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エッセイ410:張 亮「私の日本留学」

私は大学の時、中国リハビリ研究センターでの臨床実習をきっかけに、リハビリテーション医学に接した。リハビリテーション医学は、病気を狙った臨床治療医学ではなく、患者が病気、事故などにより失った機能をできる限り再生し、患者の残された能力を生かすための医学分野である。脳卒中などの後遺障害が起こる病気でも、歩けない患者さんが、だんだん自分で歩けるようになったり、手を使えない患者さんが、だんだん自分で服を着たり、トイレも使えるようになるときは、患者さんだけではなく、家族と周りの人々にとっても幸せである。ある意味で、病気で失った機能を再生し、患者さんの生活の質を向上させることが、患者の治り難い病気を完治するより、もっと大事だと考えている。この新しい医学体系といわれるリハビリテーション医学は、私にとって大変魅力的だった。

 

学生の時から、リハビリ医師になる道を目指した。卒業してから、リハビリセンターの整形外科に入局し研修医として勤務した。3年間のリハビリセンターでの実習を合わせた勉強により、リハビリの重要性は私の心に深く入り込んだ。しかし、現在中国ではリハビリというものはまだ人々に理解されていないと実感した。たとえば、多くの脳卒中の患者は、神経内科の治療が終わってから、家に戻らせてそのまま寝たきりの状態で、ハリ、マッサージなどの治療を続けるケースが多い。リハビリを行っている病院はとても限られているのが中国のリハビリの現状である。せっかくリハビリ医師になる道を選んだので、この領域のもっと先進的なものを知りたいと思ったが、周りの環境も整っていないので海外に留学することにした。中国のリハビリ研究センターは、もともとJICAの計画により、日本の技術支援を受けて建てられたもので、中国のリハビリのシンボルといわれている。したがって、日本のリハビリ医学は進んでいると考え、日本に留学することにした。

 

日本へ来て、訪問研究員として大学に入って、臨床のリハビリを勉強した。日本の大学病院では、見たことも聞いたこともないものがたくさんあり、日本のリハビリ医学は中国より遥かに進んでいると実感した。早く日本の医療技術を身に着けようと思ったが、目の前には、全くわからないことが想像以上に多く、なかなか覚えられなかった。しかし運が良いことに、日本の先生方はとても親切で、丁寧に教えてくださった。特に筋電図は、リハビリ分野の医師にとって、とても重要な技術だとよく言われているので、それを中心に勉強した。1年間の臨床での勉強で、中国ではほとんど勉強できないものをたくさん学んだ。

 

さらに難病のメカニズムの解明と治療法の開発のために、私は博士課程に進学した。臨床から基礎研究に移ることは私にとって新しい経験だった。基礎研究は臨床とは全然違い、研究の手法をはじめ、考え方もなかなか慣れることができなかった。ラボの先生方が丁寧に教えてくださったので、研究の基本的な技術を身に付け、研究に徐々に慣れてきた。私のラボは脊髄損傷を研究している。脊髄損傷は難治性の疾患で、いまだ治療法がないのが実状である。脊髄損傷した人は、重い後遺症になり、生涯に渡って障害が残る。リハビリはこのような患者さんにとってとても重要な手段と考えているが、特に完全脊髄損傷の運動機能回復に有効とされているリハビリ方法はなかなかない。博士課程の私の研究で、ラット脊髄完全損傷モデルのリハビリ治療法を開発し、明らかな機能回復効果を示した。さらに、脊髄損傷患者の臨床治療に向けて、軸索を再生させる新しい薬との併用治療の研究に従事し、その効果を明らかにし、メカニズムも検討できて、海外学術雑誌に論文を載せることができた。

 

日本へ来てからの数年間は、研究面だけではなく、生活面でも良い経験をした。博士課程の間は日本の民間財団から奨学金をいただき、研究に専念でき、いい成果を挙げることができたことを感謝している。これから私は、まず日本で今の研究を終わらせ、その後アメリカへ留学し、リハビリ医学をさらに勉強したい。リハビリ医学は、世界にとっても新しい分野なので、まだわからないところがたくさんある。この分野の発展に自分の力を尽くしたいと考えている。

 

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<張 亮(ちょう りょう) Liang Zhang>

2005年中国首都医科大学医学部臨床医学専攻を卒業。中国リハビリテーション研究センターと中国北京軍区総病院勤務医として働き、その後退職。2006年来日、慶應義塾大学リハビリテーション医学科で訪問研究員を経て、博士課程に入学し、脊髄損傷の基礎研究に従事、2015年博士課程修了見込み。現在、慶應義塾大学整形外科学教室研究員として、脊髄損傷の再生医学の研究に従事。

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2014年5月21日配信