渥美財団座談会「放射能:人体に与える影響について」



未曾有の東日本大震災に引き起こされた福島第一原子力発電所の放射線漏れが、日本の国境を越えて世界の関心事になっています。そうしたなか、「渥美財団座談会」が2011年7月23日(土)に開催されました。日本癌学会の研究員でいらした片岡達治先生より「放射能:人体に与える影響について」というタイムリーな主題で講演していただきました。

先生はまず『日本経済新聞』の調査を提示し、たとえ放射線200〜500ミリシーベルトを浴びても、発癌率は運動不足など不良な生活習慣より低いとのことを述べられました。続いて「無用の心配」と「余計な心配」について注意を喚起されました。たとえば、今回の事故は、チェルノブイリと同等レベルだと評価されていても拡散量が10分の1程度なので必要以上の心配はご無用。また、専門家・官庁による曖昧な表現が余計な不安を招きかねないと指摘されました。

後半は、日立製作所で長年原子力発電に携わってきた田岸昭宣さんを迎え、ディスカッションに移りました。奨学生たちと共に、生活レベルから社会・経済・国際関係まで多方面にわたる影響をめぐって、本音トークで質疑応答が行われました。たとえば、汚染された福島牛を食用しても人体から排出されることになり、また人体には一定量の放射能による破壊を修復する能力を備えっていると片岡先生が説明してくださいました。また、半減期が一週間のヨウ素に関しては既に破壊力が衰えたため、心配する必要がないことも分かりました。残された課題としてはセシウムです。また、関連の話題として、CT健診を10年連続で受ける場合、癌発生率が高くなると片岡先生が補足されました。ほかに、放射線物質が食物連鎖により生物濃縮を起こすことは、奨学生が危惧している事項の一つでもあります。それに対して田岸さんは、海流による拡散が考えられるのでそうした事態はさほど心配する必要がないと答えられました。

確かに、事故発生以来、大気希釈作用により、各地の線量が基準値を下回りました。しかし放射線数値の高いホットスポットが発見され、その原因は不明のままです。事故発生以来、大気希釈作用が働いたにもかかわらず、福島市の線量が高いままと示す調査に疑問を持っておられる二人の先生は専門家たる鋭い指摘をされました。

その他、福島の復興問題や、この先福島出身者が広島被爆者と同様に差別を受けるのではないかといった懸念や、脱原発や再生可能エネルギー推進をめぐる経団連内部の対立や利益分配の再構成の可能性が会場から提起されました。そして、汚染された瓦礫が他国への流出という憂慮について、田岸さんは責任者である東京電力が自ら出資し、自らの敷地内に保管すべきなのではないかと主張されました。

今回の座談会によって、奨学生たちは不安をだいぶ晴らすことができました。一方、講演者からは非常時における官庁の曖昧な言葉使いに対する不満が述べられ、また作業員が収束作業を志願するのは「お上」を信用する伝統だと指摘されました。震災後、日本人の意識再考と変革を垣間見た一時でもありました。

当日の写真

(文責:謝 惠貞)