SGRAプロジェクト

  • 朱琳「AFC#4:SGRAセッション『東アジアのナショナリズムを再考する』報告」

    第4回アジア未来会議の一環として、私が企画責任者を務めるグループセッションが8月26日(日)午後にソウルのThe_K-Hotelで開催された。セッションのテーマは「東アジアのナショナリズムを再考する――日・中・韓の近代史からの問い」である。   今日、東アジア諸国の相互依存が一層深まる一方で、感情的摩擦が次第に表面化するようになった一面も否定できない。それは、それぞれ周辺文化への理解の未熟さや、「東アジア」という空間形成の歴史的経緯の軽視などに由来したところが多いと言えよう。そこで、文化のグローバリゼーション(光と影の両面)などに対応しうる「国民国家」というシステムのより広い文脈での位置づけ、および総合的な見通しが問われている。このような問いに検討を加えるために、狭義の一国史に限定することなく、「東アジア」という「場」を多様な文化が接触・連鎖する「舞台」として複眼的・動態的に認識し考察する必要があるように考えられる。 このような問題意識のもとで、今回は3名の発表者と2名の討論者を迎えてセッションを組んでみた。   まず、李セボン氏(延世大学比較社会文化研究所・専門研究員)は「儒者の視点から見た「文明」とナショナリズム――中村正直を中心に」という題で発表した。主に幕末から明治初期にかけて活動し儒学というレンズを通して西洋を見た中村正直(1832~1891)の思想を手がかりに、儒者のいう「文明」とナショナリズムの関係について考察している。   ついで、黄斌氏(早稲田大学地域・地域間研究機構・次席研究員)は「アジア主義・ナショナリズムとマルクス主義の狭間――李大釗の葛藤」という題で発表した。中国ナショナリズムの系譜を時系列に整理した上、その系譜の中に中国共産党の創立に参加した李大釗(1889~1927)の思想を位置づけ、その思想の変容および影響などを分析している。   3番目の発表者は柳忠煕氏(福岡大学人文学部東アジア地域言語学科・専任講師)であり、発表題目は「朝鮮知識人の戦争協力と〈朝鮮的なもの〉――尹致昊と李光洙を中心に」である。帝国日本の戦争遂行に協力した植民地朝鮮の知識人の政治的想像力とはどのようなものだったのかという問題提起を行い、尹致昊(1865~1945)と李光洙(1892~1950)の二人のそれぞれの戦争協力の理由と論理を明らかにし、〈帝国/植民地〉という状況における〈朝鮮的なもの〉の保存への試みとその逆説を解析している。   討論者として、平野聡氏(東京大学大学院法学政治学研究科・教授)と劉雨珍氏(南開大学外国語学院・教授)を迎えた。3名の発表内容について逐一、感想とコメントをされただけでなく、的確なアドバイスもいただいた。   セッションとして、必ずしも最初から意識していたわけではないが、結果的に明治・大正・昭和の3つの時期をカバーし、そして日・中・韓の3国の知識人の思想的葛藤と苦闘を凝縮的にそれぞれの発表に反映させたことになり、よくバランスがとれた。発表者と討論者に加え、聴衆も積極的に参加してくれたおかげで、大変濃密な議論の時間を過ごすことができた。   聴衆に福島大学のある教授がおられ、会議後、ここソウルでこんなに高いレベルの発表およびコメントを聞けるとは思わなかったという。この言葉を励みに、今後できればよりよい企画を提案できるよう協力していきたい。   *発表者、討論者、そして、何よりも渥美国際交流財団の関係者の方々のおかげで、セッションを成功裏に開催できたことを心より感謝申し上げます。皆さま、本当にどうもありがとうございました!   当日の写真   <朱 琳(シュ・リン)ZHU_Lin> 東北大学大学院国際文化研究科准教授。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。専門はアジア政治思想史。     2018年10月25日配信  
  • 第5回アジア未来会議☆発表要旨の募集開始!

    渥美国際交流財団関口グローバル研究会は、バンコク、バリ島、北九州、ソウルに続き、マニラ近郊にて第5回アジア未来会議を開催します。アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心のある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。アジア未来会議は、学際性を核としており、グローバル化に伴う様々な課題に対して、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化の課題も視野にいれた多面的な取り組みを奨励します。毎回400名以上の参加者を得、200編以上の論文発表が行われます。活発な議論の場を創るため、皆様の積極的なご参加をお待ちしています。   日時:2020年1月9日(木)~13日(月)(到着日と出発日を含む) 場所:フィリピン国マニラ首都圏アラバンとラグナ州ロスバニョス 総合テーマ:持続的な共有型成長-みんなの故郷(ふるさと)、みんなの幸福(しあわせ) http://www.aisf.or.jp/AFC/2020/   アジア未来会議は下記の要項にしたがって論文・小論文・ポスター/展示の発表要旨を募集しています。アジア未来会議は、特定分野の学会ではないので、一般の人々にもわかる発表を心掛けてください。   〇上記総合テーマに含まれる下記トピックに関連する研究発表の提案を募集中。 【効率】成長と繁栄 地域貿易と統合 グローバル化 移動 連携性 技術/社会革新 【公平】平和 公共/民間ガバナンス 紛争解決 人権 公平性 倫理 【環境】持続性 環境 生物多様性 気候変動 被災リスク管理 【人間】特別支援 文化/宗教研究 健康 教育 歴史 特別枠 共有型成長のメカニズム   〇発表言語 第5回アジア未来会議の公用語は英語と日本語です。登録時に、まず口頭発表およびポスター/展示発表の言語を選んでいただきます。英語で発表する場合の発表要旨は250語以内に纏めてください。日本語で発表する場合は、発表要旨のみ日本語(600字)と英語(250語)との両方で投稿していただきます。論文および小論文は日本語のみでけっこうです。   〇発表の種類 1.小論文(2~3ページ) 2.論文(5ページ以上10ページ以内) 3.ポスター/発表展示   〇分科会セッションの割り当て 分科会は、2020年1月10日(金)にアラバンで、1月11日(土)にフィリピン大学ロスバニョス校で開催します。 1.一般セッション(個人投稿:アジア未来会議実行委員会が割り当てる) 2.グループセッション(グループで独自のセッションを作る) 3.学生セッション   〇発表要旨の提出期限 [A] 奨学金・優秀論文賞の選考対象となる論文の発表要旨の投稿 2018年10月17日から2019年1月1日 [B] 論文・小論文・ポスター/展示の発表要旨の一般投稿(奨学金・優秀論文賞の対象外) 2018年10月10日から2019年6月30日   詳細は下記ウェブサイトをご覧ください。 画面上のタブで言語(英語か日本語)を選んでください。 http://www.aisf.or.jp/AFC/2020/call-for-papers/     2018年10月18日配信
  • 第3回東アジア日本研究者協議会へのお誘い

      東アジア日本研究者協議会は、東アジアの日本研究関連の学術と人的交流を目的として2016年に発足し、韓国・仁川で第1回国際学術会議が開催されました。2017年の第2回会議(於中国・天津)に続き、本年10月末には第3回会議が日本・京都で開催されることとなりました。 歴史的な壁のため、さらに東アジアでは自国内に日本研究者集団が既に存在することもあり、国境・分野を越えた日本研究者の研究交流が妨げられてきた側面があります。東アジア日本研究者協議会は日本研究の質的な向上、自国中心の日本研究から多様な観点に基づく日本研究への志向、東アジアの安定と平和への寄与の3つを目的としています。SGRAも同協議会の理念に賛同して共同パネルとして参加をいたします。 本年はSGRAから、「現代日本社会の「生殖」における男性の役割――妊娠・出産・ 育児をめぐるナラティブから」、「アジアにおける日本研究者ネットワークの構築――SGRA(渥美国際交流財団)の取り組みを中心に」の2パネルが参加します。 これを機会に皆様のご参加やご関心をお寄せいただければ幸いです。     第3回東アジア日本研究者協議会 国際学術大会 日 時:   2018 年 10 月 26 日(金)~ 28 日(日) 会 場:    国際日本文化研究センター(10月26日)  京都リサーチパーク(10月26日 、27日、28日) 主 催: 東アジア日本研究者協議会、国際日本文化研究センター 共 催: 独立行政法人国際交流基金 助 成:    鹿島学術振興財団、村田学術振興財団 概 要 :     全体プログラム  分科会プログラム ——————————————————————————————— SGRA参加パネル 「現代日本社会の「生殖」における男性の役割――妊娠・出産・ 育児をめぐるナラティブから」 「アジアにおける日本研究者ネットワークの構築――SGRA(渥美国際交流財団)の取り組みを中心に」 ——————————————————————————————— ——————————————————————————————— ◆セッションB1:「現代日本社会の「生殖」における男性の役割――妊娠・出産・ 育児をめぐるナラティブから」 分科会1(一般パネル) 10月27日(土)9:30-11:00 於 京都リサーチパーク ——————————————————————————————— パネル趣旨: 現代日本における最重要の社会的課題として「少子化」は、依然として大いに議論されている。そのなかで、個人の妊娠・出産・育児には、国家や企業、マスメディアからの介入がみられるが、その言説では、若い女性が子供を産み育てるために身体・キャリア・恋愛などの人生のあらゆる側面をプランニングし、管理する必要性が説かれている。そうした「妊活」(妊娠活動)や育児に関わる言説には、今も尚、母性神話が未だ強く根付いている。一方、そこに男性の存在感は稀薄であり、家庭内における「父親の不在」がしばしば指摘されている。たとえ「イクメン」という言葉が流行し、子育てに参加したい気持ちはあっても、長時間労働や日本企業独特の評価制度などに縛られ、それを許されない男性は多い。 上記の背景を踏まえた上で、本パネルでは、社会学と文学のそれぞれの視点から、妊娠・出産・育児における男性の役割がいかにして語られるかを考えていく。   