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[SGRA_Kawaraban] Li Kotetsu “Could We Transcend Historical Awareness and Brainwashing Education?” (Part 2)

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SGRAかわらばん515号(2014年4月23日)

【1】エッセイ:李鋼哲
「歴史認識と「洗脳教育」を如何に超克できるのか?(その2)」

【2】第47回SGRAフォーラムへのお誘い〜参加者募集中〜(5月31日東京)
「科学技術とリスク社会〜福島第一原発事故から考える科学技術と倫理」
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【1】SGRAエッセイ#407

■ 李 鋼哲「歴史認識と「洗脳教育」を如何に超克できるのか?(その2)」

もう一つ取り上げたい問題は、歴史教育の「洗脳性」についてである。

前回のエッセイで述べた歴史の複雑性と歴史認識の多様性は、ある集団が政治的な目
的により歴史を操作する可能性を提供している。政治家はある目的により、歴史操作
(または歪曲)を行い、マスコミはそれを国民に伝える。もちろん、民主主義国家で
は言論の自由(研究の自由)と報道の自由が保障されているという前提で、様々な側
面から歴史を検証することになっている。一方、共産主義国家や独裁国家ではそれが
保障されていないというのが世間一般の認識であろう。しかし、この前提に対する考
え方は本当に正しいのだろうか。筆者の答えは「NO!」である。いくつか歴史に関す
る洗脳教育の例を取り上げて説明したい。

筆者は、共産主義国家中国で生まれ育ち、教育を受け、共産党員になったこともあ
る。しかし、1980年代以降は、改革・開放政策によって西側の情報に接することがで
きるようになり、振り返って見ると、毛沢東時代に甚だ「洗脳教育」(「毛沢東や共
産党政府のやっている全てのことが正しい」という教育)を受けてきたことに気づき
はじめた。共産党や政府に対しても否定的な見方ができるように変わってきた。新聞
などで共産党に対して公に批判はできなくても、「洗脳教育」からある程度は脱却で
きたことは確かである。そのような若者達が増えたから、「民主化」を唱えるように
なり、結局「天安門事件」という惨事にまで至ってしまった。筆者はその当時は大学
教員として若手インテリの一人であったが、当時は北京のインテリ(特に若手インテ
リ)層のほとんどが学生運動を支持していた。もちろん、インテリだけではなく、デ
モのピーク時には200万人以上の北京市民が学生運動を声援し参加していた。これは
「洗脳教育」から解放された若者達を中心とする中国人の愛国主義的なエネルギーの
噴出であったと筆者は考えている。

このような愛国主義的な若者を武力で鎮圧するような共産党が率いる中国の前途およ
び自分の前途は、筆者には真っ暗に見えたのだ。憧れの的は民主主義国家の日本や欧
米だった。当時、筆者を含む多くの若者達は、自分を育ててくれた祖国に背を向け
て、出国の道を模索したのである。

中国人の日本に関する認識で言えば、毛沢東時代の「侵略戦争は一部軍閥主義者によ
る行為」というのは、歴史事実は別として一種の「洗脳教育」であり、江沢民時代に
始まった「反日教育」も紛れもなく「洗脳教育」であった。残念ながら習近平時代に
もそれは続いている。数多く作られる抗日映画やドラマ、抗日戦争記念館などは見る
に堪えない。10年前に山東省威海市近くの柳公島にある「甲午戦争記念館」(日清戦
争)を見学したことがあるが、その時にびっくりしたのは、日本軍が中国住民を虐殺
する写真などが赤裸々に展示されていたが、それに対する歴史的なストーリの解説は
まったくなかった。歴史の知識が乏しい子供達や一般民衆がそれを見ると、「日本人
は如何に残虐無道な悪魔=鬼子」であるか、という印象しか残らない。過去形ではな
く現在進行形になり、彼らの頭には、現在の日本人とそれが重なるはずである。だと
したら、このような歴史教育は現在の日本人に対する憎しみを植え付ける役割しか果
たさない。「これは中国人自身にとっても良い教育ではない」と筆者は案内役の地元
政府スタッフに異議申し立てをした覚えがある。

