SGRAメールマガジン バックナンバー

SATO Yuna “Dialogue Across Categories”

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SGRAかわらばん1059号(2025年4月17日)

【1】SGRAエッセイ:佐藤祐菜「カテゴリーを超えた対話を―『国際交流』を再考する」

【2】寄贈本紹介:賈海涛『流動と混在の上海文学』

【3】第76回SGRAフォーラムへのお誘い(5月2日、トルコ・チャナッカレ+オンライン)
「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」(再送)
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【1】SGRAエッセイ#788

◆佐藤祐菜「カテゴリーを超えた対話を―『国際交流』を再考する」

2023年の夏、留学中だったオーストラリア・アデレードで、渥美国際交流財団の奨学金申請書類に取り組んでいた。「国際交流への関心」という課題を見て、「これは私にぴったりのテーマだ」と思った。私自身や家族は多文化の背景を持ち、高校生の頃から自治体や学校の国際交流や留学プログラムに積極的に参加してきた。だからこそ、私はこの財団が求める人材に違いないと、根拠のない自信すら抱いた。しかし、審査を意識するあまり、実際に書いた内容は「国際交流とはかくあるべきだ」という一般的な枠組みに沿うものだった。あの時は書ききれなかった本音を、奨学期間が終わる今、改めて率直に綴ってみたい。

国際交流の場では、しばしば「○○人」と「××人」といった対比がなされる。あたかも、明確に定義された2つの文化が交わるかのように。例えば、過去に私が参加したプログラムでは、「日本人として恥ずかしくない行動を!」、「日本人としての誇りをもって」、「日本文化を外国人に伝えよう!」といった言葉が飛び交っていた。これらの言説には暗黙の前提が含まれている。1つ、画一的で普遍的な「日本文化」が存在すること。2つ、「日本人」であれば、それを知っていて当然であること。3つ、その場にいる参加者全員が「日本人」であること。これらの前提は本当に正しいのだろうか。

例えば、プログラムに参加していた人々が同じ文化的背景を持っていたかというと、そうではない。沖縄出身の友人は「お節料理を食べたことがない」と言い、広島出身の友人は「3.11を経験していないことに負い目を感じる」と語った。その場には在日コリアンの友人や、ミックスルーツの人もいた。それでも「日本人としての文化的統一性」が求められる場面では、こうした個々の違いは無いものとして扱われたり、「例外」として扱われたりする。私自身、日韓の背景を持つが、国際交流の活動におけるそのような言説に対し、違和感を覚えることがある。それは、アイデンティティを「勝手に決めないでほしい」という思いと、狭い「日本人らしさ」に押し込められる息苦しさがあるからだ。

私は研究を通じて、「日本人らしさ」がどのように定義され、それと「ハーフ」というカテゴリーがどのように関係しているのかを社会学的に分析してきた。「ハーフ」はしばしば画一的な「日本人」イメージを広げる存在として語られる。だが、実際には見た目や振る舞いといった「日本人らしさ」からの部分的な逸脱を説明するための「ラベル」として機能している。「この人は日本人っぽくない」と感じたとき、「ハーフなのでは?」と推測することで、その違和感を説明しようとする。私の調査では、外国にルーツがないにもかかわらず「ハーフ」と誤認される人々も含まれていた。つまり、マジョリティ・「日本人」とされる人々の間にも見た目や振る舞い方や文化といった多様性はあるはずなのに、そうした多様性はしばしば無視され、「ハーフ」といった単純化されたカテゴリーに押し込められてしまうのだ。

こうしたカテゴリーの枠を外して考えると気づくことがある。「○○人」や「ハーフ」といった言葉では捉えきれない多様性が存在することに。世界は単純な二分法では説明できず、三分法や四分法でも十分に捉えきれない。「画一的な国・人と、画一的な国・人同士の交流」という、一般的な国際交流の捉え方には限界がある。国際交流とは、異なる2つの文化の間に橋をかけることだけではない。むしろ、個々の背景や経験を尊重し、固定化されたカテゴリーを超えて対話することではないだろうか。

<佐藤祐菜(さとう・ゆな)SATO Yuna>
神奈川県平塚市出身。2024年度渥美国際交流財団奨学生。専門は国際社会学および人種・エスニシティ研究。2025年4月より特任研究員(日本学術振興会特別研究員PD)として東京大学社会科学研究所に所属。慶應義塾大学社会学研究科後期博士課程在学中に南オーストラリア大学とのダブルディグリー制度に参加し、2023年3月から一年間、オーストラリア・アデレードに留学。2025年3月に慶應義塾大学で博士号(社会学)を取得し、2025年5月に南オーストラリア大学からも博士号を取得予定。