パネリスト: 司会者     コーベル・アメリ(パリ政治学院) 発表者1   ファスベンダー・イサ ベル(東京外国語大学) 発表者2  グアリーニ・レティツィア(国際基督教大学)* 討論者1  デール・ソンヤ(一橋大学) 討論者2  モリソン・リンジー(武蔵大学)     発表要旨:   【発表①】 「妊活」言説における男らしさ―現代日本社会における 「産ませる性」としての男性に関する言説分析 (ファスベンダー・イサ ベル )   「妊娠」すること、「産む」ことは、個人的な領域に属していると思われがちであるが、不断に政治的なものとして公の介入を受けてきた。とりわけ、切実な少子化社会にあることを背景に、「少子化政策の主体たる国家」、「生殖テクノロジーを用いて不妊治療サービスを展開する医療企業」、「世論を左右するマスメディア」の三つの権力主体が相互に絡み合いながら、その言説を形成してきた。つねに問題視されてきたのは「妊孕性」と「年齢」の関係性である。個人に"正しい"「情報・知識」を提供することで、若い女性が子供を産むために身体・キャリア・恋愛などの人生のあらゆる側面をプランニングし、管理する必要性が説かれてきた。 先行研究においては、これまで「妊活」言説の主人公が主に女性に限定されてきたことが批判されている。ただ最近になって、男性の身体、妊孕性をめぐる言説も注目されてきている。生殖テクノロジーの発展に伴う生殖プロセスの、生殖細胞レベルでの可視化が、さらに徹底して利用されていることが背景にある。本発表は、新聞記事、専門家へのインタービュー、男性向けの「妊活」情報、そして男性自身の語る「妊活」体験談などの分析に基づいて、男性の生殖における役割が現在の日本社会においてどのように位置づけられているのかを探ってゆく。それによって、現在進行する「生殖をめぐるポリティクス」、ひいては権力による「性の管理」について、重要な一側面を明るみに出すことを目指す。     【発表②】 妊娠・出産・育児がつくりあげる男性の身体-川端裕人 「ふにゅう」と「デリパニ」を手がかりに-  (グアリーニ・レティツィア)   現代日本における出産・育児の語り方は、常に女性に焦点を当て、母親がいかにして子どもを産み育てるための身体を作るべきか論じられている。一方、そこに男性の存在は稀薄であり、家庭内における「父親の不在」がしばしば指摘されている。たとえ「イクメン」という言葉が流行しているとはいえ、父親が出産・育児において副次的な役割しか担わないことは多い。このような社会事情を反映する現代文学においても出産・育児の体験はしばしば女性を中心に語られており、その体験が母親の身体および精神にいかなる影響を与えるかを探求する作品が多い。それに対して、男性が物語の舞台に登場することは少ない上、育児に「協力する」副次的な人物として描かれることが多い。 本発表では、川端裕人の『おとうさんといっしょ』(2004年)を中心に日本現代文学における父親像の表象について考察を試みる。まずは、川上未映子、角田光代、伊藤比呂美、山崎ナオコーラなど、様々な作家や作品を並べて分析することによって、出産・育児における母親像および父親像を探り、「父親の不在」の表象を明確にする。また、川端裕人の『おとうさんといっしょ』から出産に立ち会う男性を主人公にする「デリパニ」と授乳しようと試みる父親を描く「ふにゅう」、この二つの短編小説を取り上げる。川端裕人の作品分析をもって、男性の身体に焦点を絞りながら父親の表象について論じ、新たな観点から出産・育児の体験を考察する。     ——————————————————————————————— ◆セッションB3:「アジアにおける日本研究者ネットワークの構築――SGRA(渥美国際交流財団)の取り組みを中心に」 分科会3(一般パネル) 10月27日(土) 13:45-15:15 於 京都リサーチパーク ——————————————————————————————— パネル趣旨: 「関口グローバル研究会」(SGRA)は渥美国際交流財団が支援した元奨学生が中心となって活動している研究ネットワークである。21世紀の幕開けに設立されたSGRAは、第1回フォーラム「21世紀の日本とアジア」を皮切りに、多分野多国籍の研究者によって、多面的なアプローチから研究を行っている。その集大成として2013年に第1回アジア未来フォーラム(AFC)が開催され、今夏に第4回AFCは成功裏に幕を閉じた。 2014年第2回AFC@バリ島円卓会議の続編として行なわれた2015年第49回SGRAフォーラム「日本研究の新しいパラダイムを求めて」において、「日本研究」をアジアの「公共知」として育成するために、アジアで共有できるアジア研究を目指すネットワークの構築が喫緊の課題だというコンセンサスが得られた。また、東アジアに創られた「知の共同空間」での「共同体」の構築に欠かせない「方法としての東アジアの日本研究」の意義も再認識された(SGRAレポートNo.74<2016.6発行>より)。 その翌年に第1回東アジア日本研究者協議会(EACJS)がソウルで開催され、2017年第2回@天津に続き、今秋第3回EACJS@京都の開催を迎える運びになった。いわば、SGRAフォーラムで展開された有識者らの論議が起爆剤になり、東アジアの日本研究者を集結する「知の共同空間」を誕生させたのではないかともいえよう。 本パネルでは、アジアにおける日本研究者ネットワークの構築が実現するまでに、2000年発足以来継続してきたSGRAの取り組みを振り返り、今後目指すべき新地平を探る。特に、SGRAフォーラムとシンクロして、アジア各地域で展開される、「日韓アジア未来フォーラム」(2001~)、「日比共有型成長セミナー」(2004~)、「SGRAチャイナフォーラム」(2006~)、「日台アジア未来フォーラム」(2011~)に焦点を当て、地域ごとの活動報告に伴い、より創発的に共有できる「知の共同空間」の構築に解決すべき課題、未来を切り拓く骨太ビジョンの策定等について、活発的な意見交換を行う。   パネリスト: 司会者  劉傑 (早稲田大学) 発表者1    金雄熙(韓国・仁荷大学) 発表者2    マキト、フェルディナンド  (フィリピン大学ロスバニョス校) 発表者3 孫建軍(中国・北京大学) 発表者4 張桂娥(台湾・東呉大学)* 討論者1 稲賀繁美(国際日本文化研究センター) 討論者2 徐興慶(台湾:中国文化大学)     発表要旨:   【発表①】 日韓アジア未来フォーラムの経緯、現状と課題: 「ダイナミックで実践的な知のネットワークを目指して」(金雄熙)     「日韓アジア未来フォーラム」(JKAFF)は、日本と韓国、そしてアジアの研究者及び現場の専門家たちが、アジアの未来について幅広く意見を交換する集まりであり、韓国ラクーンも積極的に参加し、知のネットワークを築き上げてきた。2001年韓国未来人力研究院の「21世紀日本研究グループ」と渥美財団SGRAの共同プロジェクトで始まり、主に東アジア共同体の構築に向けた様々な分野における地域協力の動きや可能性を探ってきた。2001年10月に第1回会議がソウルで開かれて以来、2018年3月第17回まで間断なく進められ、さらなる発展を模索している。歴史問題で揺れ動く日韓の間ではあまり類を見ないしっかりした交流プロジェクトであると自負できよう。 これまでのテーマは、「アジア共同体構築に向けての日本および韓国の役割について」、「東アジアにおける韓流と日流:地域協力におけるソフトパワーになりうるか」、「親日・反日・克日:多様化する韓国の対日観」、「日韓の東アジア地域構想と中国観」、「東アジアにおける公演文化(芸能)の発生と現在:その普遍性と独自性」、「1300年前の東アジア地域交流」、「東アジアにおける原子力安全とエネルギー問題」、「アジア太平洋時代における東アジア新秩序の模索」、「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」、「アジア経済のダイナミズム-物流を中心に」、そして最近の日中韓の国際開発協力についての3か年プロジェクトなど、2-3年単位のプロジェクトで東アジア協力課題について議論してきた。 JKAFFは主に主催側の代表や幹事とでテーマを設定し、SGRAメンバーやその分野の専門家に参加を呼び掛けるかたちで専門用語が通じ、顔の見える実践的な知のネットワークの構築を目指してきた。これまでの経験からみると、専門性の追求と緩やかなネットワークの構築には相反する側面もあったと思われる。17年も同じ進め方で運営してきたので、テーマの設定の在り方や次世代を担う若手研究者の育成という面では考え直すところがあるのも事実であろう。今後より多元的で弾力的な推進体系を取り入れ、東アジア地域協力課題により多面的に対応し、ダイナミックで実践的な知のネットワークを作り上げていきたい。     【発表②】 日比共有型成長セミナーの経緯、現状と課題: 「持続的な共有型成長~みんなの故郷(ふるさと)、みんなの幸福(しあわせ)~をめざして」(マキト、フェルディナンド)       マキトがマニラに設立した「SGRAフィリピン」は渥美財団の支援を受けて、2004年から毎年マニラ市を中心にフィリピン各地でセミナーを24回開催してきた。テーマは一貫して「共有型成長(Shared Growth)」。これは、世界銀行が「東アジアの奇跡」と呼んだ、経済成長とともに貧富の格差が縮小した日本をはじめとする東アジア各国の1960~70年代の経験に因む。残念ながらフィリピンはこの「奇跡」の中に入れなかったので、かつての日本の経験をフィリピンに伝えたいという願いがあった。以来15年間に日本の社会経済状況は大きく変わったが、「グローバル化の津波」にいかに対抗するかという本セミナーの問題意識は変わらない。近年は、グローバルに深刻な環境問題も取り入れ、「持続的な共有型成長」というテーマに発展した。持続的な共有型成長セミナーでは、環境保全(持続可能)、公平(共有型)、効率(成長)の実現を目ざすために必要と思われるメカニズムを多角的な視点から考察し、実現のための途を探って行きたい。多くの参加を促す為に、国際的、学際的、分野横断的なアプローチで、専門家だけでなく一般人にもわかるような発表・議論を進めようとしている。 本セミナーは、SGRAでは珍しく英語のみで実施している。これまでのテーマは、「都会・地方の格差と持続可能共有型成長」「人と自然を大切にする製造業」「人間環境学と持続可能共有型成長」「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」「地方分権と持続可能な共有型成長」「人や自然を貧しくしない進歩:地価税や経済地代の役割」など。 