SGRAかわらばん

エッセイ827:李貞善「東京で発信する日韓の平和構築ーユネスコ世界遺産候補『避難首都・釜山の遺産』」

「クムスンよ 会いたいな 故郷の夢も 懐かしい 

  影島(ヨンド)橋の欄干の上で 三日月だけがさびしく浮かぶ」

「頑張れクムスンよ」(1953年、玄仁)

 

 

2026年7月4日(土)、東京国立近代美術館にて、NPO法人世界遺産アカデミー(WHA)主催の特別講演会が開催された。7月19日から29日にかけて韓国で初めて開催される第48回ユネスコ世界遺産委員会に先立ち、韓国の世界遺産活動と、開催地・釜山の世界遺産候補「避難首都・釜山の遺産(Sites of the Busan Wartime Capital)」を紹介する講演会だ。WHA認定講師および世界遺産検定マイスターである私としては、博士論文に関連する研究とともに10年近く関わってきた世界遺産の実務を紹介する場でもあり、感無量だった。

 

これまで数々の機会に、博士論文のテーマである朝鮮戦争の国連墓地(国連記念公園)とそれを構成資産として含む「避難首都・釜山の遺産」について発表してきた。だが、日本の世界遺産専門家および市民を対象に本格的に韓国の世界遺産活動を紹介するのは初めて。しかも、憧れの東京国立近代美術館でとは、ワクワクする経験ではないか! このような貴重な場を有意義な時間にすべく、いくつかのサプライズを準備した。

 

来場者の関心を高めるために、東京大学で履修した教育プログラム「フューチャー・ファカルテイ・プログラム(FFP)」を活かし、受講生のアクティブな学びを促す「インタラクティブ・ティーチング」の手法を導入。まず、朝鮮戦争勃発直前に芽生えたユネスコと韓国との「縁」から話を紡いだ。避難首都・釜山の遺産については、ポップ・クイズと、当該遺産の無形的価値を効果的に伝えるよう、朝鮮戦争に巻き込まれた韓国人の物語を描いた映画「国際市場で逢いましょう」の背景音楽「頑張れクムスンよ(1953年、玄仁)」の動画を流した。講演会の衣装としては、第48回ユネスコ世界遺産委員会での登壇が既に決まっていたため、前もって母に送ってもらったハンボク(韓服)を着ることを計画した。

 

いよいよ講演会の当日。美術館に着いた私は用意したハンボクに着替え、講堂に向かった。冒頭でWHA主任研究員・宮澤光氏による第48回ユネスコ世界遺産委員会についての丁寧なご説明をいただいたおかげで、来場者の期待感がさらに高まった。次いで私がユネスコと韓国との「縁」から韓国の世界遺産活動、「避難首都・釜山の遺産」が持つ歴史的・文化的価値を説明した。そして、「記憶の場」としての意義と、私が関わっている世界遺産登録に向けた取り組みについて紹介した。何よりも、植民地と戦争という二重の負の歴史を経験した当該遺産を通して、今後の日韓における平和構築(peacebuilding)や記憶を未来へ継承する可能性も強調した。

 

あっという間の70分だった。ありがたいことに、講演終了後には多くの来場者から様々なご質問とご意見を頂戴した。さらに、韓国を代表する通信社「聯合ニュース」のチョ・ソンミ(Cho Seong-mi)東京特派員による丁寧な取材が行われたうえ、講演会の様子と私の活動が翌日詳細に記事で紹介されたのもかけがえのない経験だった。

 

日本で活動する架け橋的な研究者として、これからも世界遺産を通じた日韓の和解、文化交流の意味を発信していきたい。戦争の惨状を乗り越えて明日への希望を象徴する、あの「影島橋(冒頭の歌詞、「避難首都・釜山の遺産」の構成資産)」のように。

 

【世界遺産アカデミーおよび 「聯合ニュース」 に掲載された関連記事】

 

 

<李貞善(イ・ジョンソン)LEE Chung-sun>

東京大学大学院人文社会系研究科附属次世代人文学開発センターの特任助教。2021年度渥美奨学生として2023年2月に東京大学で博士号取得。高麗大学卒業後、韓国電力公社在職中に労使協力増進優秀社員の社長賞1等級を受賞。2015年来日以来、2022年国際軍史事学会・新進研究者賞等、様々な研究賞受賞。大韓民国国防部・軍史編纂研究所が発刊する『軍史』を始め、国連教育科学文化機関(ユネスコ)関連の国際学術会議で研究成果を発表。2018年日本の世界遺産検定で最高レベルであるマイスター取得後、公式講師としても活動。

 

 

2026年8月13日配信