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【2】寄贈本紹介

SGRA会員で神奈川大学特任助教の賈海涛さんからご著書をご寄贈いただきましたので紹介します。

◆賈海涛『流動と混在の上海文学』

中国で最大の経済力を誇りつつも、反都市イデオロギーや標準語の普及によって地域文化と方言が危機に瀕する上海。この都市出身の作家や知識人は、どのようにこの現状と向き合っているのか?旧租界へのノスタルジア、移住者集団への注目、上海語での創作の試み、これらは文学にどのように映し出されるのか。本書では、方言、文化、移住者といった視点から、上海文学における流動的で混在する「地域性」を探求する。

発行:ひつじ書房
A5判上製カバー装 定価:6200円+税
ISBN:978-4-8234-1285-1
装丁:坂野公一(welle_design)

詳細は下記リンクをご覧ください。
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1285-1.htm

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【3】第76回SGRAフォーラム「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本」へのお誘い(再送)

下記の通り第76回SGRAフォーラム「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。

テーマ:「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」
日 時:2025年5月2日(金)10:00~15:00(トルコ時間)/16:00~21:00(日本時間)
方 法:会場参加とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催
会 場:チャナッカレ・オンセキ・マルト大学(COMU)アナファルタラル・キャンパス 教育学部4階セミナーホール
言 語:日本語

申 込:参加申込(参加には事前登録が必要です)
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_riLvAnD5RwKdQVoGTNrPNA#/registration

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]

◆フォーラムの趣旨
中近東や東南アジアでアニメ・マンガなど日本のポップカルチャーへの関心が急上昇している。日本語学習のきっかけとなることも多い。トルコ語に翻訳された日本のアニメや漫画が飛躍的に増えているように、日本ポップカルチャーはブームだ。日本研究においても、これらの地域でなぜ日本文化の受容が広がっているのか、なぜ若者が日本語に特別な関心を持つようになったのかをもっと議論すべきであろう。
一方、日本には中近東や東南アジアの国々から来た多くのイスラム教の移住者がいるが、日本語や文化、教育の環境に順応しようとしながら生活する中で、さまざまな困難に直面している。まずは言語の壁や文化的な違いによる摩擦が大きな課題だ。また、日本で生まれ育った子どもたちにとっては、自らのルーツに基づくアイデンティティーや宗教教育に関する問題も浮上している。
フォーラムでは、こうした課題に焦点を当て、第1部では中近東の日本語教育と日本研究を考える。第2部では、日本文化の受容と日本語教育を内側から議論をするために日本社会と共生する外国人コミュニティー、特に、イスラム文化圏から来た移民が直面する問題を深く掘り下げ、具体的な努力や解決策を模索する場としたい。
中近東や東南アジア地域における日本文化の需要を外側と内側からとらえることにより、今日の世界における日本のソフトパワーの位置づけが可能になるだろう。

◆プログラム
【第1部】中近東の若者にとっての日本語学習と日本文化
◇「トルコに於ける日本語教育と学習者の最初の混乱:カタカナ」
Levent_TOKSOZ(Tekirdag_Namik_Kemal_University・NKU)
◇「トルコの若者のアニメとマンガ関心:現実逃避、別世界とアイデンティティー」
Melek_CELIK(COMU)
◇「イランの若者と日本語・日本文化:メディア、教育、就職、そして未来展望」
Ayat_HOSSEINI(テヘラン大学)
◇討論「中近東の日本語・日本文化イメージを再考察する」
Jianjun_SUN(北京大学)、Miyuki_ICHIMURA(COMU)、Shorina_DARIYAGUL(筑波大学)

【第2部】日本におけるイスラムコミュニティーの日本文化受容と日本語教育
◇「在日の中東出身者における日本語習得過程の変容と影響要因に関する考察」
Akbari_HOURIEH(神田外国語大学)
◇「在日インドネシアコミュニティーと多文化共生:イスラム教育を中心に」
Mya_Dwi_ROSTIKA(大東文化大学)
◇【討論】「日本の国際化の中の外国人コミュニティーを再考察する」
Zeynep_GEN?ER_BALO?LU(Pamukkale_University・PAU)、Murat_?AKIR(関西外国語大学)

詳細は下記リンクをご参照ください。
※プログラム
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/04/forum76program.pdf
※ポスター
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/04/76_SGRA_ForumV8-scaled.jpg

皆さまのご参加をお待ちしております。

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