共有型成長セミナーは、当初マニラ市にあるアジア太平洋大学の協力を得て開始したが、2010年と2011年に渥美奨学生同期の高偉俊教授が、フィリピン大学(ディリマン校)工学部建築学科の研究者数名を北九州市立大学に招へいし、日本で2回環境問題をテーマにSGRAフォーラムを開催してから、共有型セミナーにも積極的に関わって学際的な人的ネットワークが発展し、2013年にフィリピン大学で開催した第16回セミナーには220名もの参加者を得た。その後、マニラだけでなくフィリピン各地における円卓会議の開催も試みられたが、2017年にマキトが帰国し、フィリピン大学ロスバニョス校に赴任したため、本セミナーは同校の全面的な支援を受けて、毎年2~3回のペースで開催する予定である。 共有型セミナー通じて形成されたフィリピン国内における研究者ネットワークは、渥美財団が開催するアジア未来会議の実施に貢献している。そして、共有型成長セミナーのネットワークとフィリピン大学ロスバニョス校の全面的な支援を得て、第5回アジア未来会議は、2020年1月にフィリピンで開催される。     【発表③】 SGRAチャイナフォーラムの経緯、現状と課題: 「広域的な視点から東アジア文化史再構築の可能性を探って」(孫建軍)     2006年に発足したSGRAのチャイナフォーラムは早くも12年間活動してきた。他の地域のSGRA活動と較れば、内容に大きな方向転換があったのが主な特徴といえる。活動当初は、中国人若者を対象に、日本の各界で活躍しているNPOの方が講演をする形式だった。テーマとして、日本語教育、黄土高原の緑化協力、在日アジア人留学生の支援、水俣病、アフリカ児童への食事支援、中国の環境問題と日中民間協力、ボランティアなどがあった。会場は大学が殆どだったが、国際交流基金北京日本文化センターで行うこともあった。また、同じ内容の講演を、北京のほかに、もう1箇所の都市で開催することも試みた。フフホトをはじめ、延辺・ウルムチ・上海などにおいて、計6回ほど行われている。また、より多くの中国人若者の参加を得るため、同時通訳付きで行われたこともチャイナフォーラムの特徴の一つだった。毎回のアンケート集計を見れば、講演から様々な知識を得て、視野が広がったといった回答が多く、やりがいのない活動内容ではなかった。 日本と中国は一衣帯水の関係にあると言われているが、この一衣帯水も日中関係を荒らすことがある2012年に起きた周知の出来事の波紋が予想外にもチャイナフォーラムに及び、活動内容の大きな軌道修正を促した。清華大学東亜文化講座の協力を得て、2014年より広域的な視点から東アジア文化史再構築の可能性を探ることをテーマの主眼に据え、日本文学や文化の研究者を対象に、「近代日本美術史と中国」、「日中200年―文化史からの再検討」、「東アジア広域文化史の試み」(アジア未来会議の一部)、「東アジアからみた中国美術史学」と、4回ほど行ってきた。多くの中国人研究者の関心を集め、成功裏に開催できたことを実感した。本発表では方向転換が功を奏した理由を探ってみたい。     【発表④】 日台アジア未来フォーラムの経緯、現状と課題: 「既成概念にとらわれない柔軟なフットワークで、身の丈にあった知的交流活動の展開を」(張桂娥)     「関口グローバル研究会」(SGRA)主催の地域型国際会議として、2011年から毎年開催する「日台アジア未来フォーラム」(JTAFF)は、台湾ラクーン(渥美国際交流財団元奨学生)が中心となって活動している学術交流ネットワークである。JTAFFでは、主にアジアにおける言語、文化、文学、教育、法律、歴史、社会、地域交流などの議題を取り上げ、若手研究者の育成を通じて、日台の学術交流を促進し、日本研究の深化を目的とすると同時に、若者が夢と希望を持てるアジアの未来を考えることを、その設立の趣旨としている。 これまでのテーマは、「国際日本学研究の最前線に向けて」、「東アジア企業法制の現状とグローバル化の影響」、「近代日本政治思想の展開と東アジアのナショナリズム」、「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流」、「日本研究から見た日台交流120 年」、「東アジアにおける知の交流」、「台・日・韓における重要法制度の比較」、「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」など、実に多種多様である。 JTAFF主催責任を担う台湾ラクーンは、バラエティーに富んだ多元的学問領域を視座に、既成概念にとらわれない柔軟なフットワークを展開してきた。いわば「身の丈にあった日台間知的交流活動」をコンセプトに、地道な活動に取り組んきたわけであるが、目標も着地点も定まらない中、危機感を募らせる現状である。 本発表では、JTAFFの活動報告に伴い、持続可能な「知の共同空間」の構築に欠かせない骨太ビジョンの策定等について、有識者と活発的な意見交換を行いたい。    
  • 金キョン泰「第3回『国史たちの対話の可能性』円卓会議報告」

    (第4回アジア未来会議円卓会議報告)   2018年8月25日から26日、ソウルのThe_K-Hotelで第3回「国史たちの対話の可能性」円卓会議が開かれた。今回のテーマは「17世紀東アジアの国際関係ー戦乱から安定へー」で、「壬辰・丁酉倭乱」と「丁卯・丙子胡乱」という国際戦争(戦乱)や大規模な戦乱を取上げ、その事実と研究史を確認した上で、各国が17世紀中頃以降いかに正常化を達成したかを検討しようという趣旨であった。各国が熾烈に争った戦乱と、相互の関係を維持しながらも、各自の方式で安定化を追求した様相を一緒に考察しようとしたのだ。 8月24日夕方のオリエンテーションでは国史対話に参加する方々の紹介があり、翌朝から2日間にわたって熱い議論が繰り広げられた。三谷博先生(跡見学園女子大学)の趣旨説明に続いて、趙珖先生(韓国国史編纂委員会)の基調講演があった。17世紀に朝鮮で危機を克服するために起きた数々の議論を参照しながら、17世紀のグローバル危機論の無批判的な適用を避けて、東アジア各国の実際の様相を内的・外的な観点から包括的に検討すれば、3国の歴史の共同認識に到達できると提言した。   第2セッションの発表テーマは「壬辰倭乱」だった。崔永昌先生(国立晋州博物館)は「韓国から見た壬辰倭乱」で、韓国史上の壬辰倭乱の認識の変化過程を具体的に分析した。鄭潔西先生(寧波大学)は「欺瞞か妥協か―壬辰倭乱期の外交交渉」で、従来は「欺瞞」と解されていた明と日本の講話交渉について再検討し、明と日本の交渉当事者が真摯に事に当っていたことを明らかにした。また、豊臣秀吉は講話交渉のなかで日本を明の下に、朝鮮をまた日本の下に位置させようとして朝鮮の王子などの条件を提示したが、明はそれを拒否したと報告した。荒木和憲先生(日本国立歴史民俗博物館)は「『壬辰戦争』の講和交渉」で、壬辰倭乱後の朝鮮と江戸幕府との間の国交交渉における対馬の国書偽造とこれを黙認した朝鮮の論理に注目した。壬辰倭乱というテーマは3国ですでに多くの研究が蓄積された分野であり、対立点も比較的に明確である。各国の史料に対する相互の理解が高まっているので、今後、より実質的かつ発展的な議論が期待されている。   第3セッションの発表テーマは「胡乱」だった。許泰玖先生(カトリック大学)は「『礼』の視座から見直した丙子胡乱」で、朝鮮が明白な劣勢にあっても清と対立(斥和論)した理由を、朝鮮が「礼」を国家の本質と信じていたことによると分析した。鈴木開先生(滋賀大学)は「『胡乱』研究の注意点」で、韓国の丙子胡乱の研究で「丁卯和約」と「朴蘭英の死」を扱う方式について紹介し、史料の重層性と多様性を理解するために利用できる事例とした。祁美琴先生(中国人民大学)は「ラマ教と17世紀の東アジア政局」で、清朝が政治的混乱を収拾していく過程でラマ教を利用しており、ラマ教もこれを利用して歴史の主役になれたことを明らかにした。清朝が中原を支配する過程で当時存在したいくつかの政治体や宗教体の実情も視野に入れなければならないという事実を再認識させてくれた。 本テーマは、倭乱に比べて3国間共同の対話が本格的に行われていない分野であると思う。史料の共有と検討はもちろん、3国の思想(あるいは宗教)にも大きな変動をもたらした事件として、一緒に議論する部分が多い研究分野と考えられる。   第4セッションの発表テーマは「国際関係の視点から見た17世紀の様相(社会・経済分野を中心に)」だった。牧原成征先生(東京大学)は「日本の近世化と土地・商業・軍事」で、豊臣政権後、江戸幕府に至る財政制度と武家奉公人の扱いの変動を分析した。変化の起きた点を明快に指摘し、専門でない人でも容易に理解することができた。崔ジョ姫先生(韓国国学振興院)は「17世紀前半の唐糧の運営と国家の財政負担』で、壬辰倭乱当時、明の支援に対する軍用糧食を意味した「唐糧」が、「胡乱」を経て租税に変化する様相を具体的な分析を通じて説明した。趙軼峰先生(東北師範大学)は「中朝関係の特徴および東アジア国際秩序との繋がり」で、「東アジア」と「朝貢体制」という概念について問題を提起して、本会議が対象としている17世紀以降の韓中関係の特性を紹介し、該当の概念語に対する代案が必要であることを提言した。 政治の動きの下にあって社会を動かす根元、社会・経済に対する関心は、本主題の発表者相互間はもちろん、他のテーマを担当した発表者や参加者たちも積極的な関心を示した分野だった。政治と同様に各国の経済構造は相当な差異を見せるという事実を確認し、これも今後の「国史」間の活発な交流が期待される分野であることを確認した。   セッション別の相互討論と、第5セッションの総合討論では、発表者が考える歴史上から具体的な論点まで多様な範囲の質疑応答が続いた。より熱烈な討論を期待した方たちが物足りなさを吐露したりもしたが、これは決して発表会が無気力であったという意味ではないと考えている。「国史」学者たちが自分の意見を強調する「戦闘的」討論から、外国史の認識を蓄積しつつ、さらに一段階上のレべルに進み始めたことを証明するものだったと思う。   また、「公式討論」の他に、他の国の異なる様相を理解して、その根源がどこにあるか再確認しようとする個別の討論があちこちで行われていたことを目撃した。そして、研究者間の個人的な交流も不可欠であるという考えを持つようになった。 3国の参加者たちが定められた発表と討論時間外にも長時間、共に自由に話し合う時間が必要だと思った。もちろん現実的には仕事が山積の状況で、さらに長い時間を一緒に過ごすのは難しいだろうが、3国以外の土地で会議を開催したり、オンラインを通じた持続的な対話をしたりして、問題意識の共有を進める方式も有効であろう。 また、今までの対話を通じて、自分の専門分野がもつ独特の用語や説明方式に固執せず、これを他の専門分野の学者にどうすれば簡単に伝えられるか、さらに、一般の人たちも理解できるようにする方式を考える必要があるという気がした。