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エッセイ450:ボルジギン・フスレ「新しい道を――渥美国際交流財団20周年記念祝賀会に参加し

26日、待ちにまった渥美国際交流財団20周年記念祝賀会が霞山会館で開催された。

 

その日、私が虎の門駅でおりた時には、すでにひぐれの時間であった。エスカレーターを上がったところでまず目にしたのは、会場案内の看板を持って、来客を誘導している先輩の葉文昌さんであった。そして、霞山会館のビルの入口では、同じく道案内の看板をもっている先輩の李恩民さんが待っていた。二人はともに大学の教授であるにもかかわらず、寒いなか、熱心にみなさんの道案内をしている。先輩諸氏の姿をみて、まず、感動した。

 

あわてて、会場にかけこんで、財団の常務理事今西淳子さんに「なにかやることはありますか」と聞いたところ、「今日は落ち着いて、楽しんでください」といわれた。

 

中曽根康弘元総理大臣をはじめ、各国、各分野の200名を超す方々が参加し、祝賀会が大盛会であったことはいうまでもない。

 

馴染みとの再会、新しい仲間との出会いの喜びはもとより、知見の豊かな意見交換、そしてやや横道に逸れる話も、祝賀会に必要なものだと思われる。ことなる文化のぶつかりあいによって智慧の火花が生まれるからであろう。

 

「故きを温ねて新しきを知る」。渥美伊都子理事長のご挨拶は、渥美財団の20年の歩みをふりかえながら、新年会などでの留学生とのふれあいのエピソードをとりあげ、国際交流における日本文化の位置づけも試みており、東洋の心に思いを馳せた。

 

長い間、渥美財団の人材育成、国際交流事業をあたたかく応援してくださっている明石康先生のご挨拶は重みがあった。「人間でも、国でもどのように友達を選ぶのかは非常に重要だ」というご指摘に非常に感銘した。

 

桐蔭横浜大学教授のペマ・ギャルポ先生に会って、モンゴル語で挨拶した。先生はかつてモンゴル国大統領の顧問を担当されたことがある。来日してすぐに先生のことを知ったのだが、お目にかかったのは今回が初めてであった。

 

名古屋大学名誉教授平川均先生からは、東アジアの枠組みのなかの日本とモンゴルの友好関係とその意義などについて聞かれて、うれしかった。バリ島でおこなわれた第2回アジア未来会議では、平川先生からいろいろとご教示をいただいた。モンゴルはかつて日本の「生命線」と呼ばれる地域であったが、長い間わすれさられた。新しいアジアの秩序の構築において、日モ関係の強化は、ある意味では何をもっても代えることのできないほどの重要性があると思う。

 

渥美財団のアドバイザー高橋甫氏は、寡黙でありながら、いつも物事を鋭く洞察している。モンゴルでおこなわれた7回のSGRAの国際シンポジウムの内、2回も参加してくださった。その際、また、アジア未来会議においても、モンゴルの鉱山開発と環境保護について、貴重な助言と情報をくださった。

 

公益財団法人かめのり財団の常務理事西川雅雄氏にお会いして、若い世代を中心とする相互理解の国際交流等について話し合った。実は、かめのり財団は2012年に私が実行委員長をつとめた第1回日本モンゴル青年フォーラムに助成してくださったことがあり、この恩は忘れられない。

 

設立以来長い間事務局にいらした谷原正さんは人気者で、たぬき(渥美財団の奨学生)たちにかこまれて、いろいろと聞かれていた。慈愛にみちた美しさが感じられる。

 

著名な、日本を代表する国際的ヴァイオリニスト前橋汀子氏のすばらしい演奏は、人びとの心をうち、祝賀会をいやが上にも盛り上げた。日本に来る前に、ふるさとの芸術大学で9年間教鞭をとったこともあったのだが、昔のさまざまなことが思い出された。

 

先輩の李鋼哲さんは東アジアの秩序について、熱心にかたった。李さんはかつて『朝日新聞』にモンゴルに関するユニークなコラムを書いたことがあり、たいへん注目された。

 

再会した友人のなか、2003年度同期の奨学生林少陽氏、臧俐氏、張桂娥氏はそれぞれ大学の教授になっている。4人で乾杯し、教育のことが話題になった。

 

祝賀会は、旧知の情を呼び覚ますだけではなく、また新しい仲間と知り合うことだけでもなく、新しいスタートである。

 

子日く、「三十而立、四十不惑(三十にして立つ、四十にして惑わず)」。この意味で、渥美財団はまだ基礎を固める段階にあるが、すでに目覚ましい成果を成し遂げている。国際理解や平和構築、人材育成に、渥美財団が寄与すべき責任(仕事)は多々ある。財団の20年の歩みを誇り高く思うが、栄光は過去のものであり、新しい道を開いていくことは、私達の使命である。

 

祝賀会の公式報告と写真、当日上映した動画

 

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<ボルジギン・フスレ Borjigin Husel

昭和女子大学人間文化学部国際学科准教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。昭和女子大学非常勤講師、東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員をへて、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(194549)――民族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011)、共編『ノモンハン事件(ハルハ河会戦)70周年――2009年ウランバートル国際シンポジウム報告論文集』(風響社、2010)、『内モンゴル西部地域民間土地・寺院関係資料集』(風響社、2011)20世紀におけるモンゴル諸族の歴史と文化――2011年ウランバートル国際シンポジウム報告論文集』(風響社、2012)、『ハルハ河・ノモンハン戦争と国際関係』(三元社、2013年)他。

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2015年2月25日配信