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[SGRA_Kawaraban] Sim Choon Kiat “Amazing Japan Part 14: So

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SGRAかわらばん530号(2014年8月20日)

【1】エッセイ:シム「だからやはり女子大はまだ必要?」

【2】第4回日台アジア未来フォーラム報告(その2)
「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流」
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【1】SGRAエッセイ# 419

■シム チュン・キャット「日本に「へえ〜」その14:だからやはり女子大はまだ必
要?」

女子大勤めの僕が言うのもなんですが、いま日本では女子大が人気です。高い就職率
に加え、きめの細かい指導を可能にする少人数制の授業展開が学生に付加価値を与
え、高度な人材育成につながると考えられているからなのでしょう。しかし目を海外
に転じてみると、ほとんどの国・地域では女子大は斜陽状態になっているか、もう
(あるいは最初から)存在しないか、のどちらかです。例えば、女子大学連合
Woman’s College Coalitionのデータによれば、北米では60年代には約230校もあっ
た女子大が2014年現在になると47校まで激減してしまい、かの有名なセブンシスター
ズも2校の共学化に伴いファイブシスターズになってしまいました。イギリスでも現
存する女子大はケンブリッジ大学内の3校の女子カレッジのみとなり、巨大な中国で
さえ女子大は伝統を受け継ぐ形で3校しかなく、教育の面で日本の影響を強く受けて
きた台湾ですら最後まで生き残ったラスト女子大が2008年に男女共学の道を選びまし
た。一方、日本ではいまでも大学総数の約1割を女子大が占めているのです。

僕の国シンガポールもそうですが、性別による発達の違いと特性に応じた男女別学が
小・中・高校段階においてこそ認められるものの、「男女平等」という大原則の下で
大学レベルでは男女共学が基本という国がほとんどです。日本以外に、女子大が未だ
に健在ぶりを力強く見せている国と地域は、おそらく世界最大規模の女子大である梨
花女子大学校を有する韓国とイスラム圏の数ヶ国ぐらいだけでしょう。さてと、日
本、韓国とイスラム圏の国々の共通点といえば?

「早く結婚した方がいい」「自分が産んでから」「がんばれよ」「動揺しちゃった
じゃねえか」などのヤジ(接頭語の「お」をつけて「オヤジ」と言ったほうがいいか
もしれません)が、あろうことか6年後に世界最大のスポーツ祭典の開催都市の都議
会で飛ばされたことはまだ記憶に新しいですね。しかも、結局名乗り出た都議のホー
ムページには「世界に誇れる国際都市東京を目指して」とあるそうですから、笑えた
ものではありません、はい。かつても「女性が生殖能力を失っても生きているっての
は無駄で罪です」「(ある集団レイプ事件について)元気があるからいい」「女性は
産む機械」「43歳で結婚してちゃんと子供は2人産みましたから、一応最低限の義務
は果たしたかもしれませんよ」など、政治家によるもっとひどい女性蔑視発言があっ
たこの日本のことですから、どんな「オヤジ」でも今さら驚くことでもないかもしれ
ません。何かの雑誌で読んだのですが、「美しい国」は逆さまに読むと「憎いし苦
痛」になりますからね。

それにしても、今回の「オヤジ」騒動で注目され、海外でもちょっとした有名人に
なった都議の「若さ」には驚きました。日本の政界においてはまだ若いともいえる50
代前半のこのオヤジがあんな女性蔑視意識を持っていたとはびっくりです。やはり差
別意識は伝染し、世代から世代へと再生産されていくものです。まるで風呂場にこび
りつくカビのように、何回苦労して落としても根っこが残り、直にまたどこかからポ
ンと生えてきてしまうのですね。根本的な解決方法としては、まず風呂場の中の湿気
を取り除くしかありません。つまり、しつこいカビを二度と生やさないためには、ま
ず環境改造を徹底的に行うことが必要不可欠なのです。

