SGRAメールマガジン バックナンバー

[SGRA_Kawaraban] David Goginashvili “Some Thoughts about

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SGRAかわらばん576号(2015年7月9日)

【1】エッセイ: ゴギナシュヴィリ「イデオロギーをめぐる考え」
   〜『どんな人が一番嫌い?』という質問から得られた示唆〜

【2】レポート紹介:「科学技術とリスク社会」
   〜福島第一原発事故から考える科学倫理〜

【3】第7回SGRAカフェへのお誘い(7月11日東京)(当日参加OK)
「中国台頭時代の台湾・香港の若者のアイデンティティ」

【4】第49回SGRAフォーラムへのお誘い(7月18日東京)(再送)
「日本研究の新しいパラダイムを求めて」
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【1】SGRAエッセイ#465

■ダヴィド ゴギナシュヴィリ「イデオロギーをめぐる考え」
〜「どんな人が一番嫌い?」という質問から得られた示唆〜

ある飲み会で、「どんな人が一番嫌い?」 と聞かれた。「〇〇主義者」が一番嫌い
だと心の中で思ったが、そう答えても、相手が理解してくれないだろうと考えたた
め、反論を招かないように無難な回答をさがして、誰もが共感するであろう「裏表の
ある人が嫌いだ」という答えを選んだ。

理解してもらえないだろうと思った理由は、相手が日本人であり、私とは全く違う
バックグラウンドを持っていたからである。私は、長い間様々な「〇〇主義者」に
よって苦しめられてきたジョージアという国で生まれ育ったのだが、そのような経験
をしていない人間にとって「〇〇主義者が嫌いだ」というような発言は、すんなりと
理解できないのは当然であろう。

ここで、そのように答えたかった私の気持ちの背景、この質問が私に提起した問題、
そしてそこから導いた結論を説明したいと思う。

私が子供だった頃は共産主義者が人々の自由を抑圧しており、ソ連崩壊後は過激主義
者と分離主義者、そしてその分離主義者を後押ししていた隣国(ロシア)の帝国主義
者がジョージアを分断しようとしていたことが記憶に刻まれている。一方で、国を守
ろうとしていた愛国主義者(彼らは私の憧れであった)もいた。ただし、その愛国主
義者の中でも健全な愛国主義と偏狭な民族主義を区別できず、イデオロギーの名の下
で内戦に火をつける人も多かった。そういった「〇〇主義者」と呼称されていた人た
ちのせいで私の国は政治・経済的な危機、そして戦争に直面してしまった。当時の混
乱は、私と同じ世代のジョージア人なら誰もがよく覚えているはずだ。

21世紀に入ると、ジョージアは様々な改革を実施し、著しい発展を成し遂げたが、
「〇〇主義者」によって痛めつけられた傷は未だ国中に強く影響を残している。

大学生になって海外留学や海外旅行をしていたら、ジョージアでは見たこともない
様々な類の「〇〇主義者」に出会った。

例えば、アメリカの南部では白人至上主義者に襲われそうになったり(幸いに、私が
コーカス地域出身である、すなわち、英語で白人の人種を意味する「コーカソイド」
であると認められ、白くはない肌にもかかわらず見逃してくれた)、オーストリアの
ウィーン郊外のバスでは、ネオナチ主義者とトルコ人の殴り合いに巻き込まれそうに
なったり(何とか逃げ出すことができた)もした。また、ある時は、ネパールのカト
マンズのレストランで、私が共産主義の悪口を言っていたせいでレストランを出た途
端に、その話を聞いていた共産党毛沢東主義者の店員とその仲間に絡まれたこともあ
る(幸いにも話し合いで問題を解決できた)。

一方で、上述の人々とは違う、非暴力的な平和主義者の類の人々にも会ったこともあ
るが、当然そうした「〇〇主義者」に対しては決して嫌悪を感じない。しかし、残念
ながら平和主義のようなイデオロギーは極めて観念的、かつ非現実的な思想に基づい
ており、暴力的な現実から目をそらすことによって、むしろ間接的に悪の繁栄を促進
しているのではないかという疑問が生じる。イギリスの哲学者ジョン・スチュアー
ト・ミルが書き残したように、「悪人が成功を遂げるために必要なたった一つのこと
は、善人が黙視し、何もしないことである」(注)

