SGRAメールマガジン バックナンバー

Yeh Wenchang “On the Problem of Expressing History”

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SGRAかわらばん601号(2016年1月7日)

☆新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします☆

【1】エッセイ:葉文昌「歴史表記問題について」

【2】第20回日比共有型成長セミナーへのお誘い(2月10日マニラ)
  「人類生態学と持続可能な共有型成長」
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【1】SGRAエッセイ#481

◆葉文昌「歴史表記問題について」

歴史は勝者が作ると言う。でもそれは一国国内と、国家主義での出来事に限定される。一国で勝手に歴史を作ったとしても、隣国で別の歴史解釈が語られていれば、後世の人々はどちらかの歴史解釈のみを鵜呑みにはできない。また民主主義の下では様々な解釈が出る上に政権交代が起こるので、権力者の思惑通りにはなりにくい。

私は小学校の1~3年生の時、日本で学んだ。そこで豊臣秀吉の伝記を見たが、伝記があるから偉い人との認識でしかなかった。しかし台湾帰国後、歴史の教科書に彼は悪者として描かれていた。また私は日本統治時代を信奉する家庭で育った。親から聞く日本統治時代は「治安も建設も良かったが、国民党時代は何もかもがダメだった」であったが、学校教育では中国視点での解釈となり、日本に対する表現は良いものではなかった。また、日本統治時代を経験した人にも「厳しい弾圧を受けた」「差別があった」という人も大勢いることがわかった。同じ場所で同じ時代を経験したとしても、感じる事はさまざまなのだ。このような経験から、一部の人の経験だけで歴史を解釈するのは傲慢だと思うようになった。

科学は誰が解釈しても同じ結果だとすると、今の教育の歴史教科書は科学ではない。歴史教科書はどうあるべきか?以前、韓国と中国の歴史研究者と日本有識者でお酒を飲みながら話す機会があった。彼らは、日中韓の歴史研究者の間で研究会を立ち上げ、お互いに認められるような歴史教科書を作ろうと努力している。歴史のすり合わせの過程で1番の苦労は異国人同士のコミュニケーションなのだそうだ。翻訳の力量によって意味が違ってくるし、かといって英語を共通語として使えば、薄いコミュニケーションしかできなくなるとのこと。更に国内の大御所の多くは、英語が喋れないそうだ。

科学の世界では、誰が見ても一様になるよう安易な言葉で説明するのがいい。歴史も事象の表記に限定して、わかりやすい表現にすれば、簡単な英語でもコミュニケーションが取れるのではないかと私は言った。しかし歴史研究者が言うには、歴史表記には、因果関係の説明や細かいニュアンスを使った解釈等が必要なので、安易な言葉を使った歴史の表記は無理であるということだった。

歴史家は単純な事象をややこしくしているように思える。例えば日本の歴史表記においても、失敗したクーデターは「乱」、成功したクーデターは「変」としている。同じクーデターなのにややこしい。このような表現の複雑さを「日本語の奥ゆかしさ」とする人がいる。日本人の言う「奥ゆかしさ」とは私が台湾で接してきた中国人が言う中華的文化の「深奥、奥妙」と同一である。だからこれを言う人は多くの場合、他国文化への無理解があるように思える。このようなややこしい歴史表記も元を辿れば中国由来である。他の例を挙げると中国の歴史書では戦争について、戦、囲、入、滅、伐、侵、人を殺す事については殺、誅、弑、殲の表現がある。戦争について、戦、囲、入、滅、は文字通りで事象を表しているが、伐は悪者退治、侵は侵略で、主観的な表現となる。現在のシリア情勢を例にとってみれば、その複雑さから、立場によってどの関係国も伐にも侵にも表現されることがわかるのではないか。だからこそ歴史はできる限り安易な言葉で、且つ善悪感情を排除して記述すべきだと思う。

先の日中戦争を表現してみると、日本軍が中国に「出兵」したとなる。「侵略」や「征伐」などの主観的表現は不要である。また「出兵」と表記すれば、これまでの歴史の中の他国への出兵は「征伐」で、他国による自国への出兵が「侵略」となるような精神分裂状態から解放される。出兵の善悪については小学校一年生の時に先生から「先に手を出す人、武器を持込む人が悪い」と教わっているので、歴史学で改めて善悪を説く必要はない。解釈について多くの異見がある歴史事象については、双方の歴史学者が、証拠を検証して確証が得られる部分だけを記述し、異論ある部分は双方の意見を注釈して若い人に考えさせれば良い。