男女平等や女性の社会進出度に関するあらゆる国際比較ランキングでは、日本(そし
て韓国も)が先進国とは思えないぐらい非常に低い順位にランクされ続けてきたこと
は周知の通りです。それを改善するには、男性の意識だけでなく、女性の意識に対し
ても改革を進めなければ何も変わっていきません。特に後者に関しては、男子のいな
い環境で女子がリーダー役を担うしかなく、さらに共学大学よりロールモデルになる
女性学長・学部長・学科長・教授がはるかに多数いる、という女子大の存在がとりわ
け重要だと思いませんか。女子大イコール良妻賢母を養成する大学というのは、もう
博物館級の古い認識です。イギリス初の女性首相マーガレット・サッチャー氏、イン
ド初の女性首相インディラ・ガンディー氏、イスラム圏初の女性リーダーであるパキ
スタン元首相ベナジル・ブット氏、2年後にはアメリカ初の女性大統領になるかもし
れない(?)ヒラリー・クリトン氏、女性として世界で初めてエベレストと七大陸最
高峰を制覇した田部井淳子氏、そして本渥美国際交流財団の渥美伊都子理事長、が全
員女子大の卒業生であることは偶然ではあるまい。

もちろん、女性リーダーを育てるということは、何も女性が社会に出たときに男性の
ようにバリバリ働くのではなく、「ゲームのルール」と土俵を変えることによって意
識改革、環境改造を進め、社会、ひいては世界をより良い方向に導いてほしいという
願いが込められているのです。このミッションが僕にあるからこそ、いま燃えるよう
な大学教員生活を送っているわけです。その燃え方についての詳細は明日からバリ島
で行われる第2回アジア未来会議で発表するので、ご興味のある方はぜひ来場して僕
と意見・議論を交わしてください。さあ、いざ、バリ島へ!

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<シム チュン キャット☆ Sim Choon Kiat☆ 沈 俊傑>
シンガポール教育省・技術教育局の政策企画官などを経て、2008年東京大学教育学研
究科博士課程修了、博士号(教育学)を取得。昭和女子大学人間社会学部・現代教養
学科准教授。SGRA研究員。著作に、「リーディングス・日本の教育と社会−−第2
巻・学歴社会と受験競争」(本田由紀・平沢和司編)『高校教育における日本とシン
ガポールのメリトクラシー』第18章(日本図書センター)2007年、「選抜度の低い学
校が果たす教育的・社会的機能と役割」(東洋館出版社)2009年。
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【2】第4回日台アジア未来フォーラム報告(その2)

■ 梁 蘊嫻「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流—文学・思
想・言語—(その2)」

午後の研究発表は、「古典書籍としてのメディア」「メディアによる女性の表象」
「メディアと言語学習」「メディアとイメージの形成」「文学作品としてのメディ
ア」「メディアによる文化の伝播」という6つのセッションで行われた。

フォーラムに先立ち、世界中の研究者や専門家を対象に論文を公募した。応募数は予
想より多く、大変な盛況であった。国籍から見ても、台湾、日本、韓国、スウェーデ
ンなどがあって、まさにグローバルな会合であった。発表題目も古典研究から近現代
研究まで、そしてオーソドックスな研究から実験的な研究までさまざまである。紙幅
の都合上、すべての発表は紹介することができないが、いくつか例を挙げておこう。