筆者もまた同じ義務を持っている。   3回の「対話」に参加しながら、ずっと感じるのは、言語の壁が大きいという事実だった。3国は「漢字」で作成された過去の史料を共有することができるという長所を持っている。歴史的にも近い距離で共通の歴史的事件をともに経験した。互いに使用する史料では疎通できるが、史料に根拠した自分の見解を伝えて相手の意見を聞くには「通訳」という手続きを経なければならなかった。3国の研究者たちがお互いの問題意識を認識してこれを本格的に論議を始める直前に会議の時間が尽きたような惜しい気持ちが残ったのは事実である。   しかし、多大な費用と努力を傾けた同時通訳は確かに今回の3国の国史たちの対話に大きく役立った。十分ではないが、2回目に比べて1歩、1回目に比べて2歩前進したという感じがした。 対話の場を作っていただいただけでなく、言語の障壁を少しでも低めるための努力をしてくださった渥美国際交流財団に感謝する。当初より5回で計画されている「対話」だが、その後も、たとえ小規模でもさらに踏み込んだ対話を交わすことができる、小さいながら深い「対話の場」が随時開かれることを期待する。   韓国語版報告書   会議の写真   関連資料 *報告書は2019年春にSGRAレポートとして3言語で発行する予定です。   <金キョンテ☆Kim Kyongtae> 韓国浦項市生まれ。韓国史専攻。高麗大学校韓国史学科博士課程中の2010年~2011年、東京大学大学院日本文化研究専攻(日本史学)外国人研究生。2014年高麗大学校韓国史学科で博士号取得。韓国学中央研究院研究員を経て現在は高麗大学校人文力量強化事業団研究教授。戦争の破壊的な本性と戦争が導いた荒地で絶えず成長する平和の間に存在した歴史に関心を持っている。主な著作:壬辰戦争期講和交渉研究(博士論文)       2018年10月11日配信  
  • 第4回アジア未来会議 東南アジア宗教間の対話円卓会議「寛容と和解-紛争解決と平和構築に向けた宗教の役割」報告

    2016年秋の第3回アジア未来会議での円卓会議「東南アジア宗教間」の対話では、グローバリゼーションに翻弄される東南アジア各国の諸課題への宗教の対応が議論された。 この時に、重要なトピックの一つとして提示されたのが、宗教間の「対立と和解」であった。今回、2018 年8月24日から28日までソウルで行われた第4回アジア未来会議では、「寛容と和解」をテーマとして円卓会議「東南アジア宗教間の対話『寛容と和解-紛争解決と平和構築に向けた宗教の役割』」を開催した。   対立や紛争では、その原因が政治経済的な課題であるにもかかわらず宗教の対立としての様相を帯びることが多い。宗教が民族や集団の基層文化のなかに深く根ざしているからにほかならないからである。民族、宗教のモザイクといわれる東南アジアにおいても、その傾向が顕著に表れ、対立が暴力的な宗教間の紛争に至ることも少なくない。   しかし、その一方で東南アジアでは、平和的な手段により対立や紛争を解決した事例も多く、和解に至るプロセスの経験も蓄積され始めている。今回の円卓会議では、東南アジア及び日本在住の宗教者、宗教研究者が集い、タイ、ミャンマー、インドネシア、ベトナム、フィリピンにおける紛争解決、平和構築の経験、事例をベースとして和解、平和構築に向けた宗教および宗教者の役割を探った。   【各国からの事例発表】(円卓会議は英語で行われた)   発表1:タイ Vichak_Panich(Vajrasiddha_Institute_of_Contemplative_Learning) “Buddhism_of_the_Oppressed:_Restoring_Humanity_in_Thai_Buddhist_Society” 「虐げられし者達の仏教へ−タイ仏教に人間性の回復を」   発表2:ミャンマー Carine_Jaquet(The_Research_Institute_on_Contemporary_Southeast_Asia) “Brief_Report_on_the_Situation_of_Rohingya_People” 「報告−ロヒンギャの人々の現状」   発表3:インドネシア Kamaruzzaman_Bustamam-Ahmad(Ar-Raniry_State_Islamic_University) “The_Dynamics_of_Muslim_Society_in_Aceh_after_Tsunami” 「津波災害後のアチェのイスラム社会のダイナミズム」   発表4:ベトナム Emmi_Okada(The_University_of_Sydney) "Reaching_Beyond_the_Religious_Divide_for_Peace: The_Experience_of_South_Vietnam_in_the_1960s" 「平和と宗教の分断を超えて−1960年代の南ベトナムの経験から」   発表5:フィリピン Jose_Jowe_Canuday(Ateneo_de_Manila_University) "Muslim_and_Christian_Dialogues_in_the_Southern_Philippines: Enduring_Grassroots_Inter-religious_Actions_in_a_Troubled_Region” 「南部フィリピンのイスラム教とキリスト教の対話−試練に耐える紛争地域におけるグラスルーツの宗教間対話の試み」   (文責:角田英一)     ◆小川忠「第4回アジア未来会議円卓会議『東南アジア宗教間の対話』に出席して」   会議テーマは「異なる宗教間」の対話であったが、「同じ宗教内」での対話こそ必要とされている。これが、今回の会議に出席して強く感じたことだ。   監修者の島薗進先生が会議冒頭で述べられた通り、世界中で宗教復興ともいうべき現象が顕著になっている。多様な宗教が混在する東南アジアも例外ではない。そして「イスラム過激派テロ」「ロヒンギャ問題」「ミンダナオ紛争」等日々接する東南アジア報道から、冷戦終結直後に政治学者ハンティントンが提起した通り、宗教を基盤とする文明が互いに対立し、流血を生んでいるかの如き印象をもってしまう。特にイスラム教については、その狂信性、好戦性ゆえに対立、暴力を拡散させているというイメージが、世界中に拡がっている。   しかし、イスラム教、仏教、キリスト教と様々な宗教的背景をもつ本会議出席者たちは、「宗教紛争」とされるものの多くは、植民地支配の負の遺産、国民国家建設の失敗、政治権力の宗教動員等によるものであって宗教が根本原因ではない、と指摘した。さらにイスラム教のみならず、平和的な宗教とされる仏教においても、排外的ナショナリズムと結合し他宗教に対する敵意を煽る強硬派が次第に勢力を拡大している。   そしてイスラム教、仏教内部において、政教分離を拒否し宗教とナショナリズムの結合を目指す動きが強まっている一方、これに抗し、宗教を政治から切り離し一定の距離を置き人権、民主主義を育てていこうというリベラル派が存在することも浮き彫りにされた。両者の亀裂が深まっているのが昨今の状況だ。それゆえに同一宗教内の対話が重要なのである。   対話の鍵を握るのは、宗教教義を「解釈する力」である、という指摘もあった。同じ宗教のなかにも相反する教義が存在する。宗教の有する多面性を理解した上で、今日の世界にあう創造的な解釈力が、それぞれの宗教において求められている。   グローバリゼーションが宗教にもたらしている衝撃も議論となった。グローバリゼーションとは、欧米発の情報、文化、価値観が世界中に拡がり、世界の画一化が進行するというイメージがあるが、ことはそれほど単純ではない。グローバリゼーションには様々な潮流が存在する。中東発のワッハーブ主義、サラフィー主義という厳格化、原理主義的イスラム思想が、インドネシアのアチェ他東南アジアで影響を強めている状況が報告された。   そしてグローバリゼーション時代に発達したソーシャル・メディアが、国境を越える大量の情報流入を東南アジア地域にもたらしている。それは国際的な対話と相互理解を育む機会を増大させるとともに、テロを煽る過激組織プロパガンダの影響力拡大にもつながっている。またグローバリゼーションに反発する排外感情の高まりという副作用も看過できない。ソーシャル・メディアは世界の平和にとって諸刃の刃のような存在、という見方が参加者のあいだで共有された。   各報告を聞くにつけ、東南アジア各国において宗教と社会の関係は多様かつ複雑であり、それを一般化して語るのがいかに危険であるかを再認識した。また対立から和解への道のりが容易ではない、とも感じた。しかし、ミンダナオの事例報告で述べられた通り、平和的手段により紛争を解決しようという模索がこれまで何度も試みられ、そのなかで和解に至る経験も蓄積され始めている。今できることを一歩一歩進めていくしかない。   多様な宗教的背景をもった東南アジアと日本の知識人が虚心坦懐に議論する場はありそうで実はさほど多くない。そうした貴重な機会を提供してくれた主催者の渥美国際交流財団関口グローバル研究会の見識に敬意を表し、感謝したい。   <小川 忠(おがわ・ただし)OGAWA_Tadashi> 2012年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 博士。 1982年から2017年まで35年間、国際交流基金に勤務し、ニューデリー事務所長、東南アジア総局長(ジャカルタ)、企画部長などを歴任。2017年4月から跡見学園女子大学文学部教授。専門は国際文化交流論、アジア地域研究。 主な著作に『ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭 軋むインド』(NTT出版)2000、『原理主義とは何か 米国、中東から日本まで』(講談社現代新書)2003、『テロと救済の原理主義』(新潮選書)2007、『インドネシア イスラーム大国の変貌』(新潮選書)2016等。   英文の報告書(English Version)   円卓会議の写真       2018年10月14日配信  
  • 李彦銘「第11回SGRAカフェ『日中台の微妙な三角関係』報告」

