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エッセイ367:林 泉忠「危機続く尖閣 日中の妥協点は?」

(原文は中国語。『中国時報』(2013年2月14日付)、および中国のブログ「鳳凰網(ifeng.com)」に掲載。)

 

先月日本の与党である公明党の党首山口那津男氏の北京訪問が成功裏に収まり、中国の国家主席習近平氏が「快く」安倍総理大臣の親書を受け取ったことで、どん底に陥った中日関係は新たな転機を迎えたようであるが、中日関係の改善が模索される中、釣魚島(日本名「尖閣諸島」――訳者注)をめぐる情勢はまた危機一髪の厳しい状態へと一変している。

 

中国海軍軍艦による火器管制レーダー照射という日本の指摘に引き続き、中国海監船と軍機が再び釣魚島付近の海域内に進入すると同時に、中国福建省・浙江省一帯には戦車とミサイル部隊の動向も噂されている。この敏感な時期において、日本は米国と密接な関係を保っている。カリフォルニア州で米軍との大規模な離島奪還を想定した共同軍事訓練のほか、オバマ米大統領が訪米する予定の安倍総理大臣にどんな約束をするのかも注目の的となっている。

 

正直言えば、最近の中日両国間に見られる新たな争いは各段階において戦略的意図に基づくものだと思われる。安倍総理大臣の訪米を控え、双方とも勢いを付けて互いに迫ろうとする考えがあり、次の段階における両国の釣魚島問題をめぐる協議で自国により多い主導権を獲得しようとする狙いもある。日本が火器管制レーダー照射事件を公開するのは、中国からの「脅威」の更なるエスカレートを示して東シナ海問題の対応に関する米国による積極的支援を求めるためにほかならない。それに対し、中国が積極的姿勢を見せるのは、釣魚島の「協防」において軍事的協力を行う日米をけん制するためである。

 

現在、釣魚島をめぐる衝突はワシントンだけではそう簡単にコントロールできないレベルまで発展している。オバマ大統領が安倍総理大臣に更なる挑発的行為をやめさせることができても、日増しに深刻化する釣魚島危機を解決するには及ばないであろう。今までの五ヶ月間で中国が過去のような不利な地位から脱出し、釣魚島海域の「常態化」を実現したのは既成事実である。言い換えれば、いかにして艦船と航空機を釣魚島より12海里の域内から離脱させるように中国側を説得するかが釣魚島危機解決のカギとして、中日協議の焦点となっていくであろう。

 

問題は、現在日本が何を条件に中国側の譲歩と交換できるのかである。

 

北京は目下日本に「誤り是正」を断固要求し、「国有化」は、現状の変更と、中日両国の先輩指導者が合意に達した「紛争を棚上げする」との共通認識の破壊につながっていることを示しているが、安倍内閣に服従を迫るこの要求は極めて難しいものである。

 

いわゆる「尖閣諸島」の「国有化」はすでに去年の「9・11」に関連手続きを済ませたので、日本政府にとって、以前の状態に戻るのは技術的に実現不可能なだけではなく、面子にもかかわるのである。東京の実態把握から言えば、「国有化」は現状維持がもっとも有利である。

 

一方、「国有化撤回」を条件に、中国の艦船と航空機が12海里の域内に進入しない約束がとれれば、日本にとってもう一つの迂回路になるだろう。例えば、「尖閣諸島」の「国有」を「県有」に、すなわちその「所有権」を沖縄県(琉球)に移転させるか、「民有化」を再度取り入れることも考えられる。もちろん栗原家に戻すのではなく、ある「民間機構」に引き受けてもらうことである。

 

しかし、日本は交渉が始まるやすぐ中国側の「誤り是正」との主張に文句なく従うのではなく、「国有化」問題を避けて討議を行うことを希望するであろう。

 

北京訪問直前、山口那津男氏は中日ともに航空機も釣魚島の空域に進入しない意見を提出した。それに対して北京は一切返事をよこしていない。安倍総理大臣は「戦闘機を尖閣に飛ばすかどうかは 日本が自分で決める事」としている。しかし、釣魚島危機解決の視点から言えば、「両国とも自粛」との説は現段階で両国が比較的容易に到達できる妥協点と言えなくもない。

 

ただし、この具体的な意見はどちらがどんな方式で交渉に持ち出しても、また、最終的にお互いに納得がいく妥協点になったとしても、「領有権の問題はそもそも存在しない」との立場に拘れば、文書をもって正式的な共通認識に達するのは難しく、結局もう一つの「暗黙の了解」で終わる可能性が高い。

 

書面的証拠がないかぎり、どんな「暗黙の了解」も脆弱だということは言うまでもない。しかし、歴史を振り返ると、東洋諸国の外交上、互いに認められた効果的な「暗黙の了解」は数多くあることが分かる。釣魚島問題をめぐって周恩来氏と田中角栄氏が昔達成した「棚上げ」という暗黙の了解、そして日本が40年間守ってきた筆者の言う「三不原則」(軍力を置かない、島の資源を開発しない、海底資源を開発しない)もこんな暗黙の了解に基づいたものと言えよう。

 

中日間の「暗黙の了解」が空域に適用できれば、海域での適用に向かっての双方の努力も期待できるであろう。

 

現在の危機解決に向けて、中日間での新たな暗黙の了解の達成は無論多大な困難に直面するが、両国の相互信頼の再構築こそ当面の急務である。以前、鄧小平氏は釣魚島問題の解決方法は「もっと知恵がある次の世代」に見出してもらおうと指摘しているが、その解決方法をいかに見出すか、中日両国の新世代の指導者の知恵が試される時期である。

 

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<林 泉忠(リム・チュアンティオン)  John Chuan-Tiong Lim>

国際政治専攻。中国で初等教育、香港で中等教育、そして日本で高等教育を受け、2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年より2年間ハーバード大学客員研究員、2010年夏台湾大学客員研究員。2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員。

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2013年3月6日配信