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エッセイ533:林泉忠「『習・トランプ会談』から見えたトランプの胆略と手腕」

(原文は『明報』(2017年4月10日付)に掲載。比屋根亮太訳)

 

片方は権力が一極集中した毛沢東以来の中国最強の指導者。もう片方は「アメリカを再び壮大な国としての勢いを取り戻そう」という建国以来最も尋常ではない「超異種」の大統領。このユニークな個性を備える2人の、数十年に一度あるかどうかの大国の指導者のめぐり逢いにより「庭園サミット」が演出され、それだけで国際メディアの注目を引くには十分すぎるほどであった。それにとどまらず、今回の米中元首による会談の重要性を事前に評論するものも現れ、冷戦期1972年2月の共和党のニクソン大統領による歴史的な北京訪問と重ねて議論する者もいた。しかしながら、大きな注目を浴びた「習・トランプ会談」にもかかわらず、「実質上の成果を得られない」まま終了した。

 

〇トランプ氏が手堅く戦略的高得点を得た

 

なぜなら、2日間の「習・トランプ会談」は、火花が散ることも、これといって目立ったニュースもなく、インタビューに訪れた多くの国際メディアの記者たちは、トランプ氏の孫娘による中国語の歌『茉莉花(ジャスミン)』に注目をせざるをえなかった。あるいは、報道の焦点を会談期間中に起きた、アメリカのシリアへの軍事行動へと迅速に移さざるをえなかった。しかしながら、もしトランプ氏が今回の習近平氏訪米全過程を、細かくアレンジしていたとするならば、我々は、トランプ氏の「能ある鷹は爪を隠す」という能力を暴くことが出来なかったということになる。トランプ氏は人を唸らせるほど大胆な知略と手腕に富んでいたことになるだろう。そして今回の、尋常でない米中サミットに伴う2大指導者による外交の力比べにおいて、言うまでもなく、トランプ氏が最初から最後までずっと戦略的主導権を握っていたと言えるだろう。

 

まず初めに、トランプ氏が先手を取ったのは、米国がホスト、中国がゲストという地位関係である。45年前はニクソン氏自らが、新中国を巧みに手なずけし、それをもってソ連を牽制するという目的で、千里はるばる見知らぬ「共産中国」を訪れた。毛沢東は落ち着きはらい、自信たっぷりな様子で、「米帝国主義のボス」を出迎え、明確に、威張り腐った「ソ連兄貴」へ見せつけた。この奇妙な米中ソの世紀の外交ゲームにおいて、「東風が西風を押し倒す」をスローガンに掲げていた毛沢東が勝利をおさめ、その傍らで面子をも取り戻した。

 

しかし今回は、ホワイトハウスの新たな主人であるトランプの主導のもと、習近平氏の訪問が「アレンジ」され、更には、もともとは7月に予定されていたスケジュールを4月上旬に早めさせた。国内では権力を集中させ、13億人もの人口を抱える大国の習近平氏は、時間の調整を急がせざるをえず、予定を早めてこちらの「不確実性」に溢れたアメリカ新大統領に会いに来た。時間と場所のアレンジ、どちらか一方だけをとっても、今回の一幕においてトランプ氏は容易にいち早く主導権を握っていた。

 

2つ目は、「習・トランプ会談」前の3か月ほどの間に、トランプ氏はありとあらゆる手を尽くして、米中関係の為すべき事柄全てをシュミレーションし、中国国内において早い段階からすでに「核心」的「スーパーストロング政治家」としての印象を持たせ、習近平氏が対抗できないほどにトランプ氏に引き回されていた。トランプ氏はまず去年12月2日に慌てず騒がず落ち着いて「蔡英文からの電話を受け」、更に2、3発続けて、「もし中国が経済貿易と南シナ海の議題において譲歩しなければ、アメリカは『一つの中国』政策を堅持するとは限らない」と言い放った。

 

言うまでもなく、トランプ氏とその官僚たちは、北京が最も気にかける「一つの中国」と「台湾問題」、これらの「核心」的利益について熟知しており、したがって、就任前から「台湾カード」を出して取引を行った。そして2月9日の習近平氏との通話中には、一変して「アメリカは『一つの中国」』政策を尊重する」とし、北京からの「高い評価」をうまく引き出した。北京のトランプ氏に対する基軸は、誰にも気づかれないうちにいつのまにか「不確実性を減らす」ということに固く設定されていた。中国だけに止まらず、この点に関して、トランプ氏は依然として、相手の頭をくらくらさせ方向を見失わせることを楽しんでいる。

 