まさに現代の世界では、いわゆるジハード主義者のボコ・ハラムやイスラム主義者の
組織と呼ばれるISILが拡大し続けているし、または神政主義者と言われているジョゼ
フ・コニーが未だに子供を誘拐して、少年兵として利用している。このような事態を
許している主な原因の一つには、国際社会がそれらの被害者の叫び声に十分に耳を傾
けていないことである。

この21世紀においても人間は、宗教またはイデオロギーの名の下に、心の中にある悪
を養い、人道に対する罪まで犯している。それにもかかわらず、この悪を阻止できる
はずのアクターは、利己主義または平和主義の名の下で介入を回避しているという現
実に鑑みると、「〇〇主義者が嫌いだ」という私の答えはもはや不自然ではないだろ
う。

しかし、上述の問題を生み出している原因をイデオロギーや宗教に求めるという考え
は完全に間違っている。イデオロギーや宗教は、憎しみが生まれ育ちやすい周囲の教
育や社会環境が存在する条件下において、偏狭な考えしか持ち合わせない人々により
「憎しみを養うためのツール」として利用されているに過ぎない。つまり、問題の根
源は人間の心の中に潜んでいる憎しみであり、その感情に対してはいかなる餌も与え
てはいけないのだ。

以上のような考察を経た後で、「〇〇主義者が嫌いだ」という私自身の意見をもう一
度よく考えてみると、私が間違っていたことに気がつく。つまり「嫌いだ」とずっと
思い続けていたことこそが間違っていたのではないか。なぜなら憎しみは「さらなる
憎しみ」しか生み出さないからである。

*筆者の訳。原文は下記の通りである:”Bad men need nothing more to compass
their ends, than that good men should look on and do nothing”.
出所:Mill, John Stuart, Inaugural Address Delivered to the University of
St. Andrews, London: Longmans, Green, Reader, and Dyer, 1867, p. 36.

<ダヴィッド ゴギナシュビリ David Goginashvili>
渥美国際交流財団2014年度奨学生 グルジア出身。慶応義塾大学大学院政策・メディ
ア研究科後期博士課程。2008年文部科学省奨学生として来日。研究領域は国際政治、
日本のODA研究。

【2】SGRAレポート第71号紹介

SGRAレポート第71号を発行しました。本文は下記リンクよりダウンロードしていただ
けます。既にSGRA賛助会員と特別会員にはお送りしましたが、冊子本をご希望の方は
SGRA事務局にご連絡ください。

http://www.aisf.or.jp/sgra/active/report/2015/3132/

第47回SGRAフォーラム講演録
■「科学技術とリスク社会〜福島第一原発事故から考える科学倫理〜」
2015年5月25日発行

<もくじ>
【問題提起】
崔 勝媛(チェ・スンウォン)理化学研究所研究員

【対談】
モデレータ:エリック・シッケタンツ 東京大学大学院人文社会系研究科特別研究員

【対談1】島薗 進(しまぞの・すすむ)上智大学神学部教授
「今のリスク社会と科学技術に欠けているもの−原発事故後の放射線健康影響問題か
ら−」

【対談2】平川秀幸(ひらかわ・ひでゆき)大阪大学コミュニケーションデザインセ
ンター教授
「科学の『外』の問いをいかに問うか−科学技術とリスク社会:福島原発事故から考
える−」

【オープンディスカッション】
ファシリテータ:デール・ソンヤ 上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科特
別研究員
参加者:島薗 進、平川秀幸、会場参加者

【3】第7回SGRAカフェへのお誘い(当日参加も歓迎です!)

SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まり
いただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回は、
「SGRAメンバーと話して世界をもっと知ろう」という主旨で、台湾から来日する林泉
忠さんのお話を伺います。準備の都合がありますので、参加ご希望の方は、事前に、
SGRA事務局へお名前、ご所属、連絡用メールアドレスをご連絡ください。

■ 林 泉忠「中国台頭時代の台湾・香港の若者のアイデンティティ」
      〜『ひまわり』と『あまがさ』の現場から〜

日時:2015年7月11日(土)14時〜17時

会場:寺島文庫Cafe「みねるばの森」
http://terashima-bunko.com/bunko-cafe/access.html

会費:無料

お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局  [email protected]

