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[SGRA_Kawaraban] Maquito “Manila Report @ Chicago”; Husel “Ulaanbaatar Symposium #7 Report”

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SGRAかわらばん538号(2014年10月8日)

【1】エッセイ:マキト「マニラレポート@シカゴ:資本主義の多様性」

【2】活動報告:フスレ「第7回ウランバートル国際会議報告」
       『総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争』
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【1】SGRAエッセイ#425

■マックス マキト「マニラレポート@シカゴ:資本主義の多様性」

SGRAの共有型成長セミナーとテンプル大学ジャパンから支援を受け、2014年7月10日
から12日までシカゴ大学とノースウェスタン大学で開催された国際学会に参加した。
この会議は、フランスに本拠を置く「社会経済学の推進協会(SASE)」という学際的
な学会により「資本主義の基礎」というテーマで主催され、僕の研究やSGRAの学際的
な方針と合いそうなので、大変忙しい日程にもかかわらず参加を決めた。大変という
のは、テンプル大学ジャパンはまだ夏学期中だったので、その合間をぬって東京とシ
カゴを4日間で往復するというハードな日程のことだ。久しぶりのアメリカだし、長
い空路では放射能を多めに浴びるし、移民した家族や、幼いころの友人たちに再会で
きるので、行くとしたらもう少しのんびりしたかったのだが、今回は無理だった。

僕の発表は、国士舘大学の平川均教授(名古屋大学名誉教授)と共同で2年前に実施し
たフィリピン企業の調査報告に基づいて、「共有型成長のDNAの追求:フィリピンの
優れた製造企業の調査」というタイトルの論文だった。共有型成長というのは、経済
が成長しながら格差が縮む発展パターンであり、1993年に世界銀行が発表した「東ア
ジアの奇跡」という報告によれば、日本を含む8か国/地域の東アジア経済が戦後の数
十年間に実現したものとされている。

SASEのシカゴ会議は、25を超える研究ネットワークに属する800人ぐらいの参加者で
構成されていた。僕は「アジア資本主義」という研究ネットワークに参加することに
した。発表の前半では、この研究のきっかけともなった「東アジアの奇跡」報告から
僕が得た2つのビジョンを説明した。後半には、数年間をかけて共有型成長のDNAとい
うべきものを追い求めた最新の研究結果を発表したが、長すぎるのでこのエッセイで
は省略する。

第1のビジョンは、「共有型成長経済学」である。経済学では、2つのことを主な目標
としている。効率性(EFFICIENCY)と公平性(EQUITY)である。その他にも目標とすべき
ものもあるが、今回は、共有型成長の話なので、この2つを取り上げる。共有型成長
経済学は、今の主流とされている新古典派経済学(市場万能主義)と同様に、市場の大
事な役割を否定してはいないが、新古典派より政府の戦略的な産業政策を重要として
いる。効率性を重視しがちの新古典派より、効率性と公平性を同等に重視していると
いえるだろう。近代経済学でよく言われるように、効率性と公平性の間にはトレード
オフがあり、一方を重視すると、もう一方が犠牲になる。(1回目の)冷戦中の国際
対立国を事例とすれば、公平性を重んじた旧ソ連と中国の経済成長の方が最初はよ
かったが、結局低迷してしまい、市場経済への移行を決めた。一方、米国は効率性を
重んじて、国として最大のGDPを生み出したが、格差が大きな課題になっている。

*1回目の冷戦が終結したのは1980年代だったが、現在2回目の冷戦が発生しようとす
るところだと僕は思う。間違っていたら嬉しい。

第2のビジョンは、「共有型成長資本主義」である。こちらはもう少し政治的な色が
濃い。(1回目の)冷戦終結後、国際的な対立は、市場経済VS中央計画経済から、資本
主義VS資本主義という次元に焦点が転換した。そのバトルの1つは、アングロ・アメ
リカが強調するA型資本主義であり、もう1つは日本が強調したJ型資本主義であっ
た。冷戦の勝利は資本主義にあるという宣言から、A型資本主義が津波のように世界
中に襲来したが、防波堤で防ごうとした国の1つが日本だった。「東アジア奇跡」報
告は、日本が自ら行った、資本主義の中に多様性を保全しようとする活動だったと見
なしても過言ではない。

残念ながら、この「東アジアの奇跡」やその2つのビジョンは、この数年間忘れられ
ている。経済成長または効率性が過剰に強調され、日本でさえも格差が広がって、
OECD諸国のなかでも貧困率が高い国になってしまった。