(1)「日本古典籍のトランスナショナル—国立台湾大学図書館特蔵組の試み—」(亀
井森・鹿児島大学准教授)は、地道な書誌調査で、デジタルでの越境ではなく古典籍
のトランスナショナルという観点から文化の交流を考える。(2)「草双紙を通って
大衆化する異文化のエキゾチシズム」(康志賢・韓国全南大学校教授)は、草双紙を
通して、江戸時代の異文化交流の実態を究明する。(3)「なぜ傷ついた日本人は北
へ向かうのか?−メディアが形成した東北日本のイメージと東日本大震災−」(山本
陽史・山形大学教授)は、日本文化における東北地方のイメージの形成と変容を和
歌・俳諧・小説・流行歌・映画・演劇・テレビなどの文学・芸術作品を題材にしつ
つ、東日本大震災を経験した現在、メディアが越境することによっていかに変化して
いくのかを研究する。(4)「発信する崔承喜の「舞踊写真」、越境する日本帝国文
化—戦前における崔承喜の「舞踊写真」を手がかりに—」(李賢晙・小樽商科大学准
教授)は、崔承喜の舞踊写真が帝国文化を宣伝するものであると提示し、またこれら
の写真の持つ意味合いを追究する。(5)「The Documentary film in Imperial
Japan, before the 1937 China Incident」(ノルドストロム・ヨハン・早稲田大学
博士課程)は、日中戦争期、ドキュメンタリー映画がいかにプロパガンダの材料とし
て使われていたかを論じる。(7)「Ex-formation Seoul Tokyoにおける日韓の都市
表現分析」(朴炫貞・映像作家)は、情報を伝えるinformationに対して、
Ex-formationという概念を提出したデザイン教育論である。ソウルの学生はソウル
を、東京の学生は東京をエクスフォメーションすることで、見慣れている自分が住む
都市を改めてみることを試みた。(8)「溝口健二『雨月物語』と上田秋成『雨月物
語』の比較研究」(梁蘊嫻・元智大学助理教授)は、映画と文学のはざまを論じる。
(9)「漢字字形の知識と選択-台湾日本語学習者の場合—」(高田智和氏・日本国立
国語研究所准教授)及び「漢字メディアと日本語学習」(林立萍氏・台湾大学准教
授)は、東アジアに共通した漢字学習の問題を取り上げる。(10)「日本映画の台湾
輸出の実態と双方の交流活動について」(蔡宜靜・康寧大学准教授)は、日本と台湾
の交流に着目する。

発表題目は以上のとおり、実にバラエティに富んでいた。それだけでなく、コメン
テーターもさまざまな分野の専門家、たとえば、日本語文学文化専攻、建築学、政治
思想学などの研究者が勢揃いした。各領域の専門家が活発に意見を交換し、実に学際
的な会議であった。今回、従来の日本語文学会研究分野の枠組みを破って、メディア
という共通テーマによって各分野の研究を繋げることができたのは、画期的な成果で
あるといえよう。

研究発表会の後、フォーラムの締めくくりとして座談会が行われた。今西淳子常務理
事が座長を務め、講演者の3名の先生方(延広真治先生、横山詔一先生、佐藤卓己先
生)と台湾大学の3名の先生方(陳明姿先生、徐興慶先生、辻本雅史先生)がパネリ
ストとして出席した。

まず、今西理事が、フォーラムの全体について総括的なコメントをし、そして基調講
演について感想を述べた。延広先生の講演については、寅さんが大好きな韓国人奨学
生のエピソードを例に挙げながら、「男はつらいよ」にトランスナショナルな魅力が
あるのは、歴史のバックグランドや深さがあるからだと感想を述べた。また、横山詔
一先生の講演については、今後、日本人や台湾人における異体字の好みをデーター処
理していけば、面白い問題を発見できるかもしれないとコメントした。そして、佐藤
卓己先生の講演については、ラジオの普及がきっかけで、「輿論」と「世論」の意味
は変わっていったが、インターネットがますます発達した今日における「輿論」と
「世論」の行方を観察していきたいと話した。

質疑応答の時間に、フロアから、中央研究員の副研究員・林泉忠氏から、「東アジア
におけるトランスナショナルな文化の伝播・交流」というフォーラムを台湾で開催す
るに当たって、台湾の役割とは何か、という鋭い質問があった。この質問はより議論
を活発にした。