    7月28日(土)、台風の中で開催された今回のカフェは、テーマが「日中台の微妙な三角関係」であった。カフェの途中から大雨に見舞われ、中庭でのBBQを断念せざるをえなかったが、その分の時間を講演後の質疑応答に回すことができ、濃密な2時間を30人弱という参加者で共有できた。   講師を務めたのは、「辺境東アジア」アイデンティティという概念を考案された林泉忠先生(現在中央研究院近代史研究所副研究員)で、元渥美財団の奨学生でもあった。まず、今西淳子代表からSGRAカフェ開催の経緯の説明があった。卒業し各専門分野で活躍している奨学生と気楽にお互いの専門の話を、忌憚なく共有するというのが最初にカフェを開催した目的/きっかけとのことだった。   今回の講演のキーワードは「微妙な三角関係」であるが、その「微妙さ」、特に常に日台関係の懸念材料になる「中国要因」をよりよく理解するために、講師はまず歴史、つまり日清戦争の結果としての台湾植民地化から話を始めた。大陸から切り離された台湾島という地域では、大陸と異なるアイデンティティ形成・近代的国民国家(nation_state)を経験していたことが強調された。さらにその後の日中戦争とその結果としての国民党敗北・台湾入りも、大陸の共産党政権に対するイメージ形成、台湾内部の亀裂(本省人・外省人)につながっていったことなど、現在になっても、歴史は相変わらず中・台の異なる対日認識の根源であると言及した。その後は、戦後「日中関係」(日本と中華人民共和国および日本と中華民国)の形成や、日中国交正常化をきっかけに構築された「72年体制」、日中関係における「台湾問題」の歴史変遷を説明しつつ、中国政府が日台関係に常に多大な関心を払う主な要因をまとめた。つまり、中国政府にとっては、台湾はいまだに未統一の領土で、近代国家の建設にとって必要不可欠な一部であり、政権の正統性の中核にも関わる問題である。   そのうえで、近年の日台関係の主な動向とその懸念材料になる「中国要因」に話が移り変わり、日中台という三角関係のこれからが展望された。特に2013年以来は、日中関係の硬直化と同時に、日台の政治関係の強化が見受けられた。しかし中国政府は自国の実力増強と共に、一方でかつてほどない寛容な態度を示し、もう一方では注意深い警戒を示し、蔡英文政権により強硬な態度で圧力をかけ続けている。このようなアプローチは、台湾のさらなる日米接近をもたらすだろう。しかし中国政府と日米の政治的約束を破ることも決して簡単ではなく、この「微妙」な関係と複雑な駆け引きは今後も続くという結論にたどり着いた。   質疑応答では、もっぱら現実問題に集中していたが、なかでは例えば中国政府による国際社会での「台湾人いじめ」はいつまでなのかなど、専門的な質問というよりは一般人の生活感覚からの質問なども出てきた。このような感覚が生まれたことは、やはり、中国側の政策決定の基盤となる台湾社会への理解が十分ではないことをよく反映しているといえよう。また元外交官や、経済交流の実務家などオーディエンスからも自らの体験・展望が語られ、講師の議論を大変有機的に補完した。   その後は、BBQを楽しみながら講師と参加者の歓談がしばらく続いた。SGRAカフェの参加者の数は増えてきたが、多様な知見を気楽に忌憚なく共有するというモットーは、しっかり受け継いでいるようである。   当日の写真   英訳版はこちら   BBQの様子は下記リンクをご覧ください。 ◇趙秀一「真夏のBBQ」   <李彦銘(リ・イェンミン)LI_Yanming> 専門は国際政治、日中関係。北京大学国際関係学院を卒業してから来日し、慶應義塾大学法学研究科より修士号・博士号を取得。慶應義塾大学東アジア研究所現代中国研究センター研究員を経て、2017年より東京大学教養学部特任講師。     2018年9月5日配信
  • 第4回アジア未来会議報告

    2018年8月24日(金)~28日(火)、韓国ソウル市のThe_K-Hotelにおいて、21ヵ国から379名の登録参加者を得て、第4回アジア未来会議が開催されました。総合テーマは「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」。朝鮮戦争の後、韓国は絶え間ない努力と海外からの多大な援助によって「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を遂げました。歴史的経験から、開発にともなう苦痛や悩みをよく理解している韓国のソウルで開催されたこの会議が、これからのアジアの「平和と繁栄、そしてダイナミックな未来」に寄与することを願って、広範な領域における課題に取り組み、基調講演とシンポジウム、招待講師による円卓会議、そして数多くの研究論文の発表が行われ、国際的かつ学際的な議論が繰り広げられました。   アジアだけでなく世界各地から参加者が到着予定の8月24日(金)は、韓国では6年ぶりという台風19号がソウルを直撃するという予報が早くからだされ、東南アジアからの便が数本キャンセルになりましたが、台風の進路は東に逸れ、殆どの参加者はこの日に会場までたどり着くことができました。   翌、8月25日(土)の午前中は2本の円卓会議と同時進行で10の分科会が行われました。円卓会議の概要は以下の通りです。   ◇円卓会議A「第3回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」(助成:東京倶楽部) この円卓会議では、東アジアの歴史和解を実現するとともに、国民同士の信頼を回復し、安定した協力関係を構築するためには歴史を乗り越えることが一つの課題であると捉え、日本の「日本史」、中国の「中国史」、韓国の「韓国史」を対話させる試みです。今回は5回シリーズの第3回めで、「17世紀東アジアの国際関係ー戦乱から安定へー」というテーマで議論が展開されました。さらに、最後のセッションでは、早稲田大学の「和解学の創成」プロジェクトの一環として、今までに行われた歴史対話の試みについて振り返りました。(日中韓同時通訳)   ◇円卓会議B「第2回東南アジア宗教間の対話」では、「寛容と和解-紛争解決と平和構築に向けた宗教の役割」をテーマに、対立や紛争の原因が政治経済的な課題であるにもかかわらず、宗教の対立としての様相を帯びることが数多くあるが、それは宗教が対立する民族や集団の基層文化のなかに深く根ざしているからにほかならないという問題意識により、ミャンマー、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムの紛争解決、平和構築の経験及び研究をベースとして和解、平和構築に向けた宗教および宗教者の役割、そして「平和と和解」への途を探りました。(使用言語:英語)   昼食休憩の後、午後2時から開会式が始まり、明石康大会会長が第4回アジア未来会議の開会を宣言しました。共催の韓国未来人力研究院の李鎮奎理事長の歓迎の挨拶の後、長嶺安政在韓国日本大使より祝辞をいただきました。   引き続き、「AIと人間の心、そして未来」と題した基調講演およびシンポジウムが開催されました。慶熙サイバー大学の鄭智勲教授「AIの今、そして未来」、ソウル大学の金起顯教授「AIと人間の心」の2本の基調講演の後、共催の韓国社会科学協議会の朴賛郁会長の進行で、韓国政治学会の金義英会長、韓国社会学会の申光榮会長、大韓地理学会の李勇雨次期会長、国際開発協力学会の權赫周時期会長、韓国国際政治学会の金錫宇会長を討論者に迎え、AIが社会に与える影響を検討しました。(韓英同時通訳) 最後に、400人を超える参加者は、HONAというグループによる韓国伝統楽器を用いたジャズのコンサートを楽しみました。   第4回アジア未来会議のプログラム     その後、台風一過で快晴の屋上庭園で開かれたウェルカムパーティーは、ジャズ演奏を聴きながら夜遅くまで続きました。   8月26日(日)午前9時から、12の小会議室を使って、分科会が行われました。前日の午前中と合わせて、7グループセッション、6学生セッション、43一般セッションが行われ、224本の論文発表が行われました。アジア未来会議は国際的かつ学際的なアプローチを目指しており、各セッションは、発表者が投稿時に選んだ「平和」「幸福」「イノベーション」などのトピックに基づいて調整され、学術学会とは趣を異にした、多角的で活発な議論が展開されました。   一般セッションと学生セッションでは、各セッションごとに2名の座長の推薦により優秀発表賞が選ばれました。   優秀発表賞の受賞者リスト     優秀論文は学術委員会によって事前に選考されました。2017年8月31日までに発表要旨、2018年2月28日までにフルペーパーがオンライン投稿された137篇の論文を14グループに分け、ひとつのグループを4名の審査員が、(1)論文のテーマが会議のテーマ「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」と適合しているか、(2)わかりやすく説得力があるか、(3)独自性と革新性があるか、(4)国際性があるか、(5)学際性があるか、という指針に基づいて査読しました。各審査員は、グループの中の9~10本の論文から2本を推薦し、集計の結果、上位19本を優秀論文と決定しました。   優秀論文リスト   クロージングパーティーは、同日午後6時半からピアノの演奏で始まり、今西淳子AFC実行委員長の会議報告のあと、共催の韓国社会科学協議会の朴賛郁会長のご発声により乾杯をして会の成功を祝いました。宴もたけなわの頃、優秀賞の授賞式が行われました。授賞式では、優秀論文の著者19名が壇上に上がり、明石康大会委員長から賞状の授与がありました。続いて、優秀発表賞48名が表彰されました。   パーティーの終盤に、第5回アジア未来会議の概要の発表がありました。フィリピン大学ロスバニョス校総長自らの歓迎ビデオと、実行委員会からの挨拶、そしてフィリピンからの参加者全員が会場も巻き込んでフィリピン版カンナムスタイルを踊り、会場は大いに盛り上がりました。   8月27日(月)、参加者はそれぞれ、非武装地帯スタディツアー、ソウル伝統建築ツアー、ソウル市内観光、南漢山城スタディツアー、NANTA鑑賞などに参加しました。   第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」は、(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)主催、韓国社会科学協議会と(財)未来人力研究院の共催、文部科学省、在韓日本大使館、ソウルジャパンクラブの後援、(一社)東京倶楽部の助成、CISV_Korea、(公財)本庄国際奨学財団、Doalltec(株)、グローバルBIM(株)の協力、そして、POSCO建設(株)、HAEAHN_Architecture(株)、(株)NIスティール、中外製薬(株)、三菱商事(株)、東京海上ホールディングス(株)、コクヨ(株)、鹿島道路(株)、大興物産(株)、鹿島建物総合管理(株)、イースト不動産(株)、Kajima_Overseas_Asia_Pte(株)、鹿島建設(株)のご協賛をいただきました。   