これと似たような状況を筆者は韓国でも体験したことがある。「独立記念館」、「歴
史博物館」などを見学したときに、子供達を引率する先生や親たちは、一所懸命に
「日本が武力で韓国を植民地化した」ことを教えていた。もちろん、それ自体は歴史
教育として悪いことではないし、教育すべきである。しかし、筆者が問題にしたいの
は、ある国あるいは国家間の複雑な歴史や歴史認識のある側面だけを誇張して強調
し、その否定的なイメージを現在の平和時代を生きる国や国民と結びつけてしまうよ
うな教育は、危険な「洗脳教育」に他ならないということである。

韓国はすでに立派な民主主義国家なのに、未だに共産党独裁国家である中国と似たよ
うな歴史的な洗脳教育をすることは、筆者には到底納得がいかない。もちろん、筆者
も朝鮮半島にルーツを持ち、親の世代は満州で日本の支配と迫害を受けた事実を子供
の時から聞かされているし、感情的にはその加害者の日本人が嫌いであり、「倭
寇」、「日本鬼子」は許せない気持ちはある。しかし、それはあくまでも歴史であ
り、今の21世紀を生きる人間としては、歴史を忘れてはならないが、未来志向で、平
和志向で生きるべきであり、考えるべきではないか。

民主主義国家である韓国では、言論の自由と研究の自由が保障されているはずなの
に、近代史を客観的に研究する、とりわけ日本との関わりに関する研究者は、研究成
果が歴史事実に基づいたとしても、朝鮮王朝の腐敗・堕落について言及すると、たち
まち「親日派」、「売国族」の扱いをされ、罵倒されることになる。ここで、ある韓
国の学者の言葉を引用する。

金完燮(キム・ワンソプ)という評論家が、2002年に日本で『親日派のための弁明』
という本を出版しベストセラーになった。本のなかで、著者は「韓国人が朝鮮王朝を
慕い、日本の統治を受けず朝鮮王朝が継続したなら、もっと今日の暮らしが良くなっ
ていると考えるのは、当時の朝鮮の実態についてきちんと分かっていないためだ。特
に子供と青少年は、きれいな道ときれいな家、整った身なり、上品な言葉遣いのテレ
ビの歴史ドラマを観ながら、朝鮮もそれなりに立派な社会で外勢の侵略がなかったな
らば静かで平和な国家を保てたろうと錯覚する。しかし日本が来る前の朝鮮は、あま
りに未開で悲惨だったという事実を知らねばならない。」と述べた。この本は日本支
配下になる前の朝鮮王朝の暗黒な社会を赤裸々に描き出したのだ。

しかし、著者はその言論が日本の植民地支配を美化するとして批判されるだけではな
く、裁判を受けたり暴行を受けたり、様々な迫害を受けたのである。彼は別に親日派
でもなく、かつては反日感情が非常に強い民主化運動家だったが、外国(オーストラ
リア)に一時移住して対日観が変わったと言われている。学問と言論の自由が保障さ
れているはずの現代の先進国であり民主主義国家の韓国で、このようなことが起こる
ということをどう理解すればよいのか。(SGRAの読者の韓国学者達は理解できるで
しょうか?もし筆者の見解が間違ったら批判してもらいたい)。

話を日本に戻す。筆者が「天安門事件」の衝撃を受け、前途が見えない中国を脱出し
て、憧れの日本に来て、自由な空気を吸い始めたのは、今から24年前である。北京の
大学教師の職を放棄し、日本ではアルバイトで生計を立てる就学生に転落したが、精
神的な解放感を感じたのは確かである。日本では言論の自由・学問の自由が保障され
ている。しかし、長い間日本の社会を観察していると、日本でも「洗脳教育」が横行
しているように見えてしまう。戦後の歴史教育はかなりの部分に「洗脳教育」要素が
あるのではないか。敗戦国家でアメリカによる支配の中で、歴史教育の基礎が定めら
れたのではないか。マッカーサー元帥が「3S」(セックス、スクリーン、スポーツ)
政策を仕組んで、日本国民の政治意識を麻痺させた、という陰謀説さえもあるほどだ
から。

