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エッセイ810:尹在彦「株価と政治の関係について考える」

 

私は韓国の経済新聞社の証券部で2年間勤務した。部署には3つのチームがあり、市況、すなわちマーケット全体の動向をカバーするチーム、個別銘柄(=企業)の動きを追うチーム、そして投資サイド(投資ファンドや年金・基金など)を取材するチームに分かれていた。私はそのうち、マーケットと個別銘柄、とりわけIT産業やエンターテインメント産業を担当した。

 

証券部記者の現場は、社会部や政治部とは異なり、「目に見えない」ものを扱うことが多い。特に市況を担当していた際は、一日中「数字」と向き合うのが日課だった。中でも重要なのは相対的な変動幅、つまりどれだけ上がったのか、下がったのかという点である。その上下幅によって記事の方向性も変わり、読者への伝え方も異なってくる。個別銘柄以上に、「株価指数」やそれに連動する「時価総額(企業価値)」は常に関心の的だった。「史上最高値」や「史上最安値」を記録すれば、一面トップ記事になる。

 

証券市場全体を示す指標である株価指数は、様々な銘柄の株価をもとに構成される。その銘柄群は、いわば「経済を支える主要企業群」でもある。そのため株価指数は経済状況を示す指標とされ、「上がって悪いことはない」と語られがちである。しかし、その時々の経済状況が良好だからといって、必ずしも株価が上昇するとは限らない。投資家の将来予測や資金の流れ(財政・金融政策、為替レートなど)の影響を強く受けることも多い。つまり、実体経済とのギャップを常に意識する必要がある。

 

株価指数を見る際には(韓国)国内だけに目を向けるわけにはいかなかった。値動きは海外市場の影響を受け、連動することが少なくないからだ。韓国の高い対外依存度は、そのまま株価指数にも表れる。特に2010年代半ばには、米国と中国(上海)の指数を常に確認する必要があった。当時は米中両国市場の動きが韓国の指数に反映される場面が頻繁に見られ、韓国経済の「対外従属性」を実感させるものだった。

 

参考指標として見ていたのが日本市場の株価指数、すなわち「日経平均株価」だった。ただし、米中の動向とは異なり、韓国が日本の影響を直接受けるというよりは、「比較材料」として記事に取り上げることが多かった。日本もまた米中、とりわけ米国の影響を受ける市場であるという点で、相対的な位置づけを考えるうえで有用だった。要するに、日韓の株価指数の動きが示したのは、株価は必ずしも国内要因だけで変動するわけではないということである。

 

2013年には、日本で初めて導入された「NISA(少額投資非課税制度)」を現地で取材したことがある。「株価指数が上向く政策の影響を探る」特集のためだった。当時は第二次安倍政権期の「アベノミクス」が韓国でも注目され、その象徴として日本政府は株式市場の活性化を前面に打ち出していた。積極的な金融緩和政策と相まって株価は連日上昇していた。実体経済がどこまで改善していたかは別として、指数上では確かな成果があったと評価する向きもあった。

 

そして約10年後のこの半年間、日韓両国で起きている状況は依然として非常に似通っている(2026年2月)。韓国でも日本でも株価指数が史上最高値を更新していた。韓国では李在明大統領が株価指数を政策成果の象徴として強調し、「国民の資産を増やす」「不動産投資から株投資へ誘導する」とアピールした。一方、日本でも高市早苗首相の就任後、「高市株高」と呼ばれる状況が語られた。興味深いのは、両国で共通する国際的条件があるにもかかわらず、国内要因に焦点が当たり、それが高支持率につながっている点である。

 

両国に共通する要因としては、積極的な財政政策への「アピール」や自国通貨安、そして何より米国市場の影響が挙げられる。とりわけトランプ大統領の政策スタンスや発言は、市場心理に大きな影響を与えている。それにもかかわらず、株高は「政権への期待」の結果として語られることが多い。

 

しかし、先述したように、株価指数がそのまま実体経済を反映しているとは限らない。緩和政策による資金供給の拡大は、同時に物価上昇をもたらす可能性がある。株高と物価高は、いわば「コインの表裏の関係」にある。また、株式投資をしていない人にとって株高は直接的な恩恵とはなりにくく、その効果が広く行き渡るかどうかは不透明である。

 

日韓のこのような共通点は、米国・イスラエルによるイラン攻撃によって、再びあらわになった。両国ともに、石油供給への懸念や一層不安定になった為替レートなどの要因により、ほぼ同時に株価が暴落している。3月9日の日経平均株価は5.20%、韓国のKOSPIは5.96%下落した(添付写真)。両国首脳の就任時の株価指数より依然として高い水準とはいえ、対外要因の強烈さを改めて露呈したといえる。

 

株価と政治、その相互作用、そしてそれをどのように報道するのかという問題は、興味深い分析対象でもある。トランプ大統領も最近(2月12日)、「ダウ平均株価が3年以内に10万ドルに達する」と発言した。李大統領も2月15日(旧正月の連休中)、株価指数の最高値更新を自らの「最大の実績」としてアピールした。だが、こうした政治的言説に対しては、有権者は慎重であるべきだろう。繰り返しになるが、株価指数が実体経済をどこまで反映しているのかは、時間の経過を待たなければ判断できないからである。イラン情勢と株価暴落は、その現実を改めて突きつけたともいえる。

 

※本稿の初校は2月中旬に作成したが、3月9日イラン情勢の緊迫化による株価暴落を反映して加筆した。

 

<尹在彦(ユン・ジェオン)YUN Jaeun>

東洋大学社会学部メディア・コミュニケーション学科准教授。延世大学(韓国)社会学科を卒業後、経済新聞社で記者として勤務。2021年、一橋大学大学院法学研究科にて博士号(法学)を取得。同大学特任講師、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所非常勤講師などを経て2025年、現職。渥美国際交流財団2020年度奨学生。専門は国際関係論およびメディア・ジャーナリズム研究(政治社会学)。