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[SGRA_Kawaraban] Sadaaki Numata “Lessons from the Enactment of the State Secrets Protection Bill”

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SGRAかわらばん504号(2014年1月29日)

【1】エッセイ:沼田貞昭「特定秘密保護法制定の教訓」

【2】フォーラム案内:第13回日韓アジア未来フォーラムへのお誘い
「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」(2月15日ソウル)

【3】論文紹介:平川 均「成長の東アジアと相克の日・中韓関係」
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【1】SGRAエッセイ#397

■ 沼田 貞昭「特定秘密保護法制定の教訓」

最近の北朝鮮、尖閣諸島をめぐる緊張の高まり、あるいはアルジェリア人質事件な
ど、日本の安全保障環境が厳しさを増している中で、2012年に民主党政権下で秘密保
全のための法制の在り方に関する有識者会議において検討されていた機密保全法制
が、自民党安倍政権の下で昨年12月特定秘密保護法として成立に至った。

筆者は、わが国の安全に対する様々な脅威が存在する中での日米同盟の運用の実務に
かかわっていた経験を通じて、国家公務員法の守秘義務や1954年の日米相互防衛援助
協定に伴う特別防衛秘密、2010年の改正自衛隊法による防衛秘密などのわが国の機密
保護法制は、他の先進国に比べて十分に整備されておらず、同盟国であるアメリカを
始めとする関係国が重要な機密情報(インテリジェンス)を日本に流すことを躊躇す
る原因となっていると感じて来た。この背景には、インテリジェンスについてのアレ
ルギーと言うか、戦前の日本を連想して諜報、スパイと言った暗いイメージを伴うも
のとして忌み嫌う国民感情があり、インテリジェンスは国家安全保障のために存在す
るいわば「必要悪」であるとの意識がなかなか浸透してこなかったとの事情がある。

今回の法案について、「基本的人権である表現の自由を侵し、言論を封鎖し、日本を
軍国主義国に持って行く危険性がある。治安維持法の悪夢を再現させないためにも、
この法案は廃案とすべきである。」と言った非現実的な極論があった一方、「国ひい
ては国民の利益、安全を守るためには必要。特に敵性外国に国の秘密情報が漏れてし
まうようでは、ひいては国民全体が不利益を被ることになる」と言った声もあった。
世論の反応について、マスコミの調査とネットの調査の間には大きな乖離が見られ
た。たとえば、朝日新聞社が2013年11月30日〜12月1日に実施した全国緊急世論調査
(電話)では、法案に賛成が25%で、反対の50%が上回ったが、12月6日〜12月16日
にYahooが行った調査では、法案が成立して良かった45.7%、成立して良かったが手
続きは良くなかった12.3%、そそもこの法案に反対38.5%と賛成が反対を上回ってお
り、この背景にはマスコミ不信があると見られる。法案提出以来採択に至るまでの国
内論議を振り返ってみると、取材の自由・国民の知る権利の侵害、不当な処罰・逮捕
勾留のおそれと言った点についての一部マスコミの誇張された報道もあり、全体とし
てバランスの取れた議論が不足していた。

この問題は一般国民には馴染みが薄く、筆者自身、法案の条文、概要、自民党のQ&A
などを読んでみて、しばらく目にしていなかった法律用語などが沢山並んでいて、素
直に頭に入ってこない点がいくつかあった。以下、筆者なりに本件法案のポイントを
整理してみると次のようなことかと思う。

1.本法によって保全される特定秘密の範囲は、わが国の安全保障(国の存立に関わ
る外部からの侵略などに対して国家および国民の安全を保障すること)にとって重要
な情報に限定されている。たとえば、防衛に関するものでは、自衛隊が収集した画像
情報、誘導弾の対処目標性能、外交に関しては北朝鮮による核・ミサイル・拉致問題
に関するやり取り、公電に用いる暗号、スパイなどの特定有害活動に関しては、外国
の情報機関から秘密の保全を前提に提供を受けた大量破壊兵器関連物質の不正取引に
関する情報、情報収集活動の情報源、テロ防止に関しては、外国の情報機関から秘密
の保全を前提に提供を受けた国際テロ組織関係者の動向、情報収集活動の情報源など
が法律の別表に具体的に列挙されている。いずれも、これが漏洩された場合には、わ
が国の安全保障に著しい支障を与える秘密であることは明らかである。