運営にあたっては、渥美フェローを中心に実行委員会、学術委員会が組織され、フォーラムの企画から、ホームページの維持管理、優秀賞の選考、当日の受付まであらゆる業務を担当しました。特に韓国出身の渥美フェローには翻訳やビザ招待状の手配から、当日の会議進行における雑務まで、多大なご協力をいただきました。   400名を超える参加者のみなさん、開催のためにご支援くださったみなさん、さまざまな面でボランティアでご協力くださったみなさんのおかげで、第4回アジア未来会議を成功裡に実施することができましたことを、心より感謝申し上げます。   アジア未来会議は、国際的かつ学際的なアプローチを基本として、グローバル化に伴う様々な問題を、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化など、社会のあらゆる次元において多面的に検討する場を提供することを目指しています。SGRA会員だけでなく、日本に留学し現在世界各地の大学等で教鞭をとっている研究者、その学生、そして日本に興味のある若手・中堅の研究者が一堂に集まり、知識・情報・意見・文化等の交流・発表の場を提供するために、趣旨に賛同してくださる諸機関のご支援とご協力を得て開催するものです。   第5回アジア未来会議は、2020年1月9日(木)から13日(月)まで、フィリピンのマニラ市近郊で開催します。皆様のご支援、ご協力、そして何よりもご参加をお待ちしています。   第4回アジア未来会議の写真(ハイライト)   フェアウェルパーティーの時に映写した写真(動画)   第5回アジア未来会議チラシ   写真付き報告書 日本語 English   (文責:SGRA代表 今西淳子)     2018年8月31日配信
  • エッセイ577:陳龑「台日動漫畫文化国際学術研討会感想」

    今回の「台日動漫畫文化国際学術研討会」はとても新鮮な体験でした。「動漫畫」とは、「動画」(アニメーション)と「漫画」(マンガ)の総称です。日本では、アニメーションとマンガの「合併」した名詞がないように、アニメーションとマンガは学問の世界でもそれぞれのシステムがあって、独自の学会があります。従って、今回の台湾で開催された「動漫畫文化国際学術研討会」のような両方とも取り扱うイベントは、日本では存在していないのです。また、初日に漫画家の弘兼憲史先生が基調講演をされ、シンポジウムには台湾でアニメーションを実際に制作している黄瀛洲先生も列席されました。これも日本では珍しい「局面」と言えます。日本の研究会では、原作者とクリエイターを学会に誘うことはほとんどなく、研究をする際にも、「作者と距離を置かなければ客観的な結論を出しにくい」という考え方が根強いです。確かに、小説、美術などの伝統文化の研究領域においては、分野の分類が細かく、年代が離れているから作者と接触できない場合が多いのです。   しかし、アニメーション研究は果して伝統文化と同様に研究すべきでしょうか。マンガは美術研究のシステムが活用できますが、アニメーションは映画に近いです。劇場版アニメーションと芸術性の高い短編アニメーションは映画理論の適用性が高いと言えますが、「アニメ」という言葉が成り立つ原因である日本独特のテレビシリーズはまた別格です。「製作委員会」制度を中心に行われた「工業生産」の流れの中、マンガ原作と原作を運営する伝統出版社の力が極めて強いため、アニメーション研究を語る際には(特に「アニメ」が対象になるとき)、マンガと繋いでみるべきだと容易に考えられます。とはいえ、日本ではマンガとアニメの境界がはっきりして、アニメーション学会とマンガ学会のメンバーが大分重なっているにもかかわらず、別々のシステムで議論を展開しています。無論、深くディスカッションをするため、各自のシステムが必要ですが、こういう「動漫」を一緒に考える場も必要ではないかと考えます。   「現場」の方を誘うもう一つの利点は、業界の「イマ(現状)」を把握できることです。研究者だけだと、アニメやマンガを語る時、具体的な作品、或いは、ある歴史段階のトレンドに注目する場合が多いです。映画学か映像学の視点から出発した作品論、美学の視点から出発した考察など興味深いですが、現場の方から見ると、必要とする研究方向はまだまだ「物足りない」状態です。今回実際に台湾アニメーションと一緒に成長してきた黄瀛洲先生のご発表によれば、台湾アニメーションの現状はとても深刻になっています。資金の面でも、クリエイターの育成の面でも、さらにその前に、台湾人自身のアニメーションに対する認識が「アニメーションは日本とアメリカのもので、なぜわざわざ台湾自身のアニメーションを作る必要があるのか」という考え方であり、台湾アニメーションを発展させようとする努力家が、(逆に)一般観客からもっと応援を得たい状態であるということは初耳でした。   これは一般的学会では接触できない現場の人しか感じない現実であり、研究するモチベーションが左右されるぐらい衝撃的でした。一方、大陸のほうは全く逆の状況で産業振興政策が多く出されており、アニメーション制作によって起業したスタートアップ会社も新作を絶えず世に送りだしています。なぜ上記のような考え方が台湾にあるのか、台湾アニメーションの発展史はあまり注目されないが、本当に1960年代までは空白だったのか、このままでは台湾アニメーションの未来はどうなるのか等々、この現実から様々な研究方向が考えられます。現場の方との接触は、研究者にとって貴重で重要なことだと深く感じました。   日本のアニメーションとマンガはこの10年「Cool_Japan」文化政策の要として重視されてきましたが、すでにその前から日本のアニメーションとマンガは一緒に中国大陸と台湾地域に輸出されていました。実際、中国大陸と台湾地域では、「アニメーション」と「マンガ」が一体視される場合がほとんどです。このような背景のもとで今回の「異色」な学会が開催されたのですが、今後もまたこのような場ができたら嬉しいです。   <陳龑(ちん・えん)Chen Yan> 北京生まれ。2010年北京大学ジャーナリズムとコミュニケーション学部卒業。大学1年生からブログで大学生活を描いたイラストエッセイを連載後、単著として出版し、人気を博して受賞多数。在学中、イラストレーター、モデル、ライター、コスプレイヤーとして活動し、卒業後の2010年に来日。2013年東京大学大学院総合文化研究科にて修士号取得、現在同博士課程に在籍中。前日本学術振興会特別研究員(DC2)。研究の傍ら、2012~2014年の3年間、朝日新聞社国際本部中国語チームでコラムを執筆し、中国語圏向けに日本アニメ・マンガ文化に関する情報を発信。また、日中アニメーション交流史をテーマとしたドキュメンタリーシリーズを中国天津テレビ局とコラボして制作。現在、アニメ史研究者・マルチクリエーターとして各種中国メディアで活動しながら、日中合作コンテンツを求めている中国企業の顧問を務めている。     2018年8月16日配信
  • 張桂娥「第8回日台アジア未来フォーラム『グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性』報告<その3>」

    張桂娥「第8回日台アジア未来フォーラム報告<その1>」 張桂娥「第8回日台アジア未来フォーラム報告<その2>」   5月26日早朝から幕を開けた第8回日台アジア未来フォーラムは、5本の特別講演会及び1本のパネルディスカッションという企画プログラムに続き、2度目のティータイムを挟んで、午後2時20分からいよいよ最終選考に合格した応募論文の発表セッションに移った。16本の応募論文に加えて、台湾、ノルウェー出身の学者による招待発表論文2本も含み、2つのセッションをそれぞれ3会場で構成し、多角的な視点から深い議論が展開された。   日本語セッションのA1会場では、静宜大学日本語文学科副教授兼学科李偉煌主任の司会・進行のもとで、翻訳と異文化コミュニケーション能力を活かす言語学・表現論からACG文化の伝播にみる変容・変化にアプローチした。台湾大学言語学大学院呂佳蓉助理教授による「ACG文化による言語の伝播と受容」では、事例研究を踏まえて、サブカルチャーからの借用語を通して日本語から中国語への影響の一端を明らかにした。「文字の違いに見るマンガ翻訳の不可能性」という題で発表された京都精華大学専任講師住田哲郎先生は、起点言語である日本語と目標言語との文字の違いに着目し、翻訳の不可能性について考察を行うとともに、日本語教育分野への応用についても論じた。一橋大学社会学研究科所属のソンヤ・デール(Sonja_DALE)先生は、制作手法に焦点を当て、「2Dのような3D―日本のアニメ業界におけるCG業界へのシフト―」について考察した上、アニメーターの働き方とアニメーションの制作へのシフトの兆しがみられると結論付けた。   後続の日本語セッションのA2会場では、招待発表者の大役を果たしたソンヤ・デール先生の司会・進行のもとで、台湾の若者世代に絶大な人気を誇るマンガ・アニメ作品の魅力をマンガ・アニメのメディアミックス化・マルチユース化の視点からアプローチした3本の論文発表が順調に進められた。文藻外語大学日本語文系小高裕次先生は、「ライトノベルのアニメ化に際する諸要素の増減について―『涼宮ハルヒの憂鬱』を例に―」という論題で、ライトノベルの線状性とアニメの多重性および音声の有標性がアニメ化の際の諸要素の増減に大きくかかわっているという結論を得たという。 「漫画『ONEPIECE』の組織論 海賊団「麦わらの一味」の性格」について論じた政治大学日本語文学科永井隆之助理教授は、相互の信頼関係に基づく対等かつフラットな組織と位置づけられている「麦わらの一味」の組織の在り方は、対等な人格に基づく友情を結合の紐帯とする、理想の君臣関係と想定できると指摘した。本セッションを締めくくる最後の論文発表「日本のマンガにみるプロフェッショナルの態度と行動特性-料理マンガを中心に-」では、東呉大学日本語文学科林蔚榕助理教授が、料理マンガのストーリーを3つの類型に分類し、ストーリーの展開パターンによって引き出されるプロフェッショナルの特質について論究した。   B1会場では、輔仁大学日本語文学科楊錦昌教授の司会・進行のもとで、主に中華文化圏で注目されてきたマンガ・アニメ文化の特殊な事情・背景及び展開について議論した。まずは、高雄科技大学文化創意産業学科徐錦成副教授による「野球とマンガの親和性―中華職業棒球大聯盟の二度にわたる野球マンガへの干渉を中心に―」であったが、台湾における野球漫画のブームは、プロ野球の最盛期でもある1990-1996にピークを迎え、それ以降下火になり、2014-2015年に少し回復の兆しが見えながらも一瞬で消えてしまう現状を振り返った。 