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エッセイ412:謝 志海「ウーマノミクス(2):日本の女性が日本の未来を導く(その2)」

前回のエッセイでは日本の女性が継続して働き続け、就労人口の底上げを期待されていることについて書いたが、同時に少子化問題も日本の切実な悩みであり、こちらにも女性への期待がかかっている。

 

5月19日、今後の少子化対策について話し合った内閣府の有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」が提言をまとめた。そこには目標出生率の具体的数値は無かった。「国が女性に出産を押し付けると誤解されかねない」との意見が多かったそうだ。一人っ子政策をしている中国から来た私が言うのもなんであるが、具体的な目標出生率を(今は)定めない、という慎重な提言を出したことは画期的であり、女性にプレッシャーを与えたくないという気づかいのあらわれと前向きに捉えたい。というのも、働き手が減るから、年金が足りなくなるから、もっと子供を産もうというのでは、日本の女性にとって子供を産むことが魅力的に感じられるのだろうかと、以前から感じていたからだ。

 

一方で、将来を予測して具体的な数値を出し対策をとることはとても大事だ。日本の女性が生涯に産む子供の数が、2.07人に増えて、かつ働き続けたとしても、50年後には働く人が1000万人以上減ってしまうと予測されている( 内閣府の将来予測)。2人以上子供を産んでも将来の就労人口は足りないと試算されているのだ。このとどまるところを知らない少子化を食い止めようと、森雅子少子化対策担当大臣は、少子化対策の3本の矢という、子育て支援、働き方改革、結婚妊娠出産支援を打ち立てている。子育て支援というと、保育所の新設、政府がよく言う「待機児童ゼロ」。働き方改革は前回取り上げた、時短勤務など取り入れ、育児と仕事の両立支援。この二つは官民が策を練り改善が進んでいるように見える。最後の矢、結婚妊娠出産支援、中でも結婚に関しては具体的に政府がどうからんでいくのか、前出の二つと比べると見えにくい。まず結婚して、妊娠して、出産してやっと子育て支援と働き方改革の恩恵を受けられる立場になるのに、結婚する人が増えない。初婚年齢が高くなるだけでなく、生涯未婚率は増加している。日本の若者にとって、結婚して家族を持つことが素晴らしいと写らないのだろうか?婚姻率の上昇が出生率上昇の要ではないか?

 

先日、自民党が配偶者控除の見直しの提言案をまとめた。これも女性の社会進出を促すのを狙っている。夫婦単位の控除にすることで、共働きと、夫婦どちらかが働く世帯との間で所得税額の差を出にくくし、専業主婦に与えられる優遇措置と長く言われてきた制度の見直しだ。不思議なのが、ここに少子化の事は全く懸念されていない事である。もちろん、女性の社会進出を促すと言っている手前、子育て世代の女性を支援するため、ベビーシッターを雇った費用などを所得税額から差し引ける「家事支援税制」の導入も盛り込んだ(朝日新聞より)とあるが、では例えば、配偶者控除を廃止したとして、出生率が上がる、もしくは出生率には何も影響は出ないであろうという未来予測はできているのだろうか?結婚し子育てするメリットが減ってしまわないか?子供を2人以上持てる家庭は増えるか?そしてベビーシッターを雇った費用は所得税額から差し引けるというが、安心して子供を預けられるベビーシッターの数は、それを求める人々の数と合っているのだろうか?

 

日本のメディアでは日々、働くお母さんが保育園やベビーシッター探しに奔走している様子や、仕事と育児をいかに両立させるかが取り上げられている。仕事をしながら、子供を手元に置き自分で育てていることの大変さは私の想像を越えるだろう。中国では、保育園や託児所等の施設が充実していないので、子供が小さいうちは実家に預けっぱなしの親も多い。日々の生活で少しでも子供と過ごす時間を捻出しようという姿勢は、日本の家庭と比べるとはるかに低い。

 

日本には少子化問題に特化した対策担当大臣もいて、子育て、女性の活用、待機児童ゼロ、様々な問題を議題に挙げているのだから、個別に対処していくのではなく、総合的に解決していくことが、女性の社会での活躍と子どもの未来、そして将来の日本の活性化につながるのではないかと思う。

 

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<謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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2014年6月11日配信