SGRAかわらばん

エッセイ404:マックス・マキト「マニラ・レポート2014春」

第17回SGRAマニラ「持続可能共有型成長セミナー(Sustainable Shared Growth Seminar)」は2014年2月11日にフィリピン大学工学部のMELCHOR Hallで開催された。

 

今回は「製造業と持続可能な共有型成長」というテーマで開催され、運営委員の努力により約125人という多数の研究者、学生の参加を得ることができた。

 

セミナーはフィリピンと日本の国歌と国旗掲揚式に引き続き、今西淳子SGRA代表の代理である渥美国際交流財団の角田英一理事と、在フィリピン日本大使館の天野哲郎公使のスピーチによりスタートした。

 

セミナーのセッションは、下記の7つのブロックで構成され、午前9時半から午後5時まで続いた。

 

第1ブロックは「革新(Innovation)」がテーマで、フィリピンでは「発明」が量的にも(Tony Mateo先生)地理的にも(Arianne Dela Rosa Damayas博士)進んでいない現状と、その障害となっている要因が報告された。積極的な議論が展開され、結果として「発明者と投資家との定期的な話し合いの場」の設置が提案された。

 

「ITと製造業」をテーマとした第2ブロックは、フィリピンのIT産業における早期非産業化(early de-industrialization)と製品の罠(product trap)が指摘された(マキト)が、それに対してインドのIT産業がこのような課題を乗り越え、産業化を達成したプロセスが報告(徳丸紀夫先生)された。この報告では、エンジニアの長期的雇用制度や人材管理が重要な要因である、との示唆に富む研究結果が取り上げられた。

 

「水」がテーマの第3ブロックでは、NGOが行ってきた、草の根活動による水処理プロジェクトが紹介された(Apolonio Jimenez工学士)。

 

「環境・廃棄物処理」をテーマとする第4ブロックでは、製造業の包装(Packaging、 Encasement)から生ずる「廃棄物」問題が取り上げられ、「消費」と「環境」に関する議論が展開され、再利用や再生を促す提言が行われた(Ernie Labuntog工学士)。

 

午前中の一連のセッションの後、将来の大統領候補としても呼び声が高いGrace Poe上院議員の基調講演が行われた。講演では、貧困者にも成長が共有されているとはいえないものの、成長と発展の著しいフィリピンの経済に対する楽観的な展望が示され、また、みずから実施している貧しい子供たちのための政策を情熱的に語ってくださった。講演後には、会場のみなさんとの集合写真の撮影に喜んで応じていただくと共に、この比日共有型成長セミナーの発展のためのサポートは惜しまない、というメッセージもいただいた。ご多忙の中、貴重な時間を割いてセミナーに参加していただいたGrace Poe上院議員に心からの感謝をささげたい。

 

午後の部の第5ブロックでは「成長の持続可能性」をテーマとして、フィリピンの成長を妨げる2つの要因(課題)を取り上げた。輸出関係の地場製造業の未成熟(Kristine Joy Cruz Martin先生)と(自宅)建設バブルである(Gregorio Mabbagu先生)。

 

ミクロとマクロ発展をテーマとする第6ブロックでは、広い視野の発展で捉える持論のPoBME論の説明(平川均先生)があり、現代の世界構造の変化に重要な要因であると強調された。よりミクロ的に捉えた次の報告では、フィリピンの海外出稼ぎ者の送金は地方の開発のためにより効率的に使うべきだとの主張(Janice Zamora-Morales先生)が展開された。

 

「福島からの持続可能な製造業への教訓」をテーマとする第7ブロックでは、SGRAの福島スタディツアーがきっかけとなった、フィリピンの原発議論における安全や経済効率などに対する疑問が取り上げられた(マキト)。最後に、「ふくしま再生の会」が取り組んでいる7つの挑戦が紹介され(田尾陽一先生)、会場の参加者との対話が行われた。

 

翌日、セミナーでの議論を延長する形で、参加者13人による(建設中止になっている)バタアン原子力発電所への見学ツアーを行った。マニラから約100Km、美しいバタアンの海岸にある、バタアン原子力発電所は1970年代後半に着工したが、政変や相次ぐ反対運動によって、一度も稼働することなく、現在では見学者を受け入れて、原発の必要性や安全性を伝える、一種の原発記念館(博物館)的な施設となっている。(※ここであえて「博物館」という言葉を使っているが、フィリピンではこの原発の稼働開始を真剣に勧めているグループがある)

 

案内役のエンジニアに丁寧に応対していただきながら、約2時間、興味深く原発内の各施設を見学して回った。日本やアメリカは無論のこと、世界のどこにも存在しない、唯一の「リアルな原発博物館」で、原子力発電の原理やシステムを学ぶという、非常に貴重な経験をさせていただいた。

 

今回のマニラセミナーでは、共有型成長が目指すサステイナブルな社会/経済の構築にとって原子力発電がいかなる意味を持つのか、を真剣に議論する必要があると実感させられた。それと共にフィリピンの産業や社会にとって「革新(Innovation)」が重要なカギを握るというコンセンサスが得られていないことに関して、SGRAフィリピンの活動によって、議論が少しでも整理できれば幸いである。

 

SGRAが、これらの重要課題に関して果たすべき役割は多い。そして、それを絶えず模索して行くことが、SGRAのミッションであろう。

 

最後に、開会の挨拶で「SGRAマニラセミナーの成功と比日の知的交流の発展を祈る」というメッセージをいただいた在フィリピン日本大使館次席公使の天野哲郎氏、大雪に見舞われたにもかかわらず、日本からセミナーに参加していただいた平川均先生、徳丸宜穂先生、Penghuy Ngov先生、遠藤美純先生、田尾陽一さん、角田英一さん、並びにご協力いただいたANA(全日本空輸)に感謝の意を表したい。

 

1. プログラム

 

2. 発表資料

 

3. セミナーとバタアン原子力発電所への見学ツアーの写真

 

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<マックス・マキト  Max Maquito>

SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表、フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。テンプル大学ジャパン講師。

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2014年3月26日配信