これでは、日本経済への関心が更に薄れて行く。日本経済を研究する人がいなくな
る。シカゴの学会の「アジア資本主義」研究ネットワークでも、名前を「中国資本主
義」に変えてもいいぐらい中国の研究が支配的だった。日本の共有型成長の経験と違
い、中国では、目覚ましい成長を遂げているが、格差が拡大している。それを幾ら僕
が指摘しても、日本の研究者を含めて「西側」の研究者は中国の資本主義に魅了され
ており、日本の資本主義に比較的無関心だという印象を受けた。日本企業を含めて欧
米の企業が、中国の市場に魅了されて、他の国に全く関心を向けなかったのと同様の
光景だった。どちらかというと、中国の研究者のほうが、日本の資本主義に興味を見
せていた。いずれにせよ、僕は、これからも、この学会で、日本の独自性を出来る限
り発揮させていきたい。幸い、来年のSASE学会のテーマはまさに「公平性」であるの
で、今から作戦を練って準備しておきたい。

SGRA設立当初、「日本の独自性」という研究チームのリーダーを務めたことがある。
狙いはもちろん「多様性の中の調和」である。A型資本主義にせよ、J型資本主義にせ
よ、C型資本主義にせよ、それぞれに欠点があり、完璧なものではない。というか、
完璧な資本主義はこの世の中にどこにもなく、これからも出てこない。ただ、多様性
を無くすのは、自然界ではもちろん、社会システムでも危険な行為だと、僕たちは認
識しなければならない。

第2回アジア未来会議のテーマ「多様性と調和」を達成するには、少なくとも2つの原
理が不可欠であると思う。1つは、GDPや一人当たりGDPや人口などと関係なく、どん
な小さな国でも、尊重すべきだという原理である。もう1つは、過剰な競争より国と
国の間の協力を促す原理である。一見当たり前な原理だが、政府や企業や研究者など
が意外と見落としているところである。僕は、SGRAのような民間の非営利・非政府団
体に期待している。みなさん、しっかりと多様性の中の調和を実現させましょう。

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<マックス・マキト ☆ Max Maquito>
SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表。フィリピン大学機械
工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)
産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学CRCの研究顧問。テ
ンプル大学ジャパン講師。
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【2】活動報告

■ボルジギン・フスレ「第7回ウランバートル国際シンポジウム『総合研究——ハル
ハ河・ノモンハン戦争』報告」

2014年は、ハルハ河・ノモンハン戦争後75年にあたる。これを記念して、モンゴルと
ロシアで、さまざまな記念行事やシンポジウムがおこなわれた。そのなか、モンゴル
国立大学モンゴル研究所とモンゴルの歴史と文化研究会主催、渥美国際交流財団助
成、在モンゴル日本大使館、モンゴル・日本人材開発センター、ハル・スルド モン
ゴル軍事史研究者連合会、モンゴル国立大学プレス・パブリッシング社後援の第7回
ウランバートル国際シンポジウム「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」が8月
9、10日にウランバートルで開催された。

謎に満ちたハルハ河・ノモンハン戦争は歴史上あまり知られていない局地戦であった
にもかかわらず、20世紀における歴史的意義を帯びており、太平洋戦争の序曲であっ
たと評価されている。1991年、東京におけるシンポジウムによって研究は飛躍的に進
み、2009年のウランバートル・シンポジウム(SGRAとモンゴル国家文書管理総局、モ
ンゴル科学アカデミー歴史研究所共催)ではさらに画期的な展開をみせた。しかし、
国際的なコンテキストの視点からみると、これまでの研究は、伝統的な公式見解のく
りかえしになることが多く、解明されていない問題が未だ多く残されている。立場や
視点が異なるとしても、お互いの間を隔てている壁を乗りこえて、共有しうる史料に
基づいて歴史の真相を検証・討論することは、歴史研究者に課せられた使命である。
そのため、私たちは今回のシンポジウムを企画した。

本シンポジウムは、北東アジア地域史という枠組みのなかで、同地域をめぐる諸国の
力関係、軍事秩序、地政学的特徴、ハルハ河・ノモンハン戦争の遠因、開戦および停
戦にいたるまでのプロセス、その後の関係諸国の戦略などに焦点をあて、慎重な検討
をおこないながら、総合的透視と把握をすることを目的とした。

私は8月3日にウランバートルに着いた。6月末に予約したのだが、希望日の便が取れ
なかった。今は、モンゴルの鉱山開発やモンゴルへの旅行などはたいへん人気があっ
て、夏の便は3ヶ月以上前にとるべきだと言われているが、その通りだった。

