渥美奨学生の集い2010



2010年の「渥美奨学生の集い」は11月5日(金)、渥美財団ホールで開催されました。今回の「渥美奨学生の集い」では法政大学の王敏教授から「日本と中国 相互誤解の構造」という主題で貴重な講演をいただきました。

膨大なPPT資料を使ったご講演は、大変興味深い内容でした。 王先生はまず、「漢字文化(圏)」ということを強調しました。中国、日本、そして韓国が共有している「漢字」とそこから発展した「漢字文化」でこの国々は結び付いているということです。事例としてあげられたのは日本と中国の外交関係のなかにあらわれた「以徳為隣」、「友愛」という、いずれも漢文古典を根源としている語彙でした。(近世、日本と韓国の外交関係のなかで韓国は「為政以徳」という印章を使用しました。これも「論語」からの語彙でした。)しかし王先生はそういう一般的な共通性だけにとどまらず、差異の重要性を指摘しました。常に移動する文化は移動しながら必ず変化をともなうことです。ある文化が中国から日本に伝わりながら変化し、逆に日本からの文化が中国に流入するうちに変化が生じます。「友愛」という言葉の場合も中国と日本で同じ漢字を使って書いていますが、外交の場面で各自が考えている意味は少しずれがあったことがあげられました。その他、各国の狐のイメージ(九尾の狐)の違い、日本の昔話・歌・歴史ドラマにおいての「以心伝心」のイメージなど、面白い事例がたくさんありました。

「欧米のように異質な面が高いところの方が日本・中国・韓国相互関係より、文化差による衝撃を受ける可能性がむしろ低い」という王先生の指摘も重要だと思います。ねじれた関係を克服するには、異文化という視点でとらえた文化の確認と分析が重要だし、そのためには異なることを恐れずストレートに、差異を認め合ってコミュニケーションすることが大事、ということでした。

また、従来の政治と経済の視点に集中する傾向から離れて文化の角度からみると、もっと相互理解やコミュニケーションが必要なのは言う間でもないが、過去の覇権主義のような方式、表現が日本や韓国や中国に与えた文化的影響が軽視されてはいけない。「漢字文化圏」という表現なら、影響を及ぼし合ってきた歴史も含まれ、東アジアの文化のDNAの絆を認識できるということでした。
そして最後に、近年の日本の活発な文化伝播努力(アニメに代表される)とその国際的役割があげられました。時間が限らていたのが残念な、豊富な内容のご講演でした。

講演後、会場からは「尖閣問題で日本側にも中国側にも問題があったと思うが、もっと広い視野でものごと見ることが大事だと思う。」という1997狸、李恩民桜美林大学教授のコメントと「最近の日中間で不幸な事件があったが、ある政治家の会議ではホットラインの必要性が指摘された。民間の次元では、もちろん中国の文化は深くて、また豊富であるが、より多くの中国人が日本に直接来て経験し交流することが重要だと思う」という渥美国際交流財団評議員の明石康氏のコメントがありました。歴史専攻者として東アジアの歴史的な関係を研究している私にとっても、とても大切な講演でありました。

引き続き7時半よりは親睦会が開かれ、美味しい中華料理を味わいながら、貴重な会話の時間を過ごしました。

(文責:金キョンテ)

当日の写真をご覧ください。

マティアス撮影

谷原撮影