講師からのメッセージ:

2001年、私は、近現代における「中心⇔辺境」関係の変遷に着目し、共に「帰属変
更」という特殊な経験をもつ台湾、香港、沖縄において出現したアイデンティティの
ダイナミズムに、「辺境東アジア」という概念を提出して説明した。興味深いこと
に、この3つの「辺境」地域はいずれも2014年において「中心」に対して再び激しい
反発とアイデンティティの躍動を見せている。今回のSGRAカフェでは、「中国の台
頭」という新しい時代を迎えるなか、なぜ台湾と香港では「ひまわり」と「あまが
さ」という若者中心の市民運動がそれぞれ起きたのか、変化する台湾と香港の若者の
アイデンティティと彼らの新しい中国観についてお話しします。

<林 泉忠 John Chuan-Tiong LIM>
台湾中央研究院近代史研究所副研究員、国際政治学専攻。2002年東京大学より博士号
(法学)を取得、琉球大学法文学部准教授、またハーバード大学フェアバンク・セン
ター客員研究員などを歴任。2012年より現職。著作に『「辺境東アジア」のアイデン
ティティ・ポリティクス:沖縄・台湾・香港』(単著、明石書店、2005年)。

【4】第49回SGRAフォーラムへのお誘い(再送)

下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご
所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。SGRAフォーラムはどなたにも参加
していただけますので、ご所属のメーリングリスト等で宣伝をお願いいたします。

テーマ:「日本研究の新しいパラダイムを求めて」

日時:2015年7月18日(土)午前9時30分〜午後5時

会場:早稲田大学大隈会館 (N棟2階 201、202号室)
   http://www.waseda.jp/somu-d2/kaigishitsu/#link7

参加費:無料
使用言語:日本語
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局  [email protected]

◇フォーラムの趣旨

渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)は、2014年8月にインドネシア・バ
リ島で開催した第2回アジア未来会議において、円卓会議「これからの日本研究:学
術共同体の夢に向かって」を開催した。この円卓会議に参加したアジア各国の日本研
究者、特にこれまで「日本研究」の中心的役割を担ってきた東アジアの研究者から
「日本研究」の衰退と研究環境の悪化を危惧する報告が相次いだ。

こうした状況の外的要因として、アジア・世界における日本の国際プレゼンスの低下
と、近隣諸国との政治外交関係の悪化が指摘されている。一方では東アジアの日本研
究が日本語研究からスタートし、日本語や日本文学・歴史の研究が「日本研究」の主
流となってきたことにより、現代の要請に見合った学際的・統合的な「日本研究」の
基盤が創成されていないこと、また各国で日本研究に関する学会が乱立し、国内のみ
ならず国際的な連携を図りづらいこと、などが内的要因として指摘されている。

今回のフォーラムでは、下記の4つのテーマを柱とした議論を行い、東アジアの「日
本研究」の現状を検討するとともに「日本研究の新しいパラダイム」を切り開く契機
としたい。

1.東アジアの「日本研究」の現状と課題、問題点などの考察
2.アジアで共有できる「公共知」としての「日本研究」の位置づけ及び「アジア研
究」の枠組みの中での再構築
3.「アジアの公共知としての日本研究」を創成するための基盤づくりと知の共有の
ための基盤づくり、国際研究ネットワーク/情報インフラの整備等の構想
4.日本の研究者、学識者との連携と日本の関係諸機関の協力と支援の重要性

詳細は下記リンクをご覧ください。
http://goo.gl/5xYAie

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● SGRAカレンダー
○第7回SGRAカフェ
「中国台頭時代の台湾・香港の若者のアイデンティティ」
(2015年7月11日東京)<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3240/
○第49回SGRAフォーラム
「日本研究の新しいパラダイムを求めて」
(2015年7月18日東京)<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3144/
★☆★第3回アジア未来会議 
(2016年9月29日〜10月3日、北九州市)<論文(要旨)募集中>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/
奨学金・優秀論文賞の対象となる論文(要旨)の投稿締め切りは2015年8月31日で
す。
一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来に
ついて語る<場>を提供します。

●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員
のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読
いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。
● 登録および配信解除をご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。
● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。
● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務
局より著者へ転送します。
● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。
● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ
けます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11

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