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[SGRA_Kawaraban] Hu Yanhong “About Superstition”

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SGRAかわらばん573号(2015年6月18日)

【1】エッセイ: 胡 艶紅「『迷信』をめぐって」

【2】新刊紹介:彭 浩「近世日清通商関係史」
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【1】SGRAエッセイ#462

■ 胡 艶紅「『迷信』をめぐって」

2006年に来日してから、あっという間に8年が経ちました。日本に留学した感想につ
いては、様々な面から述べることができますが、私は日本で民俗学を専攻しましたの
で、民俗学を勉強してからの自分自身の変化や感想を述べたいと思います。

日本に来て民俗学を選んだ時には、衣食住などの習俗に関する面白いことを研究する
学問としか考えていませんでした。ところが、研究生として筑波大学で民俗学専門の
ゼミに参加してみると、ゼミでよく議論されていたのは、衣食住などの習俗ではな
く、人々の日常生活に関わる民間信仰でした。しかし、中国で無神論の教育を受けて
きた私にとって、ゼミで聞いた信仰の話は体系的な宗教ではなく、中国で「迷信」と
呼ばれるものでした。

日本に来る前までは「迷信」に対して強い抵抗がありました。私が大学一年生の時、
祖母が癌に罹りました。病院で治療しても治らなかったので、祖母は大金を惜しま
ず、儀式を行って病気を治療する民間の宗教職能者に頼もうとしました。当時、無神
論の教育を受けていた私はそれに大反対しました。お金を無駄にするということが理
由の一つでしたが、自分の家族がこうした「迷信」的な行為をすることをとても恥ず
かしく思ったということもありました。結局、宗教職能者が招かれ、儀式が行われま
した。その日、本来ならベッドで横になっていた祖母を看護すべきだったのですが、
私は祖母に対して不満の言葉を吐いて、家を出てしまいました。そのため、祖母の心
を傷つけてしまいました。間もなく、祖母の病気は重くなり、そして亡くなりまし
た。

そのようなことから、こうした「迷信」が日本民俗学で議論され、研究されるほどの
価値が一体どこにあるのか、当時は疑問を持ち、自分が選んだ道に対して戸惑いも覚
ました。しかし、柳田國男が唱える民俗学の目的の一つに、人々の心意現象を明らか
にすることがあるのを知り、約2年にわたる民俗学の勉強を経て、私は民俗学に対す
る理解を深め、こうした「迷信」を研究する価値も徐々に理解していきました。つま
り、「迷信」の背後には、人々の考えや思いが潜んでおり、そこから地域の深層文化
を読み取れるということです。これは文化研究に対して大きな意義を持っています。
文化の差異の最も根底にあるのは、人々の考えや思いです。こうした認識を持つこと
により、私の修士論文のテーマも飲食文化から水神信仰に変りました。

日本で「迷信」について勉強して、日本人や日本文化に対する理解が深まりました。
同時に、こうした「迷信」に関する研究にも興味を持つようになりました。一方、中
国における「迷信」をめぐる事情についても考え始めました。すると、もう一つの疑
問が浮かび上がりました。それは、私の周りにも私の家族にも「迷信」への関わりが
頻繁に見られるにも拘らず、なぜ私は、以前はそれに対して強い抵抗があり、全く関
心を持つことがなかったのだろうか。なぜこうした有意義な研究が中国であまり行わ
れていないのだろうか。私は、こうした疑問を持って博士課程に進学し、「迷信」に
よる行動を盛んにとっている中国の漁民を研究対象として選びました。

研究の過程で、私は「迷信」的な行動を盛んにとる中国の漁民の考え方を次第に理解
できるようになりました。なぜ私が当初「迷信」に対して強い抵抗があったのかもよ
くわかるようになってきました。そして、臨終の祖母の心を理解できず、不満の言葉
を吐いた当時の私を思い出して、後悔の気持ちでいっぱいになりました。

日本での留学を通して、様々な収穫がありましたが、最も大きな収穫は、むしろこう
した日本人・日本文化を理解することによって、自分自身、自国の制度や文化を見直
せたことだと考えています。

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<胡 艶紅(こ・えんこう)Hu Yanhong>
2006年来日。2010年3月筑波大学人文社会科学研究科 国際地域専攻修士課程修了。
同年4月同研究科 歴史・人類学専攻一貫制博士課程編入、2015年7月同課程修了見込
み。専門は、東アジア歴史民俗学。主要論文「現代中国における漁民信仰の変容」
(『現代民俗学』4)。
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【2】新刊紹介

SGRA会員で東京大学資料編纂所特任研究員の彭浩さんから、新刊書をご寄贈いただき
ましたので、ご紹介します。

■ 彭 浩「近世日清通商関係史」

発行所:東京大学出版会
発行日:2015年05月20日
判型:A5, 328頁
ISBN 978-4-13-026240-8

○内容紹介

徳川幕府・清朝双方の貿易政策を分析し、国交もなく交渉すら欠如するなかでいかに
長崎貿易を維持することができたのかを描きだす。信牌システム論、幕府の唐船対
策、さらには中国における商人組織化という視点から日中双方の史料を読み解き、東
シナ海域の国際秩序および東アジア国際関係の再構築を試みる。

○あとがきより

経済・社会のグローバル化が進んでいる今日、国民国家の限界をどのように克服すべ
きかは、政治家だけではなく、日中両国の国民全体が直面している課題となってい
る。領土問題や歴史問題については、断片的な資料を見て物事の是非を判断するので
はなく、歴史研究のように、問題の背景及び経緯を広く見る意識があれば、より冷静
な態度をとるようになり、自ずと解決策も生まれてくると、私は信じている。本書の
研究対象でもある信牌には「永以為好」という印文があり、それは永遠に友好関係を
持つようにという意味が込められている。それこそは私が希うところである。

詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-026240-8.html

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● SGRAカレンダー
○第4回SGRAワークショップin蓼科
(2015年7月4日〜5日)<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3137/
○第7回SGRAカフェ
「中国台頭時代の台湾・香港の若者のアイデンティティ」
(2015年7月11日東京)<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3240/
○第49回SGRAフォーラム
「日本研究の新しいパラダイムを求めて」
(2015年7月18日東京)<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/3144/
★☆★第3回アジア未来会議 
(2016年9月29日〜10月3日、北九州市)<論文(要旨)募集中>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/
奨学金・優秀論文賞の対象となる論文(要旨)の投稿締め切りは2015年8月31日で
す。
一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来に
ついて語る<場>を提供します。

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