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エッセイ411:謝 志海「ウーマノミクス(1):日本の女性が日本の未来を導く(その1)」

安倍政権になってから、日本の女性はこれまでにないほど、沢山の期待を背負わされているのではないだろうか?今回は特に安倍首相が掲げる成長戦略のうちの一つ、女性の活用 「ウーマノミクス」を取り上げたいと思う。

 

ウーマノミクスとは、女性が社会で活躍することにより、経済活性化を目指すというものだ。日本は人口減少の一途をたどっており、それによる将来の働き手不足を懸念している。内閣府による予測では、およそ50年後には労働力人口が今より2割ほど減ってしまうとされている。人口の減少、すなわち少子化問題も早期解決の目処は今のところなさそうだ。外国人労働者の受け入れは、他国と比べて日本は非常に弱腰である。ではどうやって働き手を確保するかというと、女性だ。

 

最近のウーマノミクス関連のニュース記事でよく目にする言葉に「M字カーブ」がある。日本人女性の働く人の割合を示す就業率年齢分布はM字カーブを描く。左右の高い部分は20代と40代後半、くぼみの一番深い年齢が30~40代で、出産を機に仕事から離れるからだ。このくぼんでいる部分の人に、労働市場に戻ってもらえば、GDPも上がるであろうと思われている。30~40代の女性に働き続けてもらうには、出産後も働きやすい環境を整える事が大事であり、産休の充実、復帰後の時短(短時間勤務)の適用、保育園、幼稚園を増やす等は、すでに様々な制定がなされており、大手企業にとってそれらの制度は最近導入したことではない。なのになぜ未だに日本女性の就業率はM字を描いているのか?

 

経済協力開発機構(OECD)が2013年に発表した「雇用アウトルック2013」によると、日本の25-54歳の女性の就業率は69%で加盟国中、24位だった。(上位はノルウェーなどの北欧諸国で80%を超えている。) 約6割の女性が第一子出産を機に退職するからだとOECDは指摘する。これらの6割の女性は喜んで退職しているのか?日本政府が増税とインフレ2%に執心のさなか、そうは思えない。勤務先は時短制度が無い、復帰後に働きやすい環境が待っていないなどで、やむを得なく去っていくケースも多いのではなかろうか?日経新聞によると、女性の活用に関しては、企業の対応はまだ手探りの段階。そこで、横浜市が中小企業女性活用推進事業を始める。女性の就労継続を支援するために中小企業にコンサルティングをしたり、かかる費用の一部を助成する計画を打ち出した。市町村が、働き続けたい女性が求めること、また女性社員に残ってもらいたいが、そのシステム作りに悩む企業の声に耳を傾け、手助けすることは素晴らしい事だと思う。

 

同じ日経新聞の記事内に「出産女性の就業継続は夫が子育てを分担することも不可欠」とあった。私は「これだ!これが答えだ!」と思った。中国では、夫は当たり前に家事をする。子供がいてもいなくてもだ。家事は女性がするという概念が無い。どうしてかと聞かれると、うまい答が見つからない。自分の家も、周りも親は共働きで、家事を普通にこなす父親を見て育っているので、そういうものだと思っているとしか言い様がない。一方、日本の男性にとって、掃除、育児は女性がするものという固定観念が根強くある、年齢が高ければ高い人ほどそういう傾向だ。これでは女性にばかりしわ寄せが多く、育児と仕事のバランスがうまく取れず、就労継続することが困難な状態になる、それがM字カーブを描いてしまうのであろう。

 

家庭と仕事の両立支援制度の話に戻ると、男性にも育児休業を設けている会社が多い。育児をする男性=イクメンという言葉まで定着しているのに、問題はそれを活用する人が少ないこと。厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、2012年度の男性の育児休業取得率は1.89%である。日本の男性は残業もいとわず日々真剣に働いているので、育児休業=一線から外れてしまう、また取得後の人事評価などを懸念して、育児休業を取ることに臆病になっているのであろう。彼らの上司(40代後半から50代)の育児休業についての理解が低いことも、取得率を下げる大きな一因だと思う。上司の時代にはイクメンが存在しなかったのだから。中国には男性の育児休業なんてものは存在しないので、私にとっては制度があって、使う権利があるのに行使しないことをもったいないと感じる。

 

日本の企業は時代に合わせて社員が働きやすい環境を整えていて素晴らしいと思う。しかし、それらを社員が活用できているかまで、会社はしっかりとモニタリングしているのだろうか?社員に活用するよう推奨しているのか?上司や同僚の目が気になって、育児休業の取得を切り出せないようでは、制度を作った意味がなくなる。男性達も、一度思い切って育児休業を取ってしまえば、自分の子と過ごせる時間を与えてくれた会社に感謝し、勤務時間中はより業務に集中し、貢献度が上がるかもしれない。こうして小さな子を持つ父親たちが、当たり前のように育児休業を利用したり、積極的に家事へ参加し、周りもそれを当然の事として受け止めることが、女性の就労継続につながり、実は一番のウーマノミクス成功への近道なのではないか。ウーマノミクス、と女性をあおる前に男性の家事と育児に対しての意識改革が必要だ。女性の労働人口が上がり、経済的に元気な日本になることを期待する。

 

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<謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。


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2014年6月4日配信