SGRAメールマガジン バックナンバー

[SGRA_Kawaraban] GaYoung Choi “Twenty Years since A

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SGRAかわらばん524号(2014年6月25日)

【1】エッセイ: 崔 佳英「『小さな留学生』から20年」

【2】新刊紹介:和井田清司、張建、他「東アジアの学校教育」
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【1】SGRAエッセイ#414

■崔 佳英「『小さな留学生』から20年」

「小さな留学生」を覚えているだろうか。2000年に放映された、中国から父親の転勤
で、日本の学校に通うことになった9歳の少女の2年間を追ったドキュメンタリーであ
る。今年、2007年から7年目を迎える私の日本での留学生活は、3度目の長期日本滞在
である。1回目は、小学校の時に父の仕事のために家族4人で初来日。2回目は、その
約10年後、2003年の1年間の交換留学、それから5年後、現在の大学院留学のための来
日である。

初来日時は、もう20年以上も遡る1992年の春だった。まったく日本語がわからない状
態で日本に行くことが決まり、渡日1週間前に韓国の学校に届けを出し、ひらがなの
勉強を始めた。自己紹介の言葉を日本語の発音をそのままハングルで書いてもらい、
一生懸命練習した記憶がある。こんにちは、はじめまして、以外には日本語が全くわ
からず、まさに、ドキュメンタリーの「小さな留学生」と同じだった。

偶然にも、私の小学校の時の経験は、「日本の学校のニューカマー受け入れ」の展開
と軌を一にする。1990年の入管法の改正とともに、ニューカマーの外国人が急増し、
これに連動して外国人の子どもの教育問題が注目され始めたのである。1991年には、
文部省が初めて「日本語指導が必要な外国人児童生徒」の数の調査に着手し、1993年
の『我が国の文教政策』で「外国人児童生徒に対する日本語教育等」に初めて言及し
た。日本でニューカマーの子どもの教育問題が浮上し、その取り組みが始まってから
20年も経つ。韓国では、2000年代から「多文化」問題が社会問題の重要なトピックと
なり、アジアの国で先に移民問題に対面した日本の取り組みについての研究に、注目
が集まっていた。私が日本に留学してから参加したボランティア団体では、外国につ
ながりを持つ子ども(ニューカマーの子ども)への学習支援の活動をしており、その
はじまりは「在日韓国・朝鮮人」の子どもの高校進学支援からで、長い蓄積をもつ。

しかし、おもしろいことに、私が最近出会う外国人子女教育問題の研究者や支援者か
らよく耳にすることは、「韓国は進んでいますね、韓国の話が聞きたいです」という
言葉である。確かに、この10年間に韓国では、外国人統合政策である「在韓外国人処
遇基本法」、「多文化家族支援法」を制定、二重国籍の許容、外国人参政権の付与な
ど法制度における様々な動きがあり、学校教育においては2007年から政府主導で「多
文化教育」を実施している。社会化の課程に「切断」を経験する移民の子どもにとっ
ては、社会参加や階層移動の機会などの意味から、制度化された学校教育がもつイン
パクトは強い。

さて、ここで、20年も前の話をしてみようと思う。
私が初めて来日した当時の札幌には、「外国人の子ども」の存在は珍しいもので、区
役所から地図をもらい、家族4人だけでいくつかの学校を実際に回り、編入する学校
を決めた。私が通うことになった学校にとっても、外国人はもちろん初めてのことで
あった。正規のクラスに入るのか、どの学年に編入するかも教育委員会の方針が定
まっていなかった時期で、その分、一つ一つのことを学校と保護者、そして私の意志
を反映し相談していったことを覚えている。

担任の先生と私の父は、交換日記的な一冊のノートに私の1日について書いて連絡を
取り合っていた。日本の学校で1年程が経った頃に、私の日本語の先生がやってき
た。まだ20代の若い先生で、先生になる前の「先生」と聞いた。国語の時間には、職
員室で「みんなのにほんご」という本で、はじめから日本語を勉強した。日本語の先
生との勉強が1年を過ぎた頃には「アンクルトム」を全部読み切ったことを今でも覚
えている。のちに、数学以外の授業も少しずつ耳に入るようになり、テストも受けら
れるようになった。それでも、社会や理科などのテスト問題を解くには困難があっ
た。担任の先生は、私の答案用紙の全ての項目に×をつけることはなかった。100点
が満点ではなく私の日本語力に合わせた採点をしてくださった。40点/44点と。

そこに込められた教員の教育理念とは、「日本人の子ども」のみを対象とする教育、
日本語を基準とした評価ではなく、日本語の問題と生徒の学習力の問題を切り離し、
一斉共同主義に基づかない、学生個々の「学びの権利」を保障するコア的なものであ
ると思える。これは、多くの「大人の」留学生が抱く問題の一つでもある。議論を中
心とする大学院での授業で日本語力の不足のために委縮してしまったり、または、そ
の発言に耳を傾けてもらえなかったり、教員や同僚とのスムーズな意見交換の困難、
正確にはコミュニケーションの文化的差異から生じうる誤解などをどのように捉える
かは、大学の「国際化」を謳うアジアの多くの大学の課題となりえるだろう。

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<崔 佳英(ちぇ・かよん)Choi, GaYoung>
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻にて修士号2010年取得。現在、同研
究科で博士後期課程在学中。2013年度渥美奨学生。専門分野は、日本と韓国における
外国人子女教育。
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【2】新刊紹介

SGRA会員の張建さんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。

■「東アジアの学校教育: 共通理解と相互交流のために」

本書は、東アジアの日本・中国・韓国・台湾という各国地域の学校教育について、第
二次大戦後の経過をふまえた現状を紹介するものである。同時に、当面する諸課題の
中から、いくつかの論点をとりあげて、その分野の専門家による論究をも収めてい
る。教育学研究や学校と教師の実践において、相互の交流と参照のため、共通理解の
基盤となるような基礎資料を提供したい。

編著者:和井田清司、張 建、牛志奎、申智媛、林明煌
A5判 400頁 
価格 3,780 円 (本体3,500円・税280円)
2014年05月18日発行  
ISBN9784864872430
http://www.sankeisha.com/shop/index.php

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● SGRAカレンダー
【1】第3回SGRAワークショップ(2014年7月5日蓼科)
「人を幸せにする科学とは」<会員対象:参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/3sgra.php
【2】第7回ウランバートル国際シンポジウム
「総合研究——ハルハ河・ノモンハン戦争」<論文・参加者募集中>
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/mongol/7_1.php
【3】第2回アジア未来会議<オブザーバー参加者募集中>
「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/
【4】第8回SGRAチャイナフォーラム
「近代日本美術史と近代中国」<ご予定ください>
(2014年11月22日北京)

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