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CELIK Melek “Report of the SGRA Forum #76 in Canakkale, Turkey”
2025年6月12日 15:05:33
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SGRAかわらばん1067号(2025年6月12日)
【1】チェリッキ・メレキ「第76回SGRAフォーラム@トルコ・チャナッカレ報告」
「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」
【2】SGRAラーニング紹介:動画「日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか」
※SGRAの新規プロジェクトです!是非ご覧ください。
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【1】チェリッキ・メレキ「第76回SGRAフォーラム『中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える』報告」
2025年5月2日(金)、日本からかなり離れたトルコ西部のトロイ遺跡のあるチャナッカレ市で、第76回SGRAフォーラム「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」を開催した。
会場はチャナッカレ大学教育学部。日本語教育学科の学生およそ200人のトルコの若者たちにとっては日本や中国、インドネシア、カザフスタン、イラン、モロッコからこんなに多くの日本研究者が「現れた!」ことに居ても立っても居られない緊張感があった。2日前に日本文化室で交流会を開催したので、一部の学生はトルコ料理を食べながら、訪れてきた先生方と言葉を交わす機会もあった。学生たちが日本語でこれだけの多くの国の先生方と同じ空間で話せるチャンスは、学科30年の歴史で初めてだ。孫建軍先生(北京大学)の周りに集まった学生は、中国の日本語学科に留学できるか質問し、「中国人とも日本語で話せる」という自慢気な顔が新鮮だった。翻訳好きで哲学青年の3年生たちは、オスマントルコ史が専門の岩田和馬先生(東京外国語大学)と日本語で話したり、トルコ語で話したりと、授業では見られない達成感が見え見えだった。
交流会のおかげで親しみも生まれ、学生たちはフォーラムが開始するや否や、目を大きく開けて熱心に聞き始めた。何よりも中近東のどこかで、「日本語仲間」が本当に多くいることが確認できたことが大きかったようだ。
第一部が始まるとレベント・トクソズ先生(NKU大学)が、「トルコに於ける日本語教育と学習者の最初の混乱:カタカナ」という題目で、トルコの若者がカタカナ、特に外来語に対して抱く距離感を取り上げた。中近東の若者は漢字が好きなのだ。漢詩でも書きたいのかなと微笑みながら、学生時代に同じ気持ちを抱いたことを思い出した。次に私が「トルコの若者のアニメとマンガ関心:現実逃避、別世界とアイデンティティー」について話した。トルコの若者にとっての日本のアニメやマンガはもはやロラン・バルトの「表象の帝国」ではなく、「想像の帝国」として中近東的な摩擦から逃避できる新たな場であることを主張した。
3人目の登壇者はイランのアーヤット・ホセイニ先生(テヘラン大学)で、「イランの若者と日本語・日本文化:メディア、教育、就職、そして未来展望」だった。イラン人には日本語が使える仕事がもっと必要だということは明らかだった。すぐ隣の国の同じ「日本語仲間」の業績と活動を意識していなかった反省が浮上してきた。イランの日本語仲間は、イラン的ともいうべき美術と芸術への関心が強く、日本語学科では新見南吉の『手袋を買いに』を上演していることや、チャナッカレ大学と同じ日本語教育修士課程があることを初めて知った。
第二部では日本社会で生活する外国人を取り上げた。中近東では日常生活が太古より多人種、多文化、多言語的、多宗教的である。それに対して、日本で暮らすインドネシアと中近東のイスラム文化圏出身者は生活の中で自分の位置づけを考え、最近は自文化へUターンしようとしていることが議論された。アキバリ・フーリエ先生(神田外国語大学)は「在日の中東出身者における日本語習得過程の変容と影響要因に関する考察」の中で、特にイラン人コミュニティーの日本語学習は持続性が欠如していると指摘した。次にミヤ・ロスティカ先生(大東文化大学)が「在日インドネシアコミュニティーと多文化共生:イスラム教育を中心に」と題した発表で、彼らが抱く非イスラム文化圏での育児と親が懸念する宗教教育問題に焦点を当てた。多文化共生は、受け入れ側との相互の努力が欠かせないことを感じた。
初めてトルコで開催したSGRAフォーラムの議論の内容は多様だったが、会場に集まった中近東と東南アジア出身の日本研究者と、トルコの大学生たちは「日本と日本語」という一つの価値観を共有しているのではないかと感じた。「アジア人」というアイデンティティーは私が日常的に思っている以上に大きい共同体である。「西洋文化は理性、東洋文化は感性と結びつく」と良く言われる。今回のフォーラムに理性が欠如していたわけではないが、参加者ひとりひとりの顔に「一期一会」を大事に思う気持ちが現れていることを確認できたことが、私にとって最も大きな「リアル(現実)」だった。それは「アジア的な世界市民もいいな」という一つの安心感だった。
この安心感は、宿泊施設の駐車場でバスから降りてきた前・渥美財団事務局長の角田英一さんに「おお、メレキさん、久しぶり!」と声を掛けられた時の嬉しさと同一かもしれない。
写真
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フィードバック
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<チェリッキ・メレキ CELIK_Melek>
渥美国際交流財団2009年度奨学生トルコ共和国チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学日本語教育学部助教授。2011年11月筑波大学人文社会研究科文芸言語専攻の博士号(文学)取得。白百合女子大学、獨協大学、文京学院大学、早稲田大学非常勤講師、トルコ大使館文化部/ユヌス・エムレ・インスティトゥート講師、トルコ共和国ネヴシェル・ハジュ・ベクタシュ・ヴェリ大学東洋言語東洋文学部助教授を経て2018年10月より現職。
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【2】SGRAラーニング紹介
SGRAの新規プロジェクト「SGRAラーニング」は、SGRAレポートの内容をわかりやすく説明する10~20分の動画で、SGRAレポートのポイントを短くまとめた上で、それをめぐる多国籍の研究者による多様な議論を多言語で共有・紹介しています。高校生や大学低学年を対象に授業の副教材として使っていただくことを想定していますが、どなたでも無料でご視聴いただけます。国史対話のレポートと動画は日本、中国、韓国の3言語で対応しています。
◆動画「日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか―教科書と教育現場から考える」
「日本の歴史教育」について考えてみましょう。
歴史教育の中で、日本の戦争と植民地支配はどのように伝えられているのでしょうか?
下記リンクよりご覧ください。
この動画は、2023年8月に開催された「第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」フォーラムの塩出浩之教授の発表「日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか―教科書と教育現場から考える」をまとめたものです。このフォーラムのレポートは日本語、韓国語、中国語で発行されていますので、興味のある方は各言語のレポートをSGRAのウェブサイトからご覧ください。
レポート第106号「第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性 20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか ─教育・メディア・研究─」
SGRAラーニングの動画へのリンクは、SGRAホームページからアクセスしていただけますので、先生方はご授業等でご利用いただけますと幸いです。どなたでも無料で視聴いただけますので、広くご宣伝いただきますようお願いいたします。
https://www.aisf.or.jp/sgra/
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