<葉文昌(よう・ぶんしょう)Yeh_Wenchang>
SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。

【2】マニラセミナーへのお誘い

下記の通り第20回日比共有型成長セミナーをマニラ市で開催します。参加ご希望の方は、事前に申込みフォームにてお申込み下さい。

第20回日比共有型成長セミナー
◆「人類生態学と持続可能共有型成長」
 “Human_Ecology_and_Sustainable_Shared_Growth”

日時:2016年2月10日(水)午前9時~午後5時
会場:アテネオ・デ・マニラ大学Escaler_Hall
言語:英語
問合せ:SGRAフィリピン [email protected]
申込み:申込みフォーム https://goo.gl/VRZUeh

◇セミナーの概要

グローバル市場経済が世界を席巻する今日、東南アジア諸国、特に中所得の罠(MIDDLE_INCOME_TRAP)に落ちてしまったフィリピンは著しい経済発展をとげる一方で社会的格差は増大し、環境破壊も止めどなく進行し、人権侵害や地域・民族間の紛争も解決の糸口さえ見えない状態に陥っている。植民地支配のくびきから解放され、国民国家形成の過程で、多様な民族、宗教、文化の統合に苦慮してきた東南アジア各国では、グローバリゼーションのもとでの社会環境の変化に対して、宗教的な価値観、倫理観に基づく批判や反発が生まれてきている。

最近、カトリック教会から貧富の格差の拡大や環境破壊を厳しく批判し、社会的公正と倫理の回復を求めるメッセージ(ENCYCLICAL_回勅)が発せられた。こうした公正と倫理の回復を求めるメッセージには、人類生態学(HUMAN_ECOLOGY)という概念が取り上げられているが、このセミナーを通して、この概念の意味や意義など理解するために、一歩を踏み出していきたい。

◇プログラム

発表1「スペインの哲学者レオナルド・ポロによる環境の概念や共存:持続可能性教育への含意」
発表者:Dr. Aliza_Racelis(University_of_the_Philippines)

発表2「防災力(レジリエンス)と持続可能性のためのメトロ・マニラの都市計画」
発表者:Arch/EnP.Sylvia_Clemente(University_of_Sto._Tomas)

発表3「パサイ市の旧干拓エリアにおける都市の衰退と貧困の指標との関係の評価」
発表者:Arch.Regina_Billiones

発表4「ベンゲット州(フィリピン)の主要民族部族のペドペド喫煙」
発表者:Ms.Girlie_Gayle_Toribio(Benguet State University)

発表5「カガヤン・デ・オロ盆地の経済価値」
発表者:Ms.Catherine_Almaden_and_Mrs.Marichu_Obedencio(Xavier_University—Ateneo_de_Cagayan)

発表6「生物濃縮:プラスチックのゴミの悲劇」
発表者:EnP.Grace_Sapuay(Solid_Waste_Management_Association_of_the_Philippines)

発表7「気候変動を理解する」
発表者:To_be_arranged_by_Arch.Mynn

発表8「スペインの植民地資本主義と福音伝道を超えて、フィリピンの教会遺産の評価へ」
発表者:Arch.Mynn_Alfonso(University_of_Sto._Tomas)

ランチタイム (ヘンリー・ジョージ氏に関するビデオの放映)
「ヘンリー・ジョージとは誰か」
「ヘンリー・ジョージ:人生と遺産」
「一般人のための政治経済学」

円卓会議
・モデレーター:Dr.Max_Maquito
・パネリスト:午前の部の発表者

詳細は、下記リンクをご覧ください。
・プログラム(和文) http://goo.gl/8mCMmz
・プログラム(英文) http://goo.gl/V1C3Su
・ポスター(英文) http://goo.gl/IQuKSQ
・申込みフォーム(英文) https://goo.gl/VRZUeh

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★☆★SGRAカレンダー
◇第20回共有型成長セミナー(2016年2月10日マニラ)
「人間生態学と持続可能共有型成長」<参加者募集>
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/network/2016/5691/
◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京)
「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください>
◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄)
「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/
発表論文の投稿は締め切りました。
◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中>
(2016年9月29日~10月3日、北九州市)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/
一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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