アメリカの強みについての浅見 ―――――――――――

おう がくほう
王 岳鵬
東京大学 博士(医学)
東大医学部第二内科Post-Doctoral 研究員
1997年度奨学生

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 なぜ中国人の友達がアメリカに移住するのだろう?アメリカの強みは何なのだろう?この疑問を持って、学会参加のために初めてのアメリカへ。今回はアメリカの文化、現状、及び歴史などをできるだけ自分の目で見て、自分の将来を決める旅でした。

 Dallasで開催された世界で最大の学術集会と言われる米国心臓学会(American Heart Association)で私は発表しました。会場では、アメリカ中部の大学で教授をしている私の中国のbossと八年ぶりに会いました。たくさんの昔の上海の同級生や研究室の先生とも再会しました。California大学に留学し、現在、研究室のchiefとして活耀している私の修士課程の同級生が座長をしているのを見て、これからもっと頑張らないといけないという気持ちが特に強くなりました。時差ぼけの辛さを我慢しながら、広い会場のあちこちで最新情報を見聞きしたい私にとって、大変苦労な4日間でした。

 学会終了後、Bostonに行きました。この頃には時差ぼけも直り、気分もすっかり良くなりました。 Bostonには、奇麗なCharles Riverと町、MITやHarvard等一流の大学のキャンパス、明るい紅葉と古い教会があちこちにあり、ヨーロッパの街並みのような感じでした。Harvard大学の病院で実験をする日の朝晩に、短時間ながらも、街の所どころを見てまわりました。景気が良いから、どこのレストランにも人が溢れていました。週末には歴史博物館とState  House 等を見学し、同行の東大のbossの説明も加え、アメリカの歴史について勉強しました。アメリカという国は単なる民主主義国家ではなく、人種と文化の偏見の壁を打ち破り、様々な民族による建国に成功した国と知りました。それは人類が今まで経験しなかった社会をつくり上げた国なのです。

 Harvard大学の研究室では、周りには中国人と日本人がたくさんいるため、英語の下手な私にとっても実験をするのに何の支障もありませんでした。「君も早く来て下さい。ここの研究効率は日本の5倍です。」とHarvard大学の私の「将来のboss」に言われました。そこの設備、post-doctoral研究員達のやる気、研究室の奥の「将来のboss」の小さい部屋のドアがいつも開いていること、更に最近3年間の30冊位の一流雑誌の抜き刷りを「将来のboss」に配られたこと等から、東大の5倍の効率と認めざるを得ませんでした。 Bostonでの最後の夜、Dallasで約束した上海医大の時の同じ研究室の先生が私を自宅に招待してくれました。彼は今、downtownにあるTuft大学病院循環器内科の助教授として、三次元エコー検査法による心臓病診断の権威になっています。彼は、毎年、北京と上海に戻り、その新しい技術を中国に教えています。「世界のいろいろな国に行ったが、一番好きなのはアメリカだ。」と彼は私に言いました。

 二週間の旅の後に日本に戻ってきました。感慨の深い旅でした。やはりアメリカの強みはその広大な国土と豊かな天然資源だけではなく、世界の各地から優秀な人材を吸収している点が挙げられると思います。自由で平等な社会環境の中で人材を更に競争させ、知恵を生み出させているからです。人は社会に貢献するのが大卒以後で、その前には社会から貰うだけと言われています。私の先生と同級生の大部分を含め、アメリカは他国から大卒以上の知識人を吸収し、大変な得をしています。なぜ、アメリカ人は「外民族」の人材を移民として積極的に受け入れるのでしょうか?答えは簡単です。国の歴史が短く、アメリカ人という群体の歴史と文化に対する固執が無く、特定な民族性も無いからです。アメリカ人の現代文明を生み出す知恵が、非常にうまく機能しているのです。私はこの知恵に深く魅了されてしまいました。

 一部の楽観的な中国人学者は21世紀半ば頃に中国がアメリカを超えるという予想をしばしば書いています。数年前に日本の学者が書いた、来世紀に為替相場が1ドル=50円となり、アメリカを超えて世界一になるだろうという雑誌記事をまだ覚えています。アメリカがこれからどの位強くなるのは予想もできませんが、その人材の吸収政策を続ける以上、地球上の他の国はアメリカを超え、アメリカの代わりに世界をleadする事は不可能だと思います。なぜなら、人材流入とアメリカの国力がpositive-feedback的になっているからです。優秀な人材がアメリカに移住したら、他国の人材は少なくなります。逆に、アメリカから人材を吸収するために必要な社会環境と経済力は、どこの国にもないのです。私は中国がアメリカを超えるという予測を、ただ現実的にはできないものを、将来に希望を持たせるという中国人の虚栄心の現われに過ぎないと見ています。遠い将来にはその可能性が完全にないとは言えませんが、その希望を持つ前に、中国人の意識形態の進歩に相当の努力をしなければならないと思います。又、今回同行した日本人のbossは「日本の大学は外国人に壁が厚い。現在の日本もアメリカを超える希望が見えない。」と言っています。

 アジア経済危機に襲われる中国と、経済不況の底も見えない日本は、これからどうなるでしょう。元々の移民輸出国の中国も日本もアメリカのような移民国家には絶対なれないでしょうが、そのアメリカの強みを作り出したアメリカ人から何かの新しい知恵が得られないでしょうか?これからの世界では、文明を生み出す力はアメリカのような人材豊富な多民族国家にしかないと考えないといけないのです。