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[SGRA_Kawaraban] Xie Pu “Conveying an Image Not Shared”

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SGRAかわらばん526号(2014年7月9日)

【1】エッセイ: 解 璞「共有しないイメージを伝えるということ」

【2】第7回ウランバートル国際シンポジウムへのお誘い
    「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」
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【1】SGRAエッセイ#416

■ 解 璞「共有しないイメージを伝えるということ」

食べ物の話から始めたいと思う。

5 年余り前、ある日本の友人と食事した時に、こんなことを聞かれた。「中国の饅頭
は、本当に餡がないのか」、と。中国語を勉強したことがある方なので、おそらく
「饅頭(マントウ)」という単語を勉強していた時に、日本の饅頭と中国の饅頭と
は、餡や具があるか否かという点で異なっていると教えられたのではないかと想像し
た。

そのような「分かりやすい」説明に、薄々抵抗を感じながらも、その時の私は、確か
に中国の饅頭には餡がないし、味付けもされないから、小麦粉そのものの味で、
ちょっとだけ甘いとしか答えられなかった。友人も、なるほどと納得したようで、ネ
イティブの人に確かめてよかったというような笑顔になってくれた。

ところで、数年後のある日、その友人が中国の饅頭は餡がないから、生地がきっと日
本の饅頭の皮の部分より甘いよねと言ったのを聞いて、はじめて以前の答えのいい加
減さに気づいた。

確かに日本語の「饅頭」という言葉と、中国語の「饅頭」という言葉は、餡や具の有
無という点で異なっているが、似たような食べ物を指している。つまり、言語の面だ
けを考えると、同じ表記の「饅頭」であるが、日本と中国とでは、少し異なるイメー
ジを持っている。これは、間違いない事実だ。しかし、これだけでは、不完全な理
解、あるいは勘違いさえされてしまうと考えた。

なぜならば、例えば日本で小豆などの餡が入った饅頭は、中国では「豆包」と言い、
日本で肉などの具が入った肉まんは、中国では「包子」と言い、また、餡や具はない
が、甘く味付けされた日本の饅頭とほぼ同じ大きさの小さい饅頭は、中国では「金銀
饅頭」と言い、饅頭と同じように味付けされない蒸しパンのような食べ物は「花巻」
と言うのが普通だし、逆に、ご飯や蒸しパンのかわりに食べる饅頭というものは、管
見によれば、日本にはないからだ。

つまり、日本と中国の饅頭は、餡や具の有無という点で異なっているのではない。そ
うではなく、日本でいう饅頭は、中国語で「豆包」「包子」あるいは「点心」などの
別の言葉で表され、一方、中国でいう饅頭は、日本にはめったに見られないと言うべ
きなのであろう。

このように、同じ漢字という言語の表記を共有したからといって、日本と中国は、同
じイメージで世界を見ているのではなく、相互理解がよりスムーズになるわけでは決
してない。むしろ、日本と中国では、「言語の表記が似ているから、互いに理解しや
すいはずなのに」というような安易な先入観があるからこそ、かえって誤解やすれ違
いを招きやすいのではないだろうか。

実際、外国人同士ではなくても、このような勘違いやすれ違いがよく起きている。た
とえ同じ国の人の間でも、あるいは何十年も一緒に暮らしている家族の間でさえも、
こちらの口から発した言葉のイメージと、相手の耳で受け取った言葉のイメージと
は、つねに一致しているわけではない。否、つねに一致し、完璧に理解し合えるとい
うことは、ほとんど奇跡に近い不可能なことではないだろうか。

さらに、自分自身の中でさえ、一致しているとは限らないのである。私は、時々、口
頭発表の前に、発表ノートを音読して録音してみる。すると、自分の口から発した言
葉のイメージと、自分の耳で受け取った言葉のイメージの間にも、時々ギャップが生
じていることがわかる。こんな意味を伝えるつもりは毛頭なかったのに、こう発言し
たら誤解されてもしようがないな、というように、自分の口で音読して自分の耳でも
う一度確かめなければ分らないものがある。自分自身の中でさえ、「口」と「耳」の
間には理解のギャップがあるのだと、はじめて気づかされる。

