SGRAかわらばん

第31回SGRAフォーラム「水田から油田へ~日本のエネルギー供給、食糧安全と地域の活性化~」報告

2008年5月10日(土)、昨日の暑さを一掃したかのような冷たい雨のなかで、東京国際フォーラムガラス棟G610会議にて第31回SGRAフォーラム「水田から油田へ:日本のエネルギー供給、食糧安全と地域の活性化」が開催された。SGRA環境・エネルギーチームにとって、久々の東京国際フォーラムでの開催でありながら、現在地方都市で大問題とされている「農業」を取り上げた。近年、世界中で叫ばれている地球温暖化温室ガスの削減、石油等のエネルギー価格の高騰、そしてそれが一因とされている食糧価格の高騰を背景に、長年不振が続いている日本の地方都市、特に農業にとって、植物から油を作るバイオマスは「水田から油田へ」転換する1つのチャンスとして捉えることができるのか、2人の講師を招き、活発な議論が行われた。

 

 
フォーラムでは、今西淳子(いまにし・じゅんこ)SGRA代表による開会の挨拶に続き、2人の講師による講演が行われた。まず東京農工大農学部准教授の東城清秀(とうじょう・せいしゅう)先生より「エネルギー、環境、農業の融合を考える―バイオマス利用とエネルギー自給・地域活性化―」という演題で、様々な植物系から廃棄物までを原料に作られているバイオマスのプロセスを紹介し、CO2を増加させないクリーンなエネルギーであることを明らかにした。さらに、自然と共生し、自然の恵みを享受してきた日本の農業の活性化をめざして、1万人の町をモデルに食料からエネルギーまで、すべて自給自足できる環境に優しい地域モデルの試算例を紹介しながら、今後のエネルギー・環境・農業の展開とバイオマス利用について考えた。

 

 
次は地方都市の中の小さな町である福岡県築上町を対象に、町の産業課資源循環係である田村啓二(たむら・けいじ)氏より「福岡県築上町の米エタノール化地域モデル:水田を油田にするための事業構想」が紹介された。田村氏は日本農業とりわけ稲作農業が、お米の消費の減退で転作率40%を越える中で危機に瀕し、全国240万haの水田のうち100万haでお米の生産が出来ないあるいは放棄されている現状を指摘したうえ、迫力のある写真と生々しい現場の話で、水田農業の衰退の一途を食い止めるための、新たな需要としてお米から燃料用のバイオエタノール化への取り込みを紹介した。お米からエタノール化の目的は、食料だけでなく飼料化、燃料化によって、お米の新たな需要と役割を水田がになうことで、減産から増産への新たな道程を確保することである。

 

 
2人の講師による講演を終え、本日のコメンテーターSGRA顧問である埼玉大学経済学部教授の外岡豊(とのおか・ゆたか)先生も交え、近年の地球温暖化問題から発した世界規模のエネルギーと食糧価格の高騰、日本農業の活性化問題など、様々な角度からバイオマス利用の是非について活発な議論が行われた。特に米国のトウモロコシ等を原料に石油代替燃料であるバイオエタノールの大量生産政策や、バイオエタノール需要拡大への期待から投機資金の穀物市場への流入は、近年の食糧価格の高騰を招き、アフリカの低所得者たちは著しい食糧不足に見舞われ暴動も引き起こし、日本でも飼料の高騰で畜産家はきわめて深刻な打撃を受けている一方、米国ではバイオエタノール向けのトウモロコシで農家は潤うという富の偏在が際だっている厳しい現実が指摘された。バイオエタノールは自動車燃料として使われているのであり、つまり「クルマ」が農産物を食べ始めたために、「人」が農産物を食べられない事態を生んでいることに警鐘をならした。

 

 
フォーラム終了後、当東京国際フォーラム地下2階にあるカフェテリアで懇親会が行われた。会場で議論しつくせなかった問題等を含めて、3時間にも及んだ活発な私的交流を経て、次の第32回SGRAフォーラム in 軽井沢「オリンピックと東アジアの平和繁栄」へバトンタッチした。

 

運営委員の足立さんが写した当日の写真は、下記URLよりご覧いただけます。

 

http://www.aisf.or.jp/sgra/photos/

 

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<李 海峰(り・かいほう)☆ Li Haifeng>
中国北京出身。1991年来日、早稲田大学理工学部建築学科に入学し、学部、修士、博士課程を経て、現在、北九州市立大学国際環境工学部特任准教授・早稲田大学理工学術院客員講師、SGRA環境・エネルギーチームのサブチーフ。
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