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エッセイ408:謝 志海「アース・デイ(地球の日)に考えるボーダレスな地球」

4月22日は「アース・デイ(Earth Day)」地球の日だ。1970年にアメリカで、地球環境について考える日として提案された記念日である。今では192ヶ国以上がこの日を祝うと言われている。私の母国、中国では環境保護の意識がまだ薄く、アース・デイの存在すら知らない人もたくさんいるであろう。日本でも各地でアース・デイのイベントが開催されているが、アメリカほど知名度はないのではないか。

 

だが日本人は普段から環境に関しての意識が高く、環境保全の活動は今や生活の一部になっているようだ。アース・デイのようにわざわざ記念日を設けなくとも、環境保全を啓蒙するイベントは年間を通じて日本の各地で行われている。私が日本でホームステイ生活を始めてびっくりしたことの一つは、ゴミの分別がとても細かいことだった。ペットボトルや紙(新聞、段ボール)はともかく、肉、魚のトレイ、牛乳パック、卵のプラスチックケースまで!中国ではこんなことは有り得ない。2008年の北京オリンピックの前まではゴミの分別は一切無かったが、オリンピックを機にやっと「回収可能」と「回収不可能」の二種類に分けられた。しかし、何が回収可能で、何が回収不可能か、はっきりと分けるルールがなく、国民は困惑しているようだ。そんな国から来た私が日本に来て更に驚いたのは、日本人はゴミの分別を自然にやってのける上に、どの曜日がどのゴミの回収日ということも把握していて、きっちり指定された日にゴミを出す。これは賞賛に値する。その後私はホームステイを終え、一人暮らしを始めたが、ゴミの分別までは自宅で出来ても、それぞれをいつ出すかの習慣まではなかなか定着しなかった。指定日に出しそびれることもしばしばで、正直、家がゴミ捨て場のようになってしまったこともある。

 

日本人の友人は米国留学時に、自宅アパートの巨大なゴミ用コンテナに生ゴミ、衣類、家電、はたまた家具やベッドのマットレスまでが一緒に捨てられていて、大変ショックを受けたそうだ。アメリカ大陸に比べ、国土の狭い島国の日本はゴミの行き場が無いので、ゴミをなるべく少なくしたり、再生したりする必要があるのだろう、と感じたらしい。学校教育でも、小学校から環境についてしっかり教えている。環境問題をテーマにポスターを描くことは、義務教育を受ける者なら誰もが通る道である。それだけでなく、例えば、世田谷区の公立小学校では、学校がリサイクル可能なゴミを受け入れて分別している。そのゴミを業者が集めにきて回収し再生するというシステムを作っている。学校の生徒だけでなく、学校周辺の人もゴミをリサイクルに持ち込むことが出来る。これはPTAの活動であるが、リサイクルに出したゴミの収益金は子どもの教育活動に還元されている。ゴミの分別、回収、再生、そして自分たちに返ってくるといった流れを幼いうちから知ることはとても大事だと思う。

 

こういった教育が、日本人を「環境保全を意識する国民にする」のだと痛感するばかりだ。中国では環境教育は一応道徳教育の枠組みに入っているが、あまり重視されていないようだ。全体的に、国民の環境に対する意識がかなり低い。近年よく報道されるのは、大型連休(10月の国慶節)の時、公の場で大勢の観光客が去った後、いつも山のようなゴミが散らかっている光景だ。国民の環境保全意識をあげるため、日本のように、子どもの段階から学校教育でしっかりこの課題について取り組む必要があるのだ。2009年から国際連合環境計画の協力によって、ようやく「中国子ども環境教育」というプログラムが発足した。

 

昨今のアジアを悩ます環境問題といえば、中国が排出するPM2.5であろう。 環境省のホームページによると、PM2.5は大気中に浮遊している2.5マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリメートルの千分の1)以下の小さな粒子のことで、非常に小さいため、肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器や循環器系への影響が心配されている。日本で取り上げられるニュースはもっぱら、見通しの悪い北京や上海の光景と、日本に飛来してくるPM2.5の量である。しかし、よみうりテレビの最近のニュースによれば、日本で検出されるPM2.5は必ずしも中国飛来のものだけでなく、日本国内で発生しているものもあるとのこと。環境科学研究センターの成分分析によると、中国発生のPM2.5は石炭を燃やした際の化学物質や、工場から排出される煙が主な原因であり、日本(群馬県)で検出されたPM2.5は自動車や工場などから排出したものであることがわかった。日本国内ではそのどちらも検出されているのだ。

 

PM2.5の測定は、日々日本の各地で行われており、随時インターネットや、テレビニュースで知ることが出来るが、対応策に関してはなかなか進まないようである。中国でももちろんPM2.5はマスコミでよく取り上げられている。国民も強く懸念しており、ネット上では文句が絶えない。政府としても十分危機感を抱いてはいる。今年3月に李克強総理は「政府工作報告」の中で、大気汚染と戦う強い意志を表明し、今年度だけですでに350億ドルの財政資金を確保し大気汚染抑制を図る。そのほか、石炭の利用の減少、古いバスや車等の処分、新エネルギーの開発等、いろいろ対策を講じてはいる。日本も中国も早急に解決しなければならない問題は同じなのである。

 

皮肉にもPM2.5は人為的に引いた国境線が何の意味も無いことを教えてくれる。 日本の子どもと中国の子どもを思うと胸が締めつけられる思いだ。日本の小学生は毎日の学校生活を通じて、環境について学び配慮していても、空から降り掛かってくるPM2.5には抗えないではないか。また中国の子どもたちも外で元気に走り回れない理由を知り、自分たちで改善するチャンスが欲しいはずだ。アース・デイには国境をひとまず取っ払い、地球規模で環境について考え、未来に何を残したいかについて熟考したいものだ。後世に残したいのは、明確な国境線なのか、空気がきれいで緑豊かな地球なのか。

 

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<謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載された。

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2014年5月1日配信