2.そもそも秘密を漏らす恐れがないと「適正評価」によって認められた者(行政機
関の職員および委託を受ける民間の職員)のみが特定秘密を取り扱う業務を行うこと
が認められる。「適正評価」と言うとやや耳慣れないが、秘密漏洩の程度を総合的に
評価し、取り扱う適性を判断するセキュリティ・クリアランスを意味し、これは欧米
諸国などでは既に導入されている。また、民間企業においても企業秘密を守る観点か
ら同様の判断が必要とされよう。

3.さらに、処罰範囲は最小限に抑えられている。罰則の対象となるのは、上記の適
正評価を経て特定秘密を取り扱う業務を行う者が知るに至った特定秘密を洩らした場
合であり、最長10年までの懲役ないし罰金刑が課される。特定秘密を取り扱う立場に
ない者が特定秘密を取得する行為に対する処罰は、人を欺く、暴行、脅迫、施設への
侵入、不正アクセスなどの犯罪行為や犯罪に至らないまでも社会通念上是認できない
行為を取得の手段とするものに限られている。例えば、外国情報機関等に協力し、特
定秘密を敢えて入手したような例外的な場合を除き、特定秘密を取り扱う公務員等以
外の人が本法律により処罰対象となることはない。「オスプレイが飛んでいるのを
撮って友達に送ったら懲役5年」と言った報道があったが、これは明らかに処罰の対
象にはならない。

4.本法は、国民の知る権利や取材の自由との関係で種々の問題を提起しているが、
政府当局の立場は次の2点に要約されよう。

(1)情報公開法により具体化されている国民の知る権利を害するものではない。
(本法の特別秘密は、国の安全、外交等の分野の秘密情報の中で特に秘匿性が高いも
のであることから、そもそも情報公開法の下で開示されない情報と解される。)

(2)正当な取材活動は処罰対象とならない。
(取材の手段・方法が刑罰法令に触れる場合や社会観念上是認できない態様のもので
ある場合には刑罰の対象となる反面、正当な取材活動は処罰対象とならないことは最
高裁の判例上確立している。)
   
他方、政府当局とマスコミ、市民団体等との間で国民の知る権利や取材の自由との関
係で緊張関係が存在することは事実であり、本法に基本的には賛成している一部のマ
スコミも、公務員が懲役10年と言う厳罰を恐れて報道機関の取材に対して萎縮するの
ではないかと言った懸念を表明している。

5.本法立法の経緯から、次の教訓を学ぶことが必要である。

(1)安全保障ないし機密保持のプロの世界では当然の常識になっていることであっ
ても、一般国民の理解を得るためには、丁寧に意を尽くした説明が必要である。民主
党政権下のねじれ国会における「決められない政治」から脱却して、「決める政治」
を示そうとした安倍政権の本法国会審議に臨んだ姿勢は、性急さが目立ち、結果とし
て本法の内容についてはいささか消化不良のまま審議が終わってしまったとの感は否
めない。

(2)本法成立の後、安倍内閣への支持率が10%程下がったことは、政府の「奢り」
ないし「強引さ」に対する国民の反発を示しており、今後の国会運営等について注意
を促す黄信号とも考えられる。

(3)本法の運用を一たび誤れば、国民の重要な権利利益を侵害する恐れがあるの
で、政府としては十分に注意して運用して行く必要がある。特に、秘密指定が恣意的
に拡大されるのではないかとの懸念に応えるべく、特定秘密指定等の運用基準につい
て、有識者会議で十分論議を尽くし、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価を
国民の納得の行くように進めて行く努力が求められている。

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<沼田 貞昭(ぬまた さだあき)☆ NUMATA Sadaaki>
東京大学法学部卒業。オックスフォード大学修士(哲学・政治・経済)。
1966年外務省入省。1978-82年在米大使館。1984-85年北米局安全保障課長。
1994?1998年、在英国日本大使館特命全権公使。1998?2000年外務報道官。2000?2002
年パキスタン大使。2005?2007年カナダ大使。2007?2009年国際交流基金日米センター
所長。鹿島建設株式会社顧問。日本英語交流連盟会長。
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【2】第13回日韓アジア未来フォーラムinソウルへのお誘い

