SGRAイベントの報告

金雄熙「第16回日韓アジア未来フォーラム『日中韓の国際開発協力-新たなアジア型モデルの模索』報告」

2016年12月1日(木)、韓国仁川市松島コンベンシアで第16回日韓アジア未来フォーラムが開催された。今回のフォーラムは、多様な分野における東アジア各国の日本研究の専門家が知識を共有できる貴重な場として設立された「東アジア日本研究者協議会」第1回国際学術大会の共同パネルで、テーマは「日中韓の国際開発協力-新たなアジア型モデルの模索」であった。2016年2月に東京で開催された第15回日韓アジア未来フォーラム「これからの日韓の国際開発協力:共進化アーキテクチャの模索」、2016年10月1日に北九州で開催された第3回アジア未来会議の自主セッション「アジア型開発協力の在り方を探る」における議論を受け、日韓に中国を含めて東アジアの開発援助のあり方について、モデル構築の可能性を念頭に置きながら考えた。

 

フォーラムでは、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)の今西淳子(いまにし・じゅんこ)代表による開会の挨拶に続き、これまでのODA関連フォーラムの経緯と議論を受け、日中韓の研究者が比較の視座に立ち、アジア型開発援助モデルの収れんの可能性について論じた。まず李恩民(リ・エンミン)桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群教授は、「中国的ODA」(The Chinese-style ODA)について、中国が開発途上国として日本などからODAの供与を受ける一方で、外交の一環として第三世界に属するアジア・アフリカ・ラテンアメリカ・太平洋諸国に政治色の強い「対外援助」を実施していることを指すと定義した。そして、アジア・アフリカ、特に隣国であるベトナムとモンゴルなどへの政治的・経済的援助等に焦点を当てて、「中国的ODA」展開のプロセスを究明し、レシピエント(被援助地域)の視点からその歴史と効果を検討し、「中国的ODA」の内実と本質に迫った。

 

孫赫相(ソン・ヒョクサン)慶熙大学公共大学院院長は、「開発協力に対するアジア的モデルの可能性の模索:北東アジア供与国間の収れんと分化」というタイトルで、経済発展段階における韓国、日本、中国の同質性と異質性が対外戦略と連携した開発協力ではいかなる様相に収れんし分化するのかについて考察し、開発協力におけるアジア的アプローチの可能性について報告した。現段階における性急なモデル化の試みには慎重な立場をとりながらも、国連の持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)など国際規範の拡散などを軸としたアジア型モデルの収れんの可能性に触れた。また、ODAに変わる概念枠組みとして持続可能な開発のための「総合的開発支援(TOSSD: Total Official Support for Sustainable Development)」を用いて、中国の国際開発協力を国際比較の視座で議論できるとした。さらに、アジア型開発協力モデルの模索において、3 カ国による開発事業の共同実施や開発経験の共有、北朝鮮開発支援がいかなる意味合いや重要性を持つかについても言及した。

 

李鋼哲(り・こうてつ)北陸大学未来創造学部教授は、日中韓を始めとするアジア諸国は先進国からの援助を受けて経済成長を成し遂げており、既に先進国になった日本、先進国仲間入りを果たした韓国、そして未だに発展途上国である中国の国際開発協力は、それぞれの特徴をもちながらも、共通点が多いとした。そして日中韓3カ国の援助アプローチは、国際援助コミュニティーに支配的な援助アプローチと異なる、2つの基本的な特徴、即ち、「内政不干渉」の原則と「援助・投資・貿易の相乗効果」の重視を共有すると主張した。

 

その後、討論者の金泰均(キム・テギュン)ソウル大学国際大学院教授は、国際開発協力の「アジア型モデル」を議論する上では、3カ国のODAのウィンウィン戦略(モデリング)、3カ国の開発援助の特質、そして受援国(パートナー国)にとってもウィンウィン戦略になるかなどの視点をバランスよく考えるべきだとした。そして「内政不干渉」の原則をめぐる日韓と中国の認識の相違、開発援助(とりわけ、対アフリカ援助)における雁行モデル的な展開にみられる援助レジームの共通点と相違点、開発援助の担い手としての各国政策金融機関による国際開発金融機関(MDB: multilateral Development Bank)のセイフガード3原則(環境破壊、強制移住、人権蹂躙の禁止)などの共有を通じた国際開発協力の「アジア型モデル」の収れん可能性について議論した。

 

時間の制約で討論をフロアーにオープンすることはできなかったが、それぞれの立場や専門領域を踏まえた、そして自分の夢が込められた素晴らしい討論が交わされた。最後は、北朝鮮・統一専門家でもある徐載鎭(ソ・ゼジン)未来人力研究院院長により、北朝鮮に対する開発支援の重要性に触れるコメントと閉会の辞で締めくくられた。

 

これからも日韓アジア未来フォーラムで「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」について、実りのある議論を展開していくためには、総論的な検討にとどまらず、ODAフォーラムのように具体的なイシューにおいて掘り下げた検討を重ねていかなければならない。次年度も前2回のODAフォーラムの延長としてODA問題を取り上げることになるが、次回のフォーラムに当たっても、引き続き国際開発協力における中国のプレゼンスにも注目しつつ、北朝鮮に対する開発支援をめぐる日中韓の協力の可能性を1つの軸に設定して進めていくと良いのではないかと思う。それによって「アジア型ODA」の課題も浮き彫りになるだろうし、ODAの理念にもどって、理論的に検討できるのではないか。最後に、このフォーラムの成功のためにご支援をいただいた李鎮奎未来人力研究院理事長と今西代表 、そして大統領の弾劾に向けたキャンドル集会の真っただ中で韓国を訪ねた発表者と渥美財団スタッフの皆さんに感謝の意を表したい。

 

当日の写真

 

<金雄煕(キム・ウンヒ)Kim Woonghee>
89年ソウル大学外交学科卒業。94年筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、98年博士。博士論文「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。99年より韓国電子通信研究員専任研究員。00年より韓国仁荷大学国際通商学部専任講師、06年より副教授、11年より教授。SGRA研究員。代表著作に、『東アジアにおける政策の移転と拡散』共著、社会評論、2012年;『現代日本政治の理解』共著、韓国放送通信大学出版部、2013年;「新しい東アジア物流ルート開発のための日本の国家戦略」『日本研究論叢』第34号、2011年。最近は国際開発協力に興味をもっており、東アジアにおいて日韓が協力していかに国際公共財を提供するかについて研究を進めている。

 

 

2017年1月26日配信