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エッセイ378:葉 文昌「実験装置や備品の買い方」

私の実験系研究室では実験設備や消耗品等を購入する機会が頻繁にある。私はすべて自ら見積もりを取って購入している。まずネット検索に始まり、続いて会社のサイトで要望と資料の請求を記入するのだが、その後の業者の対応は千差万別だ。すっきりするのが見積書と仕様書を速やかに送ってくる、又は電話で仕様について詰めてくる業者である。こういうのは進展が早い。そして嫌なのが、「後日訪問させていただきます」というタイプである。「見積書を先に送ってもらえませんか?」と要望を出しても、「訪問時に持参いたします」ともったいぶる。こっちはその為に時間を作らなければならないし、訪問すると言っても来られるのは大抵1、2週間後の事なので、そんな呑気に待っていられない。「営業は足でする」と誰かが言っているが、それはインターネットが普及する前の話だ。今ではネットで瞬時に情報を収集できる。だから営業活動で面白い情報でもなければ「訪問する金と暇があるなら安くしてくれ」と言いたくなる。

 

消耗品に関しては私が台湾から日本に移った3年前から日本はすでにネット販売の時代になっていた。更に金属や樹脂の特注加工もネットで形状設計して発注できるようになっていた。台湾では消耗品は商社に見積もりを依頼してから物品を購入していたし、特注加工品は町工場を見つけて出向いてお願いしていたので、効率は雲泥の差がある上にネット発注の方が格段に安くなっていた。全国的に展開しているネット会社が市場を席巻する一方で、これまで地域で展開していた商社は痛手を被っているようだが、ネットの効率性には敵わないのが現状だ。

 

大学の一研究室の物品購入もすでに国境を超えてグローバル化しつつある。私は台湾での経験もあるので日台間の実験装置部品の価格差がわかる。日本での売値が台湾よりも安い物もあるが、昔台湾で購入していたある米輸入品が、日本では2倍強で売られていたことがある。アフターサービスのしようがない製品にもかかわらずだ。幸い今の大学も、業者に翌月末払いの信用取引を取り付けることができれば、物品の海外からの直接購入は可能となっている。米メーカーにもメール交渉すれば、信用取引に応じてくれる業者もいる。因みに私の英語力は貧弱と言える。しかし英語力は必ずしも重要ではない。信用取引に応じてくれれば予算が浮くので、だめもとで試す価値はある。

 

実験装置を作る時、予算が無限にあれば高くても一番いい部品を揃えられる。しかし当然ながら予算は有限である。だから部品の購入にも取捨選択が求められる。その方法は日常生活と同じだ。今の時世では着る服をブランド品で固める人はもはやいなくなり、富裕層でも場面によっては廉価アパレルブランドも着こなす方が多いのではないか。この方がマネージメントとしてもスマートで、個人レベルにおける生活のパフォーマンスが大きくなる。私も実験装置で使う部品は性能面で特に問題がなければ安い海外製も購入することもある。こうすることによって限られた予算内でも大きいパフォーマンスを得ることができ、それが私が在籍する社会へのより大きな貢献となる。よくオールジャパンという言葉を聞くが、私はこの言葉は好きではない(もちろんオールタイワンも)。肝心となる部分を押えていれば、他はジャパンでなくてもいいと考えている。そして社会レベルでパフォーマンスが最大化できれば、結局は社会が潤う。

 

島根大学に来て満3年となったが、真空装置や測定装置を立ち上げることができて、太陽電池等の半導体デバイスを作って評価する環境を構築することができた。そして春には国内初と言える結晶Si太陽電池をその場で作る大学公開講座も開講した。大学でもグローバルに物品を調達できるようになったこととネット販売の利便性による所に感謝している。

 

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう)  Yeh Wenchang>

SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。

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2013年7月3日配信