下記の通り第13回日韓アジア未来フォーラムをソウルで開催します。参加ご希望の方
は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。SGRAフォー
ラムはどなたにでも参加していただけますので、関心のある方にお知らせください。

■テーマ「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア地域協力」

日時:2014年2月15日(土)午後2 時00分〜5時00分

会場: 高麗大学現代自動車経営館301号

申込み・問合せ:SGRA事務局

● フォーラムの趣旨

「課題先進国」日本、そして「葛藤の先進国」とも言われる韓国が今までに経験して
きた課題と対策のノウハウを東アジア地域に展開しようとするとき、どのような分野
が考えられるだろうか。日本は、地震をはじめ自然災害への対策、鉄道システム、経
済発展と環境負荷軽減及び省エネルギーの両立、少子高齢化への対処など、多くの分
野において関連する経験や技術の蓄積、優位性を有している。さらに、日本以上の課
題先進国となった韓国の経験や後遺症も、東アジア地域におけるこれからの発展や地
域協力の在り方に貴重な手掛かりを提供している。本フォーラムでは、日本と韓国の
経験やノウハウを生かした社会インフラシステムを、東アジア地域及び他国へ展開す
る場合、何をどのように展開できるか、そして、それが東アジアにおける地域協力、
平和と繁栄においてもつ意義は何なのかについて考えてみたい。

● プログラム
詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/13.php

【基調講演】外岡 豊(埼玉大学経済学部/環境科学研究センター教授)
「北東アジアの気候変動対策と大気汚染防止に向けて」

【報告1】朴 栄濬(韓国国防大学校安全保障大学院教授)
「北極海の開放と韓日中の海洋協力展望」

【報告2】李 鋼哲(北陸大学未来創造学部教授)
「北東アジアの多国間地域開発と物流拠点としての図們江地域開発」

【報告3】李 元徳(国民大学国際学部教授)
「ポスト成長時代における日韓の課題と日韓協力の新しいパラダイム」

【討論】 報告者+討論者
木宮正史(東京大学大学院総合文化研究科教授)
安秉民(韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長)
内山清行(日本経済新聞ソウル支局長)(交渉中)
李奇泰(延世大学研究教授)
李恩民(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)
他数名

【3】論文紹介:平川均 「成長の東アジアと相克の日・中韓関係─重層化する課題の
超克に向けて─」

SGRA特別会員で渥美財団理事、国士舘大学教授の平川均様からのメッセージをご紹介
します。
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日・中韓の関係悪化に関する私の考えを書いた論文をネット上に載せました。本の1
章として出すことになっていますが、昨年末の安倍首相の靖国参拝で心が揺れ、ネッ
ト上に載せました。私の問題意識としては、何故、経済交流が盛んになる中で、逆に
対立が深まるのかを日本の戦後処理問題との関連で書いたものです。同時に、大きな
東アジアの中の構造転換によって、その矛盾は一層、激化しているというのが私の解
釈です。わかりやすく書いたつもりでしたが、難し過ぎるモノになってしまったと反
省しています。同じアジアに住む人間として、SGRAかわらばんの読者の皆さんからコ
メントをいただければ、本当に嬉しいです。
以下のURLにありますので、お知らせします。

http://ear-review.doorblog.jp/archives/cat_1184417.html

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● SGRAカレンダー
【1】第13回日韓アジア未来フォーラム(2014年2月15日ソウル)<参加者募集中>
「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/13.php
【2】第47回SGRAフォーラム(2014年5月31日東京)<ご予定ください>
「科学技術とリスク社会:福島原発事故から考える(仮)」
【3】第4回日台アジア未来フォーラム(2014年6月13日台北)<論文募集中>
「トランスナショナルな文化の伝播・交流:思想・文学・言語」
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/4_1.php
【4】第2回アジア未来会議<論文・ポスター・展示作品募集>
「多様性と調和」(2014年8月22日インドネシアバリ島)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2014/
★発表要旨追加募集中(締切:2014年2月28日)★

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のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読
いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた
だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。
http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/
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ださい。
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● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務
局より著者へ転送いたします。
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