日本と対照的に、モンゴルでは、新聞を読んでも、テレビのニュースを見ても、ハル
ハ河戦争勝利75周年と関係する報道が多く、街に出ても、「ハルハ河戦争勝利75周年
記念」の幕が飾られており、国全体がお祝いムードになっていた。

8月8日の午前中に、モンゴル国立大学モンゴル研究所長J. バトイレードゥイ氏と打
ち合わせをした際、急にTV2テレビ局から連絡があって、急遽車で同社に向かい、取
材を受けた。同社はその日の夜と翌日の朝、2回も報道した。

9日午前、モンゴル・日本人材開発センター多目的室で第7回ウランバートル国際シン
ポジウムの開会式がおこなわれ、在モンゴル日本大使清水尊則氏、モンゴル国立大学
長A. ガルトバヤル氏、国際モンゴル学会事務総長・モンゴル科学アカデミー会員D.
トゥムルトゴー氏、モンゴル国立大学歴史学術院長P. デルゲルジャルガル氏が挨拶
をした。

開会式の後、研究報告をおこなった。午前の会議では、P. デルゲルジャルガル氏が
座長をつとめ、6本の論文が発表された。午後の会議では、モンゴル防衛研究所教授
G. ミャグマルサンボー氏とモンゴル科学アカデミー歴史研究所教授O. バトサインハ
ン氏が座長をつとめ、12本の論文が発表された。その後おこなったディスカッション
では、ウランバートル大学教授ダシダワー氏と私が座長をつとめた。

会議には、モンゴル、日本、中国、ロシア、ハンガリー、チェコ等の国からの研究者
70人あまりが参加し、活発な議論が展開された。「最近、モンゴルの研究者は、あま
りにも外国の研究者の主張に従い過ぎる」「モンゴル人研究者は独自の主張を持つべ
きだ」と、若手研究者の研究を批判する者がいれば、「未だ30年前の古い立場に立っ
ている」と反論する研究者もいる。また、「モンゴル人の立場から見れば、ハルハ河
戦争とはハルハとバルガの統一運動の一つの過程であった」「この統
一の運動を分断するため、ソ連と日本が同戦争をおこなった」という日本人の研究者
のかんがえ方に対して、「モンゴルでは、だれもそう考えていない」と批判する声も
あった。さらに、世界ハルハ河・ノモンハン戦争研究会を組織するという提案があ
り、全員の賛成を得た。ハルハ河・ノモンハン戦争の原因や結末、戦争の名称等をめ
ぐって、各国の研究者のかんがえ方が大きく対立していることがしめされ、さまざま
な課題はまだ残されている。

同日の夜、在モンゴル日本大使館で、同大使館と渥美国際交流財団共催の招待宴会が
おこなわれ、清水大使と私が挨拶をし、一橋大学名誉教授田中克彦氏が乾杯の音頭を
とった。参加者は歓談しながら、日本食を賞味した。

10日午前、参加者はジューコフ記念館を見学した。その後に行ったモンゴル軍事史博
物館でも、各国の研究者の間では議論がつづき、また今後の学術交流などについても
意見を交換した。午後からは、ウランバートル郊外のチンギスーン・フレーで、モン
ゴル国立大学モンゴル研究所主催の招待宴会がおこなわれた。

同シンポジウムについて、モンゴル国営通信社などモンゴルとロシアのテレビ局十数
社が報道した。

当日の写真は下記リンクからご覧ください。
www.aisf.or.jp/sgra/photos/index.php?spgmGal=The_7th_Mongol_2014_by_Husel

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<ボルジギン・フスレ Borjigin Husel>
昭和女子大学人間文化学部国際学科准教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006年
東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。昭和女子大学
非常勤講師、東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員をへ
て、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945〜49年)——民
族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、共編『ノモンハン事件(ハルハ
河会戦)70周年——2009年ウランバートル国際シンポジウム報告論文集』(風響社、
2010年)、『内モンゴル西部地域民間土地・寺院関係資料集』(風響社、2011年)、
『20世紀におけるモンゴル諸族の歴史と文化——2011年ウランバートル国際シンポジ
ウム報告論文集』(風響社、2012年)、『ハルハ河・ノモンハン戦争と国際関係』(三
元社、2013年)他。

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● SGRAカレンダー
【1】第3回SGRAふくしまスタディツアー
『飯舘村、あれから3年』(2014年10月17日〜19日)
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/33.php
【2】第8回SGRAチャイナフォーラム<ご予定ください>
『近代日本美術史と近代中国』
(2014年11月22日北京)
【3】第6回SGRAカフェ⇒調整中
【4】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム
『ダイナミックなアジア経済—物流を中心に』
(2015年2月7日東京)<ご予定ください>

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