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エッセイ452:李 鋼哲「西に向かう『中国の夢』と未来のアジア(その2)」

そうしたなか、アジアでは中国とインドの台頭が世界的に注目されている。IMFは昨年(2014年)107日に発表した報告書『世界経済の見通し』のなかで、購買力平価(PPP)ベースでみた中国のGDP2014年末に176,000億ドルに達し、アメリカの174,000億ドルを上回り、世界一の経済大国になると予測した。同じくPPPベースで、新興経済国G7BRICs4カ国、インドネシア、メキシコ、トルコ)のGDP合計(378,000億ドル)が、先進G7(米英仏独伊日加)のGDP合計(345,000億ドル)を上回るという見通しである。

 

その中国は、潤沢な外貨準備高を利用し、BRICS開発銀行(資本金500億ドル、2016年発足)、BRICS外貨準備基金(資本金1,000億ドル、2015年発足)、アジア・インフラ投資銀行(AIIB、資本金500億ドル、26か国参加、今年6月発足)などの構想を打ち出し、既存のアメリカ主導のIMF、世界銀行のドル体制を脅かしている。

 

その中でも注目されるのが中国とインドの急接近である。かつて「犬猿の仲」であった両国は、今では手を携えてアジアの未来を共同で構築するという方向で動いている。習近平主席は「中国の夢」を実現すべく、「シルクロード経済帯」と「21世紀海上シルクロード」という「一帯一路」構想を周辺外交の方針とし、昨年914日から9日間にわたってタジキスタン、モルジブ、スリランカ、インドの4ヵ国を歴訪したが、その訪問を「一帯一路構想を実現する旅」と位置づけていた。

 

特に、インド訪問は中国の対インド政策の180度転換を印象づけた。917日、習主席はインドのグジャラート州のアーメダバード空港に降り立ち、そこでモディ首相と首脳会談を行い、以後23日の全行程にモディ首相が同行した。モディ首相は、「インドの第一歩を、私の故郷に降り立ってくれて嬉しい。今年の7月にブラジルで初めてお目にかかった時、私はインドと中国は『二つの身体、一つの精神』であると述べた。INDIACHINAの頭文字を取れば、INCHではないか。われわれはインチの距離にある関係であり、マイルの距離まで関係を発展させるのだ」と述べた。

 

習近平主席の回答は、次の通りだ。「グジャラート州は、唐代の高僧・玄奨が立ち寄った場所で、中印交流の記念の地だ。両国は共に古代からの文明国であり、発展途上にある大国だ。今回の私の訪問は、友誼の旅であり、提携の旅だ…。『世界の工場』と『世界のオフィス』が組めば、怖いものはない。アジアの両大国が、『中国の能力』と『インドの知恵』によって牽引していくのだ。両国は手を携えて、バングラデシュ・中国・インド・ミャンマーの経済回廊の建設、シルクロード経済ベルト、21世紀の海上シルクロードを進めていこうではないか。モディ首相が唱える『二つの身体、一つの精神』に賛同する。『中国龍』と『インド象』が組めば、国際社会に大きく貢献できる」と述べた。

 

つまり、中国は「アジア未来の夢」を実現する最有力パートナーとしてインドを選んだのである。言い換えれば、今まで東アジアで言われていた、日中両国(または日中韓3国)が協力して「アジア共同体」をリードするという考え方からすると、大きな方針転換である。

 

これにより私がSGRAフォーラムで発表した「アジア・ハイウェイ」構想は西に向けて一歩前進するだろうが、東の日本と朝鮮半島の位置づけが変わることは間違いない。

 

*筆者は「アジア・ハイウェイ」の旅を夢見ており、その第一歩を今年52日に東京からスタートし、博多で対馬海峡をフェリーで渡り、プサンからソウル、そして板門店、中国経由でベトナム、カンボジア、ラオスまで走破する計画。SGRAからの参加者を募集中!

 

「西に向かう『中国の夢』と未来のアジア(その1)」は下記リンクからお読みいただけます。

http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/2015/797/

 

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<李 鋼哲(り・こうてつ)Li Kotetsu

1985年中央民族学院(中国)哲学科卒業。91年来日、立教大学経済学部博士課程修了。東北アジア地域経済を専門に政策研究に従事し、東京財団、名古屋大学などで研究、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、現在、北陸大学教授。日中韓3カ国を舞台に国際的な研究交流活動の架け橋の役割を果たしている。SGRA研究員。著書に『東アジア共同体に向けて――新しいアジア人意識の確立』(2005日本講演)、その他論文やコラム多数。

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2015年3月18日配信