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エッセイ429:葉 文昌「『伝統』 という名がつけば」

3年前の出来事。趣味で金箔を一箱10枚6000円台でネット購入した。金箔で有名な金沢の、ネット検索で最初に出てきた会社である。他の会社がほとんど0.001mmであったのに対してこの会社の金箔は0.002mmのものがあり、価格が1~2割高かっただけだったので、これを選んだ。

 

しかし商品が届いてがっかりさせられた。あれは0.001mm未満であろう、透けて見える上、私が今まで接した金沢職人金箔と比較して、台紙から剥がせばボロボロになるほど極端に薄いのだ。(透過率測定か電子顕微鏡で観察すればデータは取れるが)

 

私は業者に問い詰めた。そうしたら「これは伝統技術で手作りなので、誤差」だと言われた。「0.001mmと0.002mmでは誤差は100%だぞ、これは詐欺だろう!」と怒った。

 

私のたかだか数千円の損はどうでも良い。真面目な業者がいる一方で、伝統を言い訳に不誠実なことをする業者が許せなかった。

 

消費者センターにも相談したが、これは職人技なので非は追及できないという答えだった。「匠を知らない外国人」vs「金沢伝統工芸」という構図になっていたのだろう。これ以上是非を追及しても無駄と、私は諦めた。

 

この金箔は使えなかったので、その後別の会社から0.001mmのものを買った。そうしたら透けて見えない上、台紙から剥がせる厚さの、まともな品が届いた。私のクレームは間違っていなかった。

 

世の中には「伝統」をつければいいと思っている人が多い。また外国人はどうせわからないと思い込んでいる人も多い。今年参加したある国際学会の晩餐会で日本伝統大道芸が披露された。和傘でお椀を転がしていた。演者は袴を着ていかにも「日本伝統」なのではあるが、普段着で道端でやっている大道芸のことを想像すれば普通の腕前で、そこに感動はなかった。

 

京都の枯山水。Wikipediaによれば「枯山水は水のない庭のことで、池や遣水などの水を用いずに石や砂などにより山水の風景を表現する庭園様式」とのこと。日本人にその美しさを理解しているか聞かれる。私は、枯山水は非常に素晴らしく、日本が世界に誇れる創造的な芸術と思っている。しかし次のことを付け加える。「石ころを水に見立てているのでこれは現代美術の先駆けである。素晴らしい創造力だ。当時コンクリートというものが発明されていれば、コンクリートの枯山水もあったかもしれない。だが私にとって現代美術は自然を越えられない。だから自分が庭を持つとしたら私は石ころを並べるよりも、本当の水を流した木々が鬱蒼と茂る庭を作るであろう。」大抵の場合、外国人は和を理解できない、というオチになるのだが。

 

通販和菓子、日本酒の利き酒・・・「和」がつけば「外人にはわからない」といい加減にする人は多い。台湾人にも「外国人はわからない」と美味しくない烏龍茶をプレゼントする人がいるのと同じである。それでは外国からの信頼を失うことになる。

 

日本の伝統工芸や芸能を否定しているのではない。それに逃げている、或いはそれだけを売りにしているのが少なくないと感じるのである。

 

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう) Yeh Wenchang>

SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。

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2014年11月5日配信