普通にコミュニケーションを行えば、このような勘違いや誤解が、常に付きまとって
いる。だからこそ、自分が伝えたいイメージと、相手が受け取ったイメージの間のズ
レを意識し、両方が伝えたいことを我慢強く、確認し続ける包容力が、どうしても必
要であろう。でなければ、「饅頭」一つさえうまく説得や理解ができないのである。

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<解璞(かい・はく)☆Xie Pu>
日本近代文学専攻。2014年早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文学コースにて博
士号取得。現在、夏目漱石の作品および文学論の中国語訳について研究調査してい
る。2013年度渥美奨学生。
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【2】第7回ウランバートル国際シンポジウムへのお誘い(再送)

下記の通りモンゴル国ウランバートル市にてシンポジウム「総合研究——ハルハ河・
ノモンハン戦争」を開催いたしますので、参加者を募集いたします。

【開催趣旨】

謎に満ちたハルハ河・ノモンハン戦争は歴史上あまり知られない局地戦であったにも
かかわらず、20世紀における歴史的意義を帯びており、太平洋戦争の序曲であったと
評価されています。この戦争の真の国際的シンポジウムは、1989年、ウランバートル
でモンゴル、ソ連に加えて日本から研究者をむかえた3者による協同研究から始まり
ました。そして、1991年、東京におけるシンポジウムによって研究は飛躍的に進み、
2009年にSGRAが開催したウランバートル国際シンポジウムではさらに画期的な展開を
みせました。しかし、国際的なコンテキストの視点からみると、これまでの研究は、
伝統的な公式見解のくりかえしになることが多く、解明されていない問題が未だ多く
残されています。

立場や視点が異なるとしても、お互いの間を隔てている壁を乗りこえて、共有しうる
史料に基づいて歴史の真相を検証・討論することは、われわれに課せられた使命で
す。

ハルハ河・ノモンハン戦争後75年を迎え、新しい局面を拓くべく、われわれは、関係
諸国の最新の研究成果と動向、および発掘された史料を総括し、国際学術会議ならで
はのシンポジウム「総合研究——ハルハ河・ノモンハン事件戦争」を開催することに
いたしました。

本シンポジウムは、北東アジア地域史という枠組みのなかで、同地域をめぐる諸国の
力関係、軍事秩序、地政学的特徴、ハルハ河・ノモンハン戦争の遠因、開戦および停
戦にいたるまでのプロセス、その後の関係諸国の戦略などに焦点をあて、ミクロ的に
慎重な検討をおこないながら、総合的な透視と把握をすることを目的としています。
このシンポジウムを通して、お互いに学ぶことができ、ハルハ河・ノモンハン戦争の
一層の究明をすすめたいと願っています。

【日程・会場】 2014 年8月9(土)〜10日(日)
        モンゴル国ウランバートル市

参加登録:8月9日(土)9:00〜9:30 モンゴル・日本人材開発センター
開会式・基調報告:8月9日(土)9:30〜12:00 モンゴル・日本人材開発セン
ター
会議:8月9日(土)13:30〜18:00 モンゴル・日本人材開発センター
会議:8月10日(日)9:00〜12:00 モンゴル防衛大学会議室
視察:8月10日(木)13:00〜10:00 日本人抑留死亡者(ノモンハン戦死者含む)
慰霊碑、ジューコフ記念館見学、草原への旅行

【プログラム】  
   
詳細は下記案内状をご覧ください。

案内状(日本語)
www.aisf.or.jp/sgra/schedule/MongoliaSymposium7InvitationJapanese.pdf

Invitation in English
www.aisf.or.jp/sgra/schedule/MongoliaSymposium7InvitationEnglish.pdf

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● SGRAカレンダー
【1】第7回ウランバートル国際シンポジウム
「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」<参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/mongol/7_1.php
【2】第2回アジア未来会議<オブザーバー参加者募集中>
「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/
【3】第8回SGRAチャイナフォーラム
「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください>
(2014年11月22日北京)

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