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[SGRA_Kawaraban] Aingeru Aroz-Rafael “Nation and Identity”

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SGRAかわらばん555号(2015年2月11日)
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SGRAエッセイ#448

■アロツ=ラファエル アインゲル「国とアイデンティティ:自分の居場所はどこ
か」

多くの人は、自分が何人であるかについて話す時、つまり「私は日本人です」、「私
はスペイン人です」と言う時、おそらく何の違和感、疑問を感じないだろう。ただ
し、私たちが「私は日本人です」、「私はスペイン人です」と言う時、自らの客観
的、正式的、パスポートに書いてある国籍を指しているだけではなく、自分がある
国、あるコミュニティーへの帰属意識、いわば自分のアイデンティティの一側面を表
現してもいると言えよう。

私は留学がきっかけで、自らの国・国籍とアイデンティティについてしばしば考える
ようになった。そして、この課題についての私の考え方は留学によって大きく変わっ
た。本稿では、私の考え方がどう変わったかを説明するために、まず私の背景につい
て、次に10年以上前に初めて留学することによって私の観点がどう展開したかを、そ
して最後に国とアイデンティティについての現在の私がどのような立場であるかを述
べたい。

私はスペイン北部にあるバスク地方で生まれ育ち、22歳までバスク地方の最大の都
市、ビルバオに住んでいた。バスク地方ではスペイン語と違う言語が話されており、
また、その歴史・社会構造・経済構造の面からも他のスペインの地方との相違点が多
く、バスク人の一部はスペインからの独立を願っている。このような複雑な地域で
は、「あなたは自分をバスク人と考えていますか、スペイン人と考えていますか」と
いうような質問を問いかけられることがよくある。しかも、バスク地方では、自分を
スペイン人かバスク人かと認識することは、自分の家系や母語とは直接関係なく、む
しろ自身の政治的立場や感情と深くかかわっている。例えば、自分の家族がスペイン
の他の地方の出身であって、自分の母語がスペイン語であっても、自らをスペイン人
でなくバスク人と考える人もいれば、家族がバスク地方出身であり、バスク語を母語
とする人で自らをスペイン人と考える人もいる。

私自身は、バスク地方に住んでいた時、自信をもって「私はスペイン人ではなく、バ
スク人である」と言うことができた。それは、バスク地方以外の地域に対して何らか
の抵抗を感じていたからではなくて、むしろバスク地方の独自性、いわばユニークさ
に一種の愛着を持っていたからであり、また、私の周りの人々、つまり家族や友だち
が同様な観点を持っていたからであった。

しかし、私は22歳の時にイタリアのボローニャ大学に留学することになり、初めてバ
スク地方ではない国で生活し、また、バスク地方以外のスペインの各地方やヨーロッ
パの各国から来た友だちができることによって、私が、自分自身が、バスク人である
ということの意味を深く考え直すことになった。バスク地方に住んでいた時の私はバ
スク地方の特殊性、スペインの他の地域との相違点などを重視していたのに対して、
イタリアで生活を始めた当時の私にとっては、相違点というより、むしろスペインの
他の地域やヨーロッパ各国との共通点の重要性がわかるようになった。したがって、
私はイタリアで国籍を聞かれた時、だんだん違和感を持たずに「スペイン人です」と
答えるようになり、かつ、自分をバスク人だけと考えていた以前の私の立場を排他的
で度量の狭い立場のように見るようになった。そうして私は、「バスク人」「スペイ
ン人」というような名称が自分の背景をある程度説明していることを理解すると同時
に、自分にとって実際それらの言葉にたいした意味がなくて、自分のアイデンティ
ティとしてはむしろヨーロッパ人としてのアイデンティティがもっと重要なのではな
いかと考えるようになった。なぜなら、ヨーロッパという概念からは、国境を超えた
豊富な歴史を背景としながら、多様で充実した社会を目的とする民主主義的プロジェ
クトを構築していくことができると考えたからであった。

しかしながら、私は2007年に、ヨーロッパから離れて日本に留学することになり、自
分の立場をあらためて考えることになった。イタリアに留学することによって私の視
野が広くなったと同じく、はじめてヨーロッパ以外の国で生活し、日本およびアジア
各国から来た友だちができ、実際に人間同士をつなげるものは共通の文化的背景など
ではなく、むしろ価値観、世界観であることがはっきり分った。

こうして、日本に留学することによって、私のバスク人、スペイン人、ヨーロッパ人
としてのアイデンティティが、いったいいかなるものであるかをふたたび反省するこ
とになり、国とアイデンティティについて、より明確に考えるようになった。つま
り、国とアイデンティティの間の関係において二つの側面を区別することができると
思う。一方では、「私はスペイン人です」、「私は日本人です」などの表現によっ
て、私たちがどこから来ているか、どこで育ったかを説明しているのであって、例え
ば私の個人的な場合に、やはり私がバスク人であること、スペイン人であること、
ヨーロッパ人であることのそれぞれが、私の背景、いわば私の個人的な歴史を語って
いると言えると思う。他方では、「私はスペイン人です」「私は日本人です」などの
表現が、ある国、あるコミュニティーへの帰属意識を表しており、すなわち自らがど
こから来たかだけを表すというより、むしろ自らがどこに帰属したいか、どこを自分
の居場所にしたいかということを表していると思う。この二つ目の側面は、一つ目の
側面より自由であり、個人が各々の人生において、様々な経験を重ねるにつれて、変
わっていくことが可能であろう。

留学生として日本で7年間生活してきた私は、自分がバスク人、スペイン人、ヨー
ロッパ人であるということが、上述したように私のある重要な側面を捉えていると思
う。なお、上記の二つ目の側面については、つまり私がどこに帰属したいか、どこを
私の居場所にしたいか、「何人でありたいか」と聞かれるとしたら、バスク地方はも
ちろん、スペインやヨーロッパももはや狭すぎて、ありふれたひびきのある言い方で
あろうが、おそらく私の居場所が世界、地球であり、私が帰属したいコミュニティー
は各国の狭い国境を超えた世界の市民のコミュニティーであると答えるしかないであ
ろう。

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<アロツ=ラファエル アインゲル Aingeru Aroz-Rafael>
2005年Deusto大学文学部歴史学科卒業(ビルバオ、スペイン)。2008年マドリード自
治大学学部東アジア学科卒業。2008年同大学マドリード自治大学大学院哲学研究科比
較文学専攻修士課程修了。2003年ボローニャ大学留学(イタリア)。2007年上智大学
留学。2007年平和中島財団奨学生。2008年?2012年国費留学生。2013年渥美財団奨学
生。研究関心は近代日本哲学史、近代日本言語学史・国語学史・人文科学史、言語哲
学。現在、東京大学大学院学際情報学府博士後期課程。

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