SGRAメールマガジン バックナンバー

[SGRA_Kawaraban] Li Ting “Chewing Gum Given by an Old Man”

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SGRAかわらばん566号(2015年4月30日)

【1】エッセイ:李てい「知らないおじいさんからもらったガム」

【2】新刊紹介:日本留学叢書第2巻「跨越疆界:留学生と新華僑」

【3】第5回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(最終案内)
  「日本研究から見た日台交流120年」(2015年5月8日、台北)
  
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【1】SGRAエッセイ#458

■ 李 てい「知らないおじいさんからもらったガム」

主人と娘が東京に会いに来た時の話である。

ある日、家族3人で電車に乗って、東京の郊外へ遊びに行くことにした。もともとす
いている路線の各駅停車だからか、平日の昼だからか、電車はガラガラだった。乗客
はみんなうまい具合に他人とスペースを残して、ゆったりと座席にすわっていた。郊
外へ行けば行くほど、車窓から広がる景色が綺麗になり、それを楽しみながら親子の
会話を楽しんで、すっかり観光気分になっていた。

どこからか、80代くらいのおじいさんがやってきて、ポケットから何かを取り出しな
がら、「何もないけど、どうぞ」と言って、目の前に差し出してくれた。私は反射的
に「あっ、ありがとうございます」と言って、軽くお辞儀をしながら、目の前に渡さ
れた何かを両手で受け取った。受け取った後になって、自分でも不思議に思った。包
装紙もきちんとしており、LOTTEの字もはっきりしていて、すぐガムだと確認でき、
無意識に主人に一つ渡した。すると、おじいさんは空いている席がいくらでもある電
車の中で、なぜか私のすぐ隣に座り込んでしまった。

日本語の分からない主人から、中国語で、小声で「知り合い?」と聞かれ、私は「知
らない」と答えた。また、驚きを抑え「口に入れるなよ」と更なる小声で言われ、
「大丈夫」と答えた後、手本を見せるかのようにガムを口に入れた。集中力を全部口
の中に凝らしてみると、何も変な味はしなかった。驚きと疑いを隠して、冷静を装い
ながらも、なんでガムをくれるんだろう、と心の中は無数のハテナが舞い上がってい
た。文字にすると、やや長めに感じるが、実際は本当に一瞬の出来事だった。

「どちらへ?」と隣に座ったおじいさんが再び口を開き、気まずい沈黙を破った。最
初は警戒心が捨てられず、聞かれたら答え、相槌は打つが自ら話題を出さない聞き手
に徹していたが、いつの間にか会話が弾んでいることに気づいた。私達が中国から来
たのだと聞いて、おじいさんは中国語の「ニーハオ」で主人と娘に挨拶したり、娘は
中国から持ってきたおやつを自分のリュックから取り出して、おじいさんにあげたり
もした。おじいさんが降りる駅に到着したので、「じゃあ、日本を楽しんでくださ
い」との言葉を残して電車を降り、ホームで手を振ってくれた。

ガムをもらってよかったなあと、まだ喜んでいる中、「ママ、知らない人と話すなっ
て言ったじゃん。人様のものまで食べちゃって。」と娘に指摘され、答えに詰まっ
た。

本来、飴や果物などを誰かに渡すのは、好意を示すサインであり、話したい意思表示
であり、交流のきっかけを作る極めて一般的なコミュニケーション行為である。しか
し、こうした行為は、現代社会において、たとえ好意であっても不審に思われがち
で、時には人に迷惑をかけ、人を困らせる行為にもなってしまう。都市化が進むにつ
れて人口密度が上昇し、人と人の物理的距離が限りなく近くなってきているにもかか
わらず、人と人の心理的距離が限りなく遠くなってきて、心の砂漠化とも言われてい
る。人々は他人の世界には入ろうとせず、自分の世界にも入ってこられないように、
目に見えない厚い壁を作って、黙々と自分のことをこなそうとしている。さらに、詐
欺や誘拐などに脅かされて、人間不信が蔓延するのも当然のことのようになってい
る。知らない人と話してはいけない、知らない人から物をもらってはいけない、知っ
ている人の話も信じてはいけないなど、家族や自分自身を守るための信条となってし
まい、次世帯へ押し付け、引き継がせていこうとする。

もっともこれは、毒りんごを食べた白雪姫の童話でわかるように、どうも現代社会だ
けの問題でもなさそうだ。険しい世の中というのは、いつの時代だって、どこの国
だって、変わりはしないものかもしれない。とはいえ、いつまでも神経を尖らせ、心
を閉じたまま人と接し、びくびくしながら毎日を送る必要もない。たまには、自分の
心を開いてみたり、人の心の扉を叩いてみたりして、他人との関わりの中で、人生を
楽しもう。

知らないおじいさんからガムを渡され、そしてそれを素直にもらったことがきっかけ
で、楽しい会話ができたのは、私にとって初めての経験であり、今後2度も3度もある
とは考えにくい。なぜ私達のところにやってきたのか、なぜガムを渡してくれたの
か、そして、なぜ迷いもせずにそのガムをもらって口に入れたのかなど、謎は未だに
解けないままである。

謎は謎のままでいい。心の温まる思い出を作ってくれた名前も知らないおじいさん
に、そして、その好意を素直に受け止めたその時の自分にも、感謝したいと思う。

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<李 ?(り・てい)Li Ting>
早稲田大学大学院日本語教育研究科博士後期課程在籍。中国の曲阜師範大学で日本語
教員として4年間教鞭をとり、2009年キャリアアップのため来日。
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【2】新刊紹介

日本華人教授会議よりSGRA会員の李恩民さんと王雪萍さんが編纂に携わった本をご寄
贈いただきましたので、ご紹介します。

■日本留学叢書第2巻「跨越疆界:留学生と新華僑」

http://scpj.jp/?p=1710

主編:廖赤陽
副編:李恩民、王雪萍
出版社:社会科学文献出版社・全球と地区問題出版中心
出版日:2015年1月
原語:中国語
ISBN 978-7-5097-5047-6

本叢書は、改革開放以降の時代を中心に、中国人の日本留学の現状とその歴史を研
究・紹介する初の叢書です。第一巻は、改革開放以降の政策転換及び出国の過程に焦
点を合わせていますが、第二巻は、在日留学及びそれに伴う日本華僑社会の新しい変
化を捉えるものです。留学生史、華僑史、日中関係史、ないし東アジア地域における
人・もの・文化・情報のトランスナショナル的な移動と交流など、幅広い課題を網羅
する叢書となりました。

【3】第5 回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(最終案内)

下記の通り第5回日台アジア未来フォーラムを開催します。参加ご希望の方は、事前
にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。

■テーマ:「日本研究から見た日台研究120年」

日時:2015年5月8日(金)午前9時00分〜午後6時30分

会場:国立台湾大学文学院演講庁20番教室/会議室

お申込み・問合せ:SGRA事務局
電話:03-3943-7612
Email:sgra-office@aisf.or.jp

●詳細は下記リンクよりご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/5120.php

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● SGRAカレンダー
○第5回日台アジア未来フォーラム(2015年5月8日台北)
「日本研究から見た日台交流120年」
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/5120.php
○第4回SGRAワークショップin蓼科
(2015年7月3日〜5日)
○第49回SGRAフォーラム
「日本研究の新しいパラダイム」
(2015年7月18日東京)<ご予定ください>

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