「国境を超える連携―中国初期アニメーション史からみたイマドキのアニメーション生産トレンド」について考察した東京大学大学院総合文化研究科博士課程在学の陳龑氏は、中国初期アニメーションの生産が辿ってきた道を振り返り、現在のアニメーション界の現状を深く理解することで、アニメーション発展の突破口を探る必要があると主張した。一方、京都精華大学マンガ研究科博士課程在学の李岩楓氏は、「オノマトペ─日本マンガにおける図面表現及び中国マンガへの応用の可能性」というテーマで、描き文字・図面記号・図面表現・音喩などのキーワードを中心に、中国マンガにおけるオノマトペの応用現状・問題点を分析し、様々な可能性について言及した。   後続のB2会場では、台湾大学日本研究センター林立萍主任の司会・進行のもとで、マンガ・アニメと物語論、マンガ・アニメ文化と社会学の牽連性や日本語教育への活用など、マンガ・アニメ研究分野の幅広さによってさらなる可能性を示した。まずは、中国文化大学日本語学科沈美雪副教授による「日本のマンガ・アニメにおける「時間遡行」作品の構造分析―死と再生、ループ、選択を手掛かりに―」であるが、様々なアニメ作品を視野に入れ、時間遡行ものの構造や表象、メッセージ性を考察した。 続く世新大学日本語学科林曉淳助理教授は、「『高橋留美子劇場』から見る日本の家族像」を論題に据え、マンガという親しみやすい素材を通しての日本理解のひとつの試みとして、『高橋留美子劇場』に見る夫婦、父親、母親などの家族像を探った。最後の招待発表者である静宜大学日本語文学科李偉煌主任は、日本語教育者として長年にわたって日本のアニメを導入した授業活動の記録と照合した上、「日本のアニメを取り入れたランゲージエクスチェンジ授業の試み」について省察を加えた。年々変化する学生のモチベーションに合わせて新しい教授法を積極的に実施した成果を公開した。   新進気鋭の若手研究者が熱く語り合うC1会場では、台東大学大学院児童文学研究科游珮芸学科長を座長に迎え、マンガ・リテラシー形成の理論と実践、マンガ・アニメ作品にみる視覚芸術論・哲学論など、専門性の高い難しい内容の発表が行なわれた。識御者知識行銷創立者黄璽宇氏による「個人の存在と集団の存在―トマス・アクイナス思想から映画『聲の形』における生きづらさを論じる―」は、個人と集団の立場から「いじめる側」と「いじめられる側」の論理・心理の深層に迫り、哲学思想からのアプローチを試みた。 「デバイス変奏曲:縦スクロール漫画の原理と趨勢」について分析した中原大学教養教育センター周文鵬助理教授は、縦スクロール漫画の原理を生かし爆発的に普及した「韓国の漫画文化」に注目し、世界的に展開する可能性や直面する問題点などを指摘した上、慎重な意見を求めるよう呼びかけた。東呉大学中国語学科博士課程在学の田昊氏は、「浦沢直樹漫画芸術におけるフィルムセンスの創造力について」論証した。撮影術の視覚効果を模倣し、フィルムセンスのマンガ作りの極意を探ってきた浦沢直樹の作品を通じ、マンガという叙事芸術の潜在力や将来像を展望した。   同じく新進気鋭の若手研究者でにぎわうC2会場では、台大智活センター余曜成専門研究員を座長に迎え、多面的な切り口から、マンガ・アニメ作品に見られるコンテクスト・キャラクター設定の特徴などを紐解いた研究発表が展開された。まずは、華梵大学哲学学科所属の周惠玲助理教授は、「ストーリーマンガと児童文学の競合関係―『不思議の国のアリス』を元にしたマンガを例に―」において、マルチメディアの視点から異なるメディアの競合関係と競合の相互依存的関係を分析した上、「読書離れ」「活字離れ」で危ぶまれる児童文学の寿命が少しでも延ばされる可能性があると解明した。 東京大学東洋文化大学院客員研究員呉昀融氏は、「『NARUTO-ナルト-』から核武装論を再検討する」において、潜在的な核兵器能力を保持することや、核武装を行うかどうか意思決定権の行使について十分な議論を行うべきだと提言した。本セッション最後の発表者である政治大学中国語学科博士課程在学の詹宜穎様は、「混血の葛藤、その狂気と輝き―『東京喰種トーキョーグール』から見た混血種のアイデンティティーにおける調和と超越―」では、主人公である金木研の混血種というアイデンティティーの問題を鋭く問い直し、主人公が混血の葛藤と狂気を乗り越えて大きく成長したプロセスを明らかにした。   以上、第8回日台アジア未来フォーラム後半に組み込まれた、自由論題研究論文発表の各セッションのテーマとして、マンガの収集・保存と利用、翻訳と異文化コミュニケーション、マンガ・リテラシー形成の理論と実践、マンガ・アニメと物語論、視覚芸術論、映像論、マンガ・アニメのメディアミックス化・マルチユース化、マンガ・アニメ文化と経済学・社会学・心理学・哲学など、幅広いテーマ・議題の展開を魅せられた開催成果であった。   盛りだくさんのプログラムにもかかわらず、各会場の司会・進行役の適確な時間管理のもとで、予定通りに盛大な閉会式を迎えることができた。登壇した東呉大学図書館林聰敏館長より、参加されたすべての専門家・学者・研究者・協力者・スタッフに対して謝辞が述べられ、参加者全員が今回のフォーラムに参加したことで、東アジア諸国におけるマンガ・アニメ研究の現状と今後の発展についての理解を深めることができたことを今後のマンガ・アニメ研究に活かしたいとし、フォーラムは無事に閉会した。   【総括】   第8回日台アジア未来フォーラムでは、グローバル化したマンガ・アニメ研究のダイナミズムを、研究者・参加者たちの多様な立場と学際的なアプローチによって読み解いた上、新たな可能性を見いだすという目標を達成した。何より、将来有望な若い研究者たちに研究成果を発表する場を提供することにより、日台関係・日台交流、また東アジア地域内の相互交流のさらなる深まりへの理解促進に貢献したと考える。学生や一般参加者たちにも東アジアにおけるサブカルチャー文化の受容現状を理解してもらい、また異文化を越えた視野を抱き、国際交流のネットワークを築きあげてもらえるように、確固たるモチベーションを与えたと確信している。   さらに進んで、よりグローバル的視野から見ても、東アジア研究の広がりの一助となる「日台アジア未来フォーラム」により、歴史紛争・地域紛争が東アジアで激化するなか、異文化間の交流・対話による相互理解・文化の共感・共有を目指す国際日本学研究の最前線へ向けて、世界一日本が好きな国だといわれる台湾から発信(あるいは発進)するという重要な意義も持つと大いに期待できよう。   【懇親会】   同日夜、東呉大学市内キャンパスの近くにある台北ガーデンホテルの宴会会場にて懇親会が開催された。参加者60名を超える大盛況で、終始リラックスしたモードで中華グルメを堪能しながら歓談した。懇親会の冒頭に、弘兼憲史先生台湾特別ご講演の実現をかなえてくださった上、海外からわざわざ台湾まで足を運ばれ応援に駆けつけてくださったスペシャル・ゲスト大石修一様から、乾杯の音頭を頂戴した。司会を務めた陳姿菁先生(開南大学副教授)は、見事なトークで堂々と司会をこなした上、参加者たちの笑いを誘う抜群のユーモアのセンスで会場の雰囲気を一段と盛り上げた。   宴もたけなわ、中締めのご挨拶に、海外から駆けつけてくださったスペシャル・ゲスト曽我隆一郎様、小林栄様、石田さやか様一同より、励ましのお言葉を受け賜った。その後、第1回日台アジア未来フォーラムから応援し続けてくださる中鹿営造(股)の小野寺董事長さまより、心温まるお言葉を頂戴し、実に感無量であった。なかでも特記すべきなのは、懇親会場に駆けつけてくれた世界のラクーンメンバーは、なんと総勢11名の大所帯であったこと!!   最後に、フォーラムの企画者である私が皆様に感謝の言葉を申し上げ、来年の開催責任を藍弘岳先生にバトンタッチした後、2日間のプログラムは円満に終了した。最後に、ケミカルグラウト株式会社(日商良基注入営造)粟根総経理様による恒例の3本締めが行なわれ、盛会の内に懇親会は幕を閉じた。   <張 桂娥(ちょう・けいが)Chang_Kuei-E> 台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本語教育、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科副教授。授業と研究の傍ら、日本児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。     2018年8月16日配信
  • 張桂娥「第8回日台アジア未来フォーラム『グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性』報告<その2>」

    前日(5月25日)400名を越える観客でにぎわったフォーラム前夜祭【神級名師 弘兼憲史先生 特別講演会】の余韻に浸る間もなく、26日早朝8時半、第8回日台アジア未来フォーラムの開会式は東呉大学普仁堂大講堂で執り行われた。東呉大学董保城副学長と渥美国際交流財団今西淳子常務理事に続き、日本台湾交流協会台北事務所広報文化室の浅田雅子主任、台湾日本人会日台交流部会の高橋伸一部会長から開会のご挨拶をいただいた。   【午前の部】では、日本・韓国・中国から招致した研究者による3つの基調講演会に続き、フォーラムの主題である「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性―コミュニケーションツールとして共有・共感する映像文化論から学際的なメディアコンテンツ学の構築に向けて―」をテーマに、6名のパネリストによるパネルディスカッションが約1時間にわたって開催された。昼食を挟んで1時半から開始した【午後の部】においては、台湾を代表するマンガ研究者2名による講演会がパラレルに進行した後、3会場に分かれて合計6セッションで18本の研究発表が行なわれた。総勢200名近くの方々に参加していただく盛会であった。   最初の基調講演は、北九州市漫画ミュージアム専門研究員の表智之先生が、日本における「研究者のネットワーク化とマンガ研究の進展-学会・地域・ミュージアム-」というテーマでお話しくださった。2001年に「日本マンガ学会」、2006年に「京都国際マンガミュージアム」、そして2012年に「北九州市漫画ミュージアム」が設立されたことに触れ、「マンガ学会は、多種多様な学術分野が合流する刺激的な場となった。また、マンガ研究に欠くべからざる基礎資料である雑誌や単行本をミュージアムという場に集積し、展覧会や講演会などの場でその学術的意義を広めてきた結果、マンガ資料を一種の文化財として保存する意義が社会に共有された。   