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エッセイ415:謝 志海「ウーマノミクス(3):公の場でセクハラヤジ」

安倍晋三政権が新しい成長戦略と、経済財政運営と改革の基本方針を着々と実行段階に進めるなか、先日の東京都議会本会議では女性議員の一般質問中に「早く結婚しろ」などのヤジが飛んだことが、日本全国だけでなく、世界のメディアでも報道されてしまった。成長戦略のなかでも、女性の活躍を重視している安倍晋三政権にとって、この事態は「ばつが悪い」ことになるだろう。

 

概して、アジア各国は欧米に比べると女性の立場が弱く、守られていないという差別が根強く残っているが、アジアの中でも経済的、知名度的に欧米先進国と肩を並べる日本までもが、未だに男性優位体質であることが、今回の件で露見してしまい残念だ。

 

前述の通り、この件は世界に広く報道されてしまった。都議会本会議の直後から英米のメディアが、相次いで「セクハラ暴言」などと報道した。米CNNテレビのウェブサイトではヤジ問題の記事を、日本の労働市場では男女間の格差が給与 (平均して女性の給料は男性に比べて3割安い)や人事(女性管理職の数) でも現れていると締めくくっている。民間企業に女性取締役を増やすようアドバイスしたり、指導的立場の女性を2020年までに30%増やすことは、安倍晋三政権が豪語していることだ。今回のヤジ問題は、その目標は実現可能なのか?という気にさせられてしまうではないか。この一連の出来事は引き続き世界が注目しているようで、ヤジを飛ばされた塩村文夏都議は6月24日、東京の日本外国特派員協会で記者会見した。朝日新聞が運営する英語版ウェブサイトAsia & Japan Watch (AJW)によると、この記者会見に出席していた記者の反応はいささか冷静であったようで、日本在住歴14年のシンガポール人記者は「(ヤジ問題を)特に驚かなかった。このような日本の性差別の記事はいつも書いてるから。」とコメントしている。日本に住んでいる外国人の目にも、男女の扱いの差が明白とは、悲しい事実である。

 

そしてこの記者会見に出席していた外国人記者たちは、日本の未来を思いやるような、非常に的確なアドバイスとも言えるコメントをしている。前出のシンガポール人記者は「この出来事は日本が変わるために必要であると信じたい。」と言った。同じく日本在住歴20年以上のフランス人特派員も「この出来事が日本を劇的に変える役割を果たすことを望む。」と語った。これぞまさに、日本を客観的に観察している人々の思いであろう。ウーマノミクスのエッセイを通して言っているが、日本は女性の活用にあたり数値目標を掲げるだけでなく、女性がどういうスタンスで社会に貢献したいのか今一度耳を傾けることだ。そして具体的にかつ実現可能なレベルから直ちにアクションを起こさなければいけない。

 

私が今回のセクハラヤジ問題で気づいたことは男性優位体質だけでない。いかに日本が世界から注目されているかだ。安倍晋三政権が次々と経済政策を進めているさなかなので、当たり前と言えばそれまでかもしれないが、やはりアジアを代表する経済国として、日本の存在感は大きいのだ。そこへ突然、大都市東京では時代錯誤のような都議会本会議が行われていたとは、世界が驚くのも無理ない。問題はここからだ。この出来事をどう成功カードに切り返すかだ。皮肉にもと言うべきか、英エコノミスト誌の最新号(6月28日~7月4日)の表紙を飾るのは、サムライの格好をし、矢を射ろうとする安倍晋三首相だ。安倍晋三政権が放つ矢を世界は固唾を呑んで見守っている。

 

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<謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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2014年7月2日配信