近年のことでいうと、北朝鮮の拉致問題やミサイル・核実験、中国の反日デモなどに
ついて、日本のマスコミの集中豪雨的な「洗脳教育」により、日本国民の多くは北朝
鮮嫌い、中国嫌いになりつつあり、近年はまた韓国嫌いにもなりつつある。それには
日本の右翼が深く絡んでおり、右翼的な政治家も絡んでいることは否定しがたい事実
であろう。民主主義国家、言論の自由な国家なのに、公正で客観的な議論ができず、
偏向的な報道が中心になっているのではないか。周りの日本人と議論してみると、か
つて洗脳された経験が豊かな筆者から見ると、彼らもいつの間にか「洗脳」されてい
るような気がする。現代社会ではテレビの影響が大きいので、ある事件で無数に繰り
返し報道すると、それに接する国民は自然に「洗脳」されていくのである。「中国と
韓国が結託して優しい日本人を虐めている」という話を何度も日本人の友人から聞い
たことがある。筆者から見ると、恐ろしく世論に洗脳されているとしか見えないが。

ところで、世界で最も民主的な国家である米国にも同じような現象がある。広島・長
崎に落とした原爆は正義のためだったと、戦後60数年も米国民および世界に対して歴
史教育の洗脳をして来たのではないか。これについては米国の映画監督オリバー・ス
トーン氏が、米国の現代史を検証するドキュメンタリーにて、原爆投下の必要性につ
いて疑問を呈したことから、筆者も興味を持って歴史事実を勉強するようになった。
そのほか、ベトナム戦争、イラク戦争など、多くの歴史的な出来事について、政治家
やマスコミは国民を洗脳してきたのではないか。反対の意見はあってもそれはある政
治勢力により圧殺されていることは否定できないだろう。

ここで改めて「洗脳教育」を「マインド・コントロール」という言葉と絡んで吟味し
てみたい。「私の考え・価値観は、マインド・コントロールされて形成されたもの
だ」と言う人は、ほとんどいない。また、「私の言動は相手をマインド・コントロー
ルするものだ」と言う人も、滅多にいないだろう。大方の人は、「私は正常だ」「私
に悪意はない」と考え、またそのように主張する。しかし、そう主張したところで、
その当否を判断するのは相手方なのだ。重要なのは、各人の「思い」ではなく、外形
的事実だ。

マインド・コントロールとは何か? 簡単に言えば、「強制によらず、さも自分の意
思で選択したかのように、あらかじめ決められた結論へと誘導する技術のこと」(*
「ウィキペディア」参照)だろう。最も重大かつ危険なマインド・コントロールは何
かと言えば、「国家によるもの」ではないか。国家は国民に対して一定の「強制力」
を持つゆえ、私たちは国家に対して、さらに「洗脳」の危険性も併せて考慮しなけれ
ばならない。

民主的で、言論が自由な国でも、独裁国家とは程度の差はあれ、為政者はマスコミや
教育という道具を使って、国民に対する洗脳教育をしている歴史や現実を我々は理解
せねばならない。そして、まず、自分が洗脳されないように、また人々が洗脳されな
いようにするためには、「国民意識」からの脱却が不可欠であろう。一つ言っておき
たいのは、日本や米国では学問の自由と言論の自由が保障されていることである。筆
者の書いたこの文章がもし中国や韓国で発表されたら、「親日派」、「売国賊」の
レッテルが貼られるかも知れない。

筆者のいう「不偏不党」のアジア人、またはSGRAが目指す「地球市民」というのは、
まさに「国民意識」を超えてからこそ、実現されるものではなかろうか。

*李鋼哲「歴史認識と「洗脳教育」を如何に超克できるのか?(その1)」は、下記
リンクからお読みいただけます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/post_491.php