現在では政府機関である文化庁をはじめ、福岡県北九州市や秋田県横手市などいくつかの地方自治体がマンガ資料の恒久的な保存活動を進めている」という現状を指摘した上、ここ20年ほどの間に日本で起きたマンガ研究環境の変化や、研究者と研究資料のネットワーク構築及び研究方法の進展について整理してくださった。その結果として得られた新たなマンガ研究の視座に基づき、地域の視点でマンガを考える意味について分析した上、膨大なマンガの「1次資料」を連携・分担して収集し保存するマンガミュージアムの役割及び資料ネットワークの構築、そして、日本を含む世界各国の評論家たちの研究成果の継承の重要性を強調した。   次の基調講演は、韓国で出版企画会社コミックポップ・エンターテインメント代表を務める傍ら、『韓国声優の初期歴史』など、韓国・日本でもマンガ関連研究の書籍・コラムの執筆、翻訳活動など精力的に携わっておられる宣政佑氏が「韓国ではアジア漫画をどう見てきたか(Asian_comics_in_Korea)」をテーマに、韓国におけるアジア漫画の受け入れの歴史を振り返ってくださった。 氏は、「アメリカンコミックス(スーパーヒーロー物・グラフィックノベル)、日本漫画(少年漫画・少女漫画・青年漫画)、BD(バンド・デシネ/bande_dessinee:主にフランス語で発表される、フランスとベルギー中心のヨーロッパ漫画)は勿論として、台湾・香港など中国系の漫画も多数翻訳出版」されている事実を踏まえた上、台湾文化の韓国への輸入の背景、特に人気のある台湾出身の漫画家蔡志忠、林政德、游素蘭、高永、周顕宗、陳某らの作品を詳しく紹介してくださった。さらに、ウェブトゥーン・電子書籍時代以後、韓国におけるアジア漫画受容の変化、特に増えつつある中国漫画の存在感についても興味深く語ってくださった。   3本目の基調講演は、日本近現代文学、日本大衆文化、東アジアマンガ・アニメーション史など、様々な分野において、膨大な研究業績を挙げられた中国北京外国語大学北京日本学研究センターの秦剛教授による「『白蛇伝』における『中国』表象と『東洋』幻想」であった。1958年10月に公開された東映動画制作の『白蛇伝』が戦後日本の最初の長編アニメーションであるが、なぜ中国の民間伝説を題材に選んだのか、またその歴史的なアニメーション作品において、どのような中国のイメージを表象しえたのかについて、細かい画面構成に注目しながら制作者側の真意を紐解いた秦剛教授は、『白蛇伝』のビジュアル的イメージの歴史的な連続性、および映画のナラティブに反映された植民地主義的意識の残影を浮き彫りにした。 「敗戦によって終焉した旧植民地支配時代へのノスタルジーを匂わせながら、植民地主義的な他者支配の再演という欲望が輸出商品としての『白蛇伝』制作の商業的な企図にも内在していた」と結んだ秦剛教授の結論に、かつて植民地支配の被害、搾取に虐げられていた台湾出身者として、「たしかにその通り」と頷かずにいられない共感を得た。   続くパネルディスカッションでは、渥美国際交流財団の今西淳子常務理事を司会に迎え、本フォーラムの主眼に据えている「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」というテーマをめぐって、台湾、日本、中国、そして韓国という多文化的視点から議論を掘り下げていった。   マンガ学会・マンガミュージアムの設立に積極的に関与・貢献してきた表智之先生は、(1)日本のマンガ研究は日本以外の研究成果に関心を持っているか、(2)日本以外の地域からの日本マンガ研究者の受け入れ態勢、(3)グローバルな視点からのマンガ研究の可能性について、グローバル化された日本マンガ学の視点から論じた上、「表現論をしっかりと踏まえてのグローバルな対話が、これからは求められていく」と力強く締めくくった。   宣政佑氏は、漫画・アニメの記事やコラムなどを書いてきたライターとして、また主に漫画・アニメ関連の日本の批評書や研究書を翻訳してきた翻訳家として、そして書籍などの国際契約の仲介や展示・各種事業の企画を行ってきた身として、その立場から「漫画・アニメ研究」というもの、グローバルな観点を持つ漫画・アニメ研究の必要性について論じ、たとえ限界はあるにしても、国際的な交流やシンポジウムには意味があるという考え方を示した。   鋭い批判精神で東アジアにおけるマンガ・アニメーション史を凝視してきた秦剛教授は、西遊記でもっとも話題性に富んだキャラクター鉄扇公主を主人公に仕上げた、中国初の長編アニメーション映画「西遊記 鉄扇公主の巻(原題:鉄扇公主)」の越境史に注目しながら、マンガ・アニメ研究の新地平への展望よりも、歴史あるアニメーションの芸術性とその文化的価値を回顧・再考することの重要性を力説した。記憶に葬られそうな過去の漫画・動画を今一度見直すことこそ、グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性を切り拓く決め手ではないかと訴えた。   台湾U-ACG発起人、旭メディアテクノロジー会社創立者としてマンガ・アニメの普及・発展の最前線をけん引する傍ら、清華大学でも非常勤講師として「御宅学」講座の開設に尽力してきた梁世佑先生は、台灣におけるACG(アニメ・コミック・ゲーム)の概念の移り変わりを振り返った上、グローバルなマンガ・アニメマーケティングの戦略的コンセプトが確立された時代において、台湾オリジナルマンガ・アニメ作品にどんな特色を持たせるべきか、どういった位置づけを狙うべきかについて論じた。パラダイス鎖国化・ガラパゴス化されていく傾向の強い日本業界と手を組んで需要が高まる中国市場に挑むべきだと提言した。   一方、台湾で初めてのアニメーション評論団体「Shuffle_Alliance」発起人で、東海大学に続き国立交通大学でも「御宅学」講座を創設して開講以来圧倒的人気を誇る講師であるJOJO先生こと黄瀛洲先生は、マンガ・アニメ研究者からマンガ・アニメ作品制作会社「石破天驚行銷(股)」CEOに転身した実体験に基づき、台湾におけるマンガ・アニメ関連イベントの企画開催の現状及び困難点について言及した上、台湾オリジナルマンガ・アニメ・ゲーム作品制作現場が直面する課題を展望した。   最後に登壇したパネリスト住田哲郎先生は、韓・台・日の3か国で日本語教育に携ってきた経験を活かし、言語研究者・日本語教師として、マンガ・アニメ研究の可能性について貴重な意見を述べられた。特に、「マンガ・アニメがいかに社会貢献を果たせるか(いかに有効活用できるのか)」という切実な課題に、日本語教育への活用、情報メディアとしての活用、マンガ学・アニメ学の確立と学校教育への活用といった3つの示唆に富んだ解決策を提示された。   パネリスト6名の発言がそれぞれ時間内におさまるよう、スムーズな進行を心がけられた司会者今西淳子常務理事の適宜な時間管理の下で、2本目の特別講演会の司会者邱若山教授の感想・問題提起を筆頭に活発な議論が交わされた。本フォーラムのメインテーマ「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」をめぐって、東アジア諸国の有識者を招いた約1時間にわたるパネルディスカッションは滞りなく終了した。   台湾グルメの名物弁当が振る舞われたランチタイムを挟んで、午後1時半からは、台湾の大学に大フィーバーを巻き起こした「御宅学」講座開設のパイオニア、梁世佑先生と黄瀛洲先生の両氏による特別講演会であった。プログラム時間の制限でパラレル進行形式を余儀なくされるため、台湾「オタク学・オタク研究」史上最高のゴージャスな競演といわれるほど、本フォーラムでも注目度の高い目玉企画であった。   「日本のアニメから見る国家と社会の構造―人型ロボット兵器を例に―」という題目で講演された梁世佑先生は、台湾のマンガ・アニメファンの目線から、『鉄腕アトム』『鉄人28号』『マジンガーZ』など、人型ロボットを兵器に見立てた日本で有名なアニメ作品を例に、日本の映像文化やエンターテインメント作品にみられる日本人のアイデンティティーやセルフイメージの形成のプロセスに迫ろうと試みた。さらに、芸術家岡本太郎が手がけた「太陽の塔」の無機質な顔に表象された日本の美意識に着眼し、日本のアニメや特撮映画の技術を最大限に盛り込んだアメリカ発エンターテインメント映画『パシフィック・リム』(Pacific_Rim)や、『機動戦士ガンダム』『宇宙戦艦ヤマト』『沈黙の艦隊』などロボット兵器や巨大な武器を主役に据えたアニメ作品を取り上げ、「大和文化」の本質を再発見・再認識しようとした日本アニメから見る国家と社会の構造を解き明かそうとした。   一方、自ら手掛けたアニメ映画の実体験を踏まえて、「未来を見据えた台湾アニメの発展―アニメ映画『重甲機神BARYON』を例に」というテーマで講演された黄瀛洲先生は、1950年代に欧米や日本のプロダクションの下請けからスタートした台湾のアニメ産業の歴史を振り返った上、台湾アニメ産業が直面した問題点を、国際・政治・経済・社会・教育など各方面から鋭く分析した上、様々な課題を指摘した。ただ決して悲観的に捉える必要はなく、常に第一線で活躍するパイオニアならではの洞察力を発揮して、21世紀を迎えた台湾アニメ産業が挑戦すべき分野、目指すべき方向及び未来を切り拓く新たな可能性について、広範多岐にわたる活路を見いだした。現在、山積する課題の解決に向けて、気鋭の若手たちを率いて制作している台湾初のオリジナルアニメ映画『重甲機神BARYON』の取り組みを手掛かりに、発展的・創造的な活動を積極的に展開していこうと、並々ならぬ意欲を示した姿勢が印象深いものであった。   台湾におけるマンガ・アニメ文化の進化やオタク文化の深化、オタク学の研究に人生をかけてきたお二人の真剣な眼差しと未来に対する意欲に満ちる講演は今後への期待感が溢れ、大変説得力があった。日本から受け継いで台湾でさらなる大きなソフトパワーに成長していくマンガ・アニメの価値と意義が改めて認識された、非常に充実した講演内容であった。   午後2時20分からの論文発表シンポジウムでは、3会場でそれぞれ2つのセッションを構成して、台湾、日本、中国、ノルウェー出身の学者たちを招き、多角的な視点から深い議論が展開された。合計18本の論文発表が行われたが、詳細は引き続き報告する。(つづく)   当日の写真   <張 桂娥(ちょう・けいが)Chang_Kuei-E> 台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本語教育、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科副教授。授業と研究の傍ら、日本児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。     2018年8月9日配信
  • 2 / 1712345...10...最後 »