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エッセイ427:謝 志海「クールジャパンのあり方」

2020年に東京でオリンピックが開催される事が決まり、日本では一層「クールジャパン」という言葉を耳にする。ここで強調したいのは、それが日本の中だけの話題だということ。クールジャパンの動きは海外ではどれほど浸透しているのだろうか。日本ではクールジャパンという言葉ばかりが先走っている気さえしてくる。「具体的には何をしているの?」と思っている人もいるかもしれない。そしてそれが日本政府主導ということまで知っている日本人は案外少ないかもしれない。

 

日本に住む日本人にとって生活に関わるものほぼ全て、衣食住に限らず公共交通機関をはじめとした安全で便利な暮らしが出来ていることは、当たり前のことだ。しかし外国人にとっては快適便利な暮らしこそがクールなのである。日本政府が旗振り役になって世界に発信しているクールジャパンはアニメ、アイドル、日本食に傾倒し過ぎているように感じる。しかしそれらは、日本通の外国人達にとっては、新しいものでも何でもない。インターネットの普及により、彼らは見たいもの、欲しいものを自国にいながらいつでも手に入れられるからだ。日本政府が民間企業と手を組みクールジャパンを促進するのなら、すでに海外に進出している民間企業が新規開拓に行き詰まっていたりする場合の手助けをする方がよいのではないだろうか。

 

海外では日本車が走り回り、ポッキー(お菓子)もマルちゃんのインスタントラーメンも手に入る。これらはクールジャパンという言葉が使われる前から、海外に果敢に販路を求めてきた日本企業の努力の賜物だと思う。しかし時は過ぎ、韓国や中国の家電メーカーの台頭により、昨今日本の存在は弱くなったと言われている。そして、そのようにマスコミが煽るから、ますます日本国民の元気がなくなるのではないか。これは実にもったいないことである。中国人にとっては、自動車や家電以外にも売り込める魅力的な物を沢山持っている日本の企業たちは、なんてパワフルなんだ!と感心せずにはいられないのに。

 

日本の民間企業はまだまだ底知れぬパワーを持っているのだ。日本で生活する外国人からすると、日本はまだまだクールジャパンを活かしきれていないように思う。日本の製品が海外で認知されているのは、ただ単に製品を輸出するだけでなく、便利さという付加価値と現地のニーズに合わせたものづくりをしているからではないだろうか?現地化というのは、欧米の企業も入念なマーケティング等の調査をしているはずだが、使いやすさ、例えばパッケージの開けやすさ一つをとっても日本の技術は世界のトップと言っても過言ではないだろう。これはもう細部にも手を抜かない日本の文化だと思う。例えば、「よその国はインスタントラーメンの粉末スープやソースのパッケージの開けやすさに、そこまでこだわらないし、期待してもいない」というスタンスではなく、自分たち(日本人)が快適と思えるレベルまで掘り下げて商品開発している。そしてどの国の人も結局は便利なものに手が伸びるのだ。いつしかこの便利さが世界のスタンダードになるかもしれない。

 

その他の例では、日本人のドラマ、映画離れがあるかもしれない。日本人が熱狂しなければ、世界でも認知度は低いだろう。現在ドラマと映画のようなエンターテイメントはアメリカと韓国に大きく水をあけられている。クールジャパンとして、今は、すでにおなじみの日本のアニメを海外で放映しているようだが、先述の通り、少しでも興味があれば今はインターネットを通して何でも手に入れられる時代だ、新鮮さがない。「クールジャパン=漫画、ドラマ、アイドル」だと思うなら、さらに新しいものを生み出せる環境や資金を整えてあげる方が良いのではないか。

 

では今後どういった文化を売り込めるのか?サービスやホスピタリティではないだろうか。サービスというと先述のパッケージの開けやすさなどは、日本のお家芸とも言えるだろう。同じく赤ちゃんのオムツや介護用品も企業が使いやすさを日々研究していて、すでに海外にもどんどん進出している。ホスピタリティというと、世界の先頭をきって走っている高齢化と、流行語「お・も・て・な・し」にヒントがあるかもしれない。日本中に星の数ほどあるかと思われる老人介護施設、それぞれが独自のサービスを行っている。日本には老いも若きも安全で便利に暮らせるシステムがある。海外ではなかなか同等の快適さは得られないのだ。

 

最後に、クールジャパンと言って表に出ることばかり考えているだけではいけないと思う。まずは日本の若者に向けてクールジャパンをして、自分たちが今の日本文化を作り上げ、牽引していく立場だという意識を持ってもらうのも近道かもしれない。

 

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<謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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2014年10月22日配信