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<李 鋼哲(り・こうてつ)Li Kotetsu>
1985年中央民族学院(中国)哲学科卒業。91年来日、立教大学経済学部博士課程修
了。東北アジア地域経済を専門に政策研究に従事し、東京財団、名古屋大学などで研
究、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、現在、北陸大学教授。日中韓3カ
国を舞台に国際的な研究交流活動の架け橋の役割を果たしている。SGRA研究員。著書
に『東アジア共同体に向けて——新しいアジア人意識の確立』(2005日本講演)、そ
の他論文やコラム多数。
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【2】第47回SGRAフォーラムへのお誘い〜参加者募集中〜

下記の通りフォーラムを開催しますので、奮ってご参加ください。

■テーマ:「科学技術とリスク社会:福島第一原発事故から考える科学技術と倫理」

■日 時:2014年5月31日(土)午後1時30分〜4時30分

■会 場:東京国際フォーラム ガラス棟 G610会議室
     https://www.t-i-forum.co.jp/general/access/

参加費:フォーラム/無料 懇親会/正会員1000円、メール会員・一般2000円

お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局宛に事前にお名前、ご所属、連絡先をご記入
の上、参加申し込みをしてください。
SGRA事務局(sgra-office@aisf.or.jp Tel: 03-3943-7612 )

◇プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/SGRAForum47Program.pdf

■フォーラムの概要:

3・11/福島原発事故以降、「科学技術の限界」あるいは「専門家への信頼の危機」が
語られてきました。今回のSGRAフォーラムでは、島薗進先生(上智大学神学部教授−
宗教学/応用倫理)、平川秀幸先生(大阪大学コミュニケーションデザインセンター
教授−科学技術社会論)をお招きして、福島第一原発事故を事例として「科学技術と
倫理」、「科学技術とリスク社会」、「科学なしでは答えられないが、科学だけでは
答えられない問題群」などをテーマとしてオープンディスカッションを行います。

1)理工系科学者のみならず社会系科学者、人文系科学者の役割と倫理
2)科学者と市民を結ぶ科学技術コミュニケーションの可能性

〔トピック〕
・福島第一原発事故から考える「科学技術の限界」、「専門家への信頼の危機」
・巨大科学、先端科学が生み出す「リスク社会」の様相
・「科学技術と倫理」の課題及び社会系科学者、人文系科学者の役割
・科学者と市民を結ぶ科学技術コミュニケーションの可能性

■プログラム:

1)問題提起:(5〜10分)
チェ・スンウォン(韓国)理化学研究所/生物学

2)対談:(約40分)
島薗進先生 上智大学神学部教授(宗教学/応用倫理)
平川秀幸先生 
  大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授(科学技術社会論)
モデレータ:エリック・シッケタンツ(ドイツ)
  東京大学大学院人文社会系研究科特別研究員/宗教史

3)オープンディスカッション:(約90分)
ファシリテータ:デール・ソンヤ(ノルウェー)
  上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科特別研究員/グローバル社会

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☆★☆エッセイ募集中!
日中韓の政治状況、最近は社会状況まで、とても厳しく、時には暴力的でさえありま
す。ここで語り合う<場>を作るのが、良き地球市民の実現をめざすSGRAの役割りで
あると考え、SGRAかわらばんでは読者の皆様のエッセイを募集します。皆様の自由闊
達なご意見をお待ちしております。
・2000字程度(短くてもかまいません)
・匿名希望の方はその旨お書きください。
・送付先:sgra-office@aisf.or.jp

● SGRAカレンダー
【1】第47回SGRAフォーラム(2014年5月31日東京)<参加者募集中>
「科学技術とリスク社会:福島原発事故から考える科学技術と倫理」
http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/SGRAForum47Program.pdf
【2】第4回日台アジア未来フォーラム(2014年6月13日台北)
「トランスナショナルな文化の伝播・交流:思想・文学・言語」
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/4_1.php
【3】第2回アジア未来会議
「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/
★オブザーバー参加者募集中(4月30日まで参加費早期割引)★

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