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エッセイ460:タマヨ・ルイス エフライン・エドアルド「フットプリントと私達の責任」

フットプリント(「あしあと」、狭義には環境負荷、広義には影響を与える範囲)という言葉は、しばしば、環境、特に産業や交通などから排出される温室効果ガスに使われます。私はこのフットプリントという言葉を、もう少し広い意味でとらえ、それに伴う責任について考えてみたいと思います。毎日の生活のフットプリントとは、一日の活動を通した人や環境とのかかわり合いのすべてを合わせたものです。言い換えれば、私達が生きていく上で必要としたもの、及び排出したもの全ての合算です。例えばエネルギー消費をインプット、その生産時に排出された二酸化炭素をアウトプット、消費する食糧をインプット、その食糧生産に伴う環境負荷をアウトプット、消費するものをインプット、それに必要な素材とエネルギーをアウトプット、さらには、学ぶことをインプット、活動することをアウトプット、などです。

 

各人のフットプリントの全体にはプラスとマイナス両面の効果があり、結果として環境や社会を改善したり、負荷をかけたりします。ですから、私達はフットプリントに対する責任を持つべきなのです。フットプリントを意識し、私達の決断がいかなる効果をもたらすかを知ることによって、フットプリントを管理することが出来ます。誰もが自分自身のフットプリントの全体と、それに対する責任について考え、それを管理する方法について教育を受ける必要があると思います。

 

世界の人口は、過去300年で約10倍となり、2013年には70億人に達し、2050年には90億人になるといわれています。人口の増加に伴い産業活動も増加し、資源の消費とともに廃棄物の発生も増えています。もし70億人が、現在の世界人口の10%に満たない先進国と同じように資源を消費し、廃棄物を発生させたならば、地球は持ちこたえることはできません。しかし、残り90%の国々は発展するに従い、先進国と同じような道をたどっているのです。

 

私は、地球の天然資源や海の生き物を涸渇させないために、又、持続可能性を脅かすようなあらゆる種類の廃棄物の発生を減らすために、先進国、発展途上国、いずれの国々においても、絶対に必要な、最小限の資源のみを使って生活し、マイナス面のフットプリントを減らすことを提案します。このためには、「あなたが何かをする前に、地球上の他の70億人があなたと同じことをしたらどうなるか考えてみましょう」という、簡単な習慣付けが役立つと思います。これは一つの行為の70億倍の効果を考えることです。例えば、リサイクルをしないで無意識にゴミを捨てる前に、環境を配慮せずに生産された安価なものを無意識に買う前に、歩かずに自動車を使う前に、電気をつける前に、などです。

 

人口が多いことが、全体として人類を存続の危機に陥れかねないほどのマイナス効果を増大させるのと同じ理由で、もし私達全員が自分自身のマイナス効果のフットプリントを減らすことができれば、それは劇的にプラス効果へ変化させることができます。キーポイントはいかに人々をそこに気付かせ、行動に導いていくかです。

 

人々はモノを「買うことが出来る」と思うと、資源やモノを「消費しても良い」、すなわち「買うことが出来る」イコール「消費しても良い」と錯覚しています。しかし問題は、ほぼすべての生産物、あるいは抽出された資源には、表に現れないコストがあるということです。これらのコストは資源や物質の生産にかかわるコストの一部ですが、値段には反映されていません。典型的な例が児童労働や労働搾取などの社会コスト、あらゆる種類の汚染や(森林の)濫伐などの環境コストです。これらのコストが価格に含まれれば、価格は間違いなく上がるはずです。私たちの日常生活において、資源を大切に意識して使うことが、消費の決定要因であるべきなのです。ある商品を購入することは、それを生産する産業をサポートし、生産を続けてほしいというメッセージではありますが、同時に、責任ある消費は、社会と環境を意識した産業のみを促進させる原動力となります。重要なのは誰もがこのことに自らコミットしていくかどうかであり、そこが分岐点となります。すべての人が同じ意識をもって行動すれば良い結果につながるでしょう。

 

私自身は、日常生活で消費を減らす、CO2の発生を減らす、地元の食品を買うなど環境負荷のマイナス面を減らしていますが、さらにその効果をあげるために不要なことは止めるということは非常に極端になる場合もあり、限界があることがわかりました。どんなライフスタイルにも最小限のマイナス面の環境負荷があります。生きるために必要な最小限まで環境負荷を削減するということであれば、私ももっと減らすことが出来るでしょうが、自分にとって大切なこと、好きなことを削減することは出来ません。誰もが見つけるべき大切なポイントは、自分の好むライフスタイルと、環境負荷のマイナス面を最小限にするベストバランスを見つけ出すことなのです。

 

人間の行為は相互依存の関係にあることと、資源は有限であることを無視してしまうのが、利己主義の問題点です。自分本位の行動が、無意識のうちにマイナス面のフットプリントを発生させ、富や収入の分配の不均衡をもたらします。私たちは、自分の社会的な価値観に従って行動していますから、価値観をさらに高めることが、変化への最も力強い推進力になるというのが、私がたとり着いた結論です。消費を増大させたり多くのモノを買い集めたりするのではなく、自己のフットプリント(影響を与える範囲)のマイナス面を減らし、不公平を是正する努力を促すような新しい社会的な価値観が求められているのです。

 

資源のインプットと私達の行為による廃棄物のアウトプットは、計算しやすく理解しやすいと思います。大規模な人口増加のインプット/アウトプット問題が、環境面、持続可能性に悪い影響を及ぼしており、それらに対して私達が何か行動しなければならないことは明らかです。私達のライフスタイルに合ったベストバランスを探し、マイナス面のフットプリントを減らす、あるいは最小限にする新しい価値観を創りましょう、というのが本論のもうひとつの提案です。

 

私達の行為の結果としてのフットプリントは、それが有形か無形か、積極的か消極的かにかかわらず、いずれにせよ人類の進歩や持続可能性に影響します。行動する、しないにかかわらず、フットプリントに対する自分たちの責任に気付き、それに対して日々の生活のなかで何が出来るかを探し求めることが大切なのです。

 

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<タマヨ・ルイス エフライン・エドアルド Tamayo Ruiz Efrain Eduardo>

2010年フランストロワ工科大学材料工学部卒業。2010年トロワ工科大学大学院光学ナノ工学修士課程修了。2008年(1年間)東北大学交換留学生。2010年(半年間)(株)東芝の研究開発センターでインターンシップ。2014年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。現在、(株)日立製作所研究開発グループ社員。

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2015年5月21日配信