今回の米中力比べにおいて既に優勢であったトランプ氏は、一方では、習近平氏の訪問を熱烈に歓迎する姿勢を見せ、もう一方では、「習トランプ会談」前夜に、もし北京が北朝鮮を有効に抑え込むことに協力しなければ、アメリカは「単独行動」を採ると単刀直入に言い放った。以前オバマ氏は、北京に「取り換えが効かない」影響力を発揮して欲しいと終始懇願し、北朝鮮に圧力をかけようとしていた。しかしながら、トランプ氏は、一方では、北京に対して、中国の北朝鮮に対する影響力が大きいから、それを取引の材料として、トランプ政府との駆け引きができると勘違いして誤った判断をしないようにと促し、もう一方においては、北朝鮮から地理的に遠いアメリカではあるが、依然として世界の指導者であり、トランプ政権下のアメリカは国際的な懸念に対してはさらに決断力をもって処理していくと、北京をたしなめた。突然「攻撃を受けた」北京は、まだ何が起きているのか理解できていないまま、「習近平訪米前の良好な雰囲気づくり」の目的のため、早い段階から北朝鮮への石炭の輸出を一時的に禁止し、身の程をわきまえて国連決議の執行を宣言していた。

 

〇トランプ氏、超大国指導者の対応能力を示す

 

骨折り損のくたびれ儲けの「習・トランプ会談」劇場は、4月6日予定通りトランプ氏の別荘があるマー・ア・ラゴにて、鮮やかに始まった。習近平氏はこの地に約20時間とどまり、すべての中国メディアはまじめに「習大大」(シー・ダーダ)の訪米の詳細を一つ一つ報道評論した。トランプ氏は、一方で、習近平氏を自然体で夫婦で出迎え、同時に、もう一方では、慌てず騒がず落ち着いて、シリアに対する軍事行動を挙行した。習氏に対して超大国の指導者の並外れた対応能力を見せつけたのだ。

 

実は、当日の午後、庭園に向かう途中の飛行機の中でもまだ、トランプ氏は国防省とテレビ会議を行っており、午後4時マー・ア・ラゴに到着後、大統領は、即座に国家安全会議を招集し、軍事行動という重大決定を下していた。晩餐会は6時半に正式に始まり、トランプ氏は、何事もないような笑顔でリラックスした様子で、「われわれは長時間の話し合いをしたが、未だに何の成果も得られていない」と表明した一方で、7時40分、米軍はシリアへ59発のトマホークミサイルを発射し、トランプ氏は宴席の間も引き続き国家安全会議の役人の進展報告を聞いていた。そして晩餐会が終了する8時半前、トランプ氏は慌てず落ち着いた様子で宴席上の習近平氏にアメリカの今回の軍事行動を伝えた。しかしながら、この前にアメリカは、ロシアとアメリカの同盟国には、このことを伝えていた。習近平氏は、これに対し「理解を示す」しかなかった。

 

「習トランプ会談」終了後、中国外交部の役人は慣例に則り、習近平氏の今回の訪米の「非常に大きな成果」を声高々と強調し、双方がいわゆる外交安全対話、経済問題に関する全面的な対話、ネット・セキュリティに関する対話、および社会と人文交流に関する対話という、4つの対話メカニズムの構築を宣言した。実際は、米中間において、内部の者は、各種対話メカニズムが不足していないことを皆知っているが、これらの気まずさを隠すための自己肯定は、逆にやられた感を増すどうしようもない表情として写った。

 

〇トランプ氏、指導者としての風格を見せ、人々のこれまでの見方を一変させ重視させる

 

完全にトランプ氏の脚本によって演じられた「習・トランプ会談」は、トランプ氏のアメリカ国内での名声を上げ、「オバマケア」排除等の国内政策上困り果て挫折しそうな表情をさらけ出していた状況を一掃し、外交領域での成功をおさめリベンジを果たした。その中でも特に、トランプ氏が見せた外交手腕とユニークな指導者としての風格は、この実業家ファミリー出身の「政治素人」に対して、馬鹿にするような目で見ていた多くの人々のこれまでの見方を一変させ、重視させるようになった。今回の「大がかりなトランプ劇場」に理由なく共演役を務めさせられた中国において、北京のブレインは、今回の授業によって、改めてトランプ氏の物事の処理にあたる風格、指導者としての才能と手腕を研究し理解する得難い機会を得、それを経験として取り入れ、それらがトランプ新時代の「不確実性」の序幕への対応となるだろう。

 

<林 泉忠(リン・センチュウ)☆ John Chuan-Tiong Lim>

国際政治専攻。2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年より2年間ハーバード大学客員研究員、2010年夏台湾大学客員研究員。2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員、2014年より国立台湾大学兼任副教授。

 

 

2017年5月11日配信