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エッセイ364:葉 文昌「島根で干柿500個作りに挑戦」

日本の島根に着任して初めて迎えた春、スーパーで地元産の干柿を買って食べた。もともと干柿は好きだったし、学生の頃もよく安い中国製の干柿を食べていた。この島根の干柿は1個300円と高かったが、それに感動したのが始まりだった。

 

それから一年たって秋が近づいて柿が出回り始めた頃、地元出身の学生に地元の人達が干柿を買う場所があるか聞いてみた。すると家では自分で作っていると言うのだ。それなら私にも作れるかもしれない、と言うことでネットで調査してみたら作り方がたくさん出てきた。 島根の干柿は西条柿という種類で、Mサイズ一袋約70個で2000円で売られている。一個30円の生柿が300円の干柿になるのだからすごい付加価値である。皮を剥き、紐で吊るし、熱湯に10秒浸けるか焼酎に浸けるかして殺菌してから外に吊るす。殺菌は両方とも試したができ具合に差はない。ベランダに干せば2週間程で渋が抜けて食べられるようになる。この時点では中が水っぽく、あんぽ柿のような状態である。ただしこの状態では保存が効かないので、市販のあんぽ柿は硫化物にくぐらせて保存できるようにしてある。しかし市販のものは1個200円でも、旨みや香りは自作のものには程遠い。

 

自作のは太陽光をたっぷり吸収して、転換された旨みが広がるので格別であった。市販品のはおそらく十分には天日に晒されていないのであろう。 山陰の11月は殆どが薄曇りで、その合間に陽が射し、にわか雨もよく降る。陽射しが強すぎては温度が上がってショウジョウバエが湧く。かといって日射しがなければ紫外線による旨みは出てこない。そして雨に濡れてしまえば雨が取り込んだカビの胞子で干し柿はカビる。だから干し柿に適した期間は短く、その上に不安定な気候状態の中で、条件が三拍子そろった時にだけ出来の良いものができると言える。去年はあんぽ柿の出来に満足していたら、その後雨にぬれて柿はカビた上にショウジョウバエが発生して失敗してしまった。即座に再チャレンジしてからは毎日欠かさず天気予報をチェックして、降水確率が高ければ部屋にしまい込んだ。部屋のふすまは全開して風を貫通させて乾燥を促す。その甲斐あってその回は綺麗な干柿ができた。

 

そして更に3度目。すでに12月に入っていた。この時期はほぼ毎日曇りで降水確率が50%を超えていたので、室内で影干しにした。失敗はしなかったものの柿は黒ずんでしまい、風味も乏しかった。去年はそれでおしまいとなった。 それからまた一年、私は2011年の経験を踏まえて更に多くの干柿を作ることにし、目標を500個とした。500個作るからには雨が降りそうだからと部屋に取り込むことはできない。そこでベランダに透明塩化ビ二ルシートを張ることにした。風を通すためにシートを適度な大きさに切って、風が吹けば開くようにした。これならば手間をかけずにほっとけば干柿ができる。

 

しかしここで一つの疑問が出てきた。地元では人によっては陰干しにすべきと言うのだ。そうだとしたら去年の私は間違って作っていたことになる。天日干しで十分に美味しいのができたので、そんな筈はないと思いつつも不安になってきた。そこでネットで調べたところ、天日干しと陰干しの両方の意見があった。しかし陰干しには十分な根拠が示されておらず、一方で天日干しについて、野菜は天日干しにすると紫外線で旨味成分が発生するのでおいしくなることがわかった。何事も他人の経験には頼らず自分でしっかり調べることが重要なのだ。

 

そこで今年もやはり天日干しとした。また窓と北側の部屋と南側の部屋を隔てる襖は昼間も夜も全開にして北から南へと風が貫通するようにした。 しかし12月になるとさすがに夜風が冷たく、布団は暖かくても顔が冷えれば目が覚めたので、夜だけは窓を閉めた。 長崎出張の折には八百屋で見かけた渋柿を20個持ち帰って干柿をつくってみた。しかし甘さがいまいちな上に肉がボソボソだった。それと比較して西条柿は甘い上に肉はもちもちしている。だから西条柿は干柿にとても適した柿である。この他にも富有柿の干柿も作製中で、どうできるかが楽しみである。

 

柿の皮剥き時間は一個当たり50秒、紐通しと消毒が8個当たり10分であるから、一個当たりの必要時間は2分ほどである。500個作るとなると1000分、即ち16時間かかる。私は2週間かけて200個を作り、その後友人2名の協力を経て更に200個を作った。そして更に50個追加したので合計450個は作った。目標まであと少しを残したものの、まずまずの成果と満足している。450個の干柿は協力者や友人に配る等して半分はなくなった。残りは毎日3個食べると日に日に減って行く。来年は1000個を目標にしてみたい。そして柿の木オーナーになる計画も立てている。

 

干し柿の写真

 

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう) ☆ Yeh Wenchang>

SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。

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2013年1月30日配信