台湾大学の辻本雅史先生は準備委員会の立場から、フォーラムの趣旨について語っ
た。「メディア」を主題にすれば、いろいろな研究をフォローできるからこのテーマ
を薦めたという企画当初の状況を話した。しかしその一方、果たして発表者が全体の
テーマをどれだけ意識してくれるのかと心配していたことも打明けた。結果的には、
発表者が皆「メディア」を取り入れていることから、既存の学問領域、すなわち大学
の学科に分類されるような枠を超えて、横断的に議論する場が徐々に作られていった
ことを実感したと述べた。最後に、林泉忠氏の質問に対しては、台湾はあらゆる近代
史の問題にかかわっているため、「トランスナショナルな文化の伝播・交流」を考え
るのに、絶好の位置にあると説明し、知を伝達する一つの拠点として、「メディアと
しての台湾」というテーマは成り立つのではないかと先見の目も持って提案した。

陳明姿先生は、いかに異なった分野の研究者を集め、有効的に交流させるか、という
のがこのフォーラムの目的であり、また、それによって、台湾の研究者と大学院生た
ちに新たな刺激を与えることが、台湾でシンポジウムを開催する意義になると指摘し
た。

「台湾ならでは」について、今西理事も、台湾の特徴といえば、まず日本語能力に感
心する。これだけの規模のシンポジウムを日本語でできるというのは、台湾以外はな
い。日本はもっと台湾を大事にしなければならない。また、SGRAは学際的な研究を目
指しているが、それを実現するのは非常に難しい。しかし、台湾大学の先生方はいつ
も一緒に真剣に考えてくださる。こうして応えてくださるというダイナミズムがまた
台湾らしい、との感想を述べた。

最後に、徐興慶先生がこれまでの議論を次のように総括した。①若手研究者の育成立
場から、19本の発表の中に院生の発表が4本あったというのは嬉しい。②20年間で241
名の奨学生を育てた渥美財団は非常に先見の明がある。育成した奨学生たちの力添え
があったからこそ、去年タイのバンコクで開かれたアジア未来会議のような大規模の
海外会合を開催することができた。また、若い研究者の課題を未来という大きなテー
マで結び付けた渥美財団のネットワークができつつあることに感銘を受けている。③
学際的な研究を推進する渥美財団の方針に同感であり、台湾大学でも人文科学と社会
科学との対話を進めている。④この十数年間、台湾の特色ある日本研究を模索しなが
ら考えてきたが、その成果として、これまで計14冊の『日本学叢書』を出版すること
ができた。台湾でしか取り上げられない課題があるが、台湾はそういう議論の場を提
供する役割がある。徐先生は、台湾の日本学研究への強い使命感を示して、座談会を
締めくくった。

同日夜、台湾大学の近くにあるレストラン水源会館で懇親会が開催された。参加者60
名を超える大盛況で、皆、美食と美禄を堪能しながら、歓談した。司会を務めた張桂
娥さん(東呉大学助理教授)は、抜群のユーモアのセンスで、会場の雰囲気を一段と
盛り上げた。その調子に乗って、山本陽史先生は「津軽海峡冬景色」を熱唱し、引き
続き川瀬健一先生も台湾民謡「雨夜花」をハーモニカで演奏した。最後に、フォーラ
ムの企画者である私が皆様に感謝の言葉を申し上げ、一日目のプログラムは円満に終
了した。

第4回日台アジア未来フォーラム報告(その1)は、下記リンクからお読みいただけま
す。
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/_4.php

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<梁蘊嫻(リョウ・ウンカン)Liang Yun-hsien>
2010年10月東京大学大学院総合文化研究科博士号取得。博士論文のテーマは「江戸文
学における『三国志演義の受容』−義概念及び挿絵の世界を中心に—」である。現
在、元智大学応用外国語学科の助理教授を務めている。

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● SGRAカレンダー
【1】第2回アジア未来会議
「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/
【2】第8回SGRAチャイナフォーラム
「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください>
(2014年11月22日北京)
【3】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム
「ダイナミックなアジア経済(仮題)」<ご予定ください>
(2015年2月7日東京)

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ださい。
● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。
● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務
局より著者へ転送いたします。
● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。
● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ
けます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/

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