発売日 2017年12月27日
ISBN 978-4-14-091248-5

詳細は下記リンクをご参照ください。
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000912482017.html

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★☆★SGRAカレンダー

第11回SGRAチャイナ・フォーラム「東アジアからみた中国美術史学」へのお誘い


◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
<論文募集中(締切:2018年2月28日)>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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