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エッセイ384:尹 飛龍「日本が好きになってきた」

私は2007年9月に日本に来ました。私にとって初めての外国でした。日本滞在はもうすぐ6年になりますが、冷静に考えると、日本語は上手くなったけれども、日本の文化、日本の歴史、日本の政治、日本の経済などについて、悔しいですが、あまり深くは知りません。実を言うと、それらを理解しようとする努力をしなかったためです。

 

博士号を取得した時、どうして日本で生活を続けるかをもう一度考え直す機会がありました。正直に言うと、日本に来る前は、日本に対する印象はあまりよくないものでした。その原因は日本に対する知識があまりなかったからです。私のもっていた知識は、昔の日本は中国を侵略して多くの中国人を殺したり苦労させたりしたこと、現在の日本は経済面で中国から多くの利益を盗んだことくらいでた。日本に来たのも先生方に薦められたからで、技術力が高い日本で自分を高めようとしただけの利己的な考えでした。

 

然し、日本に来て、まず日本の環境に驚きました。市街にごみがなく、川の水が澄みきって、浅い水の中でも魚が生き生きと泳いでいました。道路と川の両側に木がたくさん植えられていて、公園もたくさんあって、東京に住んでいるのに、自然や緑がいっぱいだと自慢できることは想定外でした。日本にいる間にイギリスのロンドンとアメリカのオーランドの学会に行きましたが、そちらと比べても、日本は勝っていると思います。日本の環境は世界一という噂は確かなようですね。環境問題に陥った昔の日本と現在の日本を比べて、中国もこれから改善できることがわかり、中国の明るい未来が見えてきました。

 

それから、日本人の礼儀が素晴らしいと感じたのは、有名なお菓子屋さんでアルバイトをしていた時でした。仲間の接客を見て、その一言一言から「お客様が第一」ということがしっかり分かりました。そこで3年以上アルバイトを続けましたが、恥ずかしいですけど、外国人である私は接客に出る自信はありませんでした。子供の頃から、このような環境に慣れなければいけないかもしれませんね。然し、公衆トイレにトイレットペーパーを入れても、すぐ盗まれた時代も日本にあったことを知り、昔の ような「路不拾遺(道徳が世に行われて人々は道に落ちているものを拾わなくなる)」「夜不閉戸(夜でも鍵をかけなくても良い)」の中国もいつか戻ってくるでしょう。

 

また、日本人の親切にはすごく感動しました。東京に来て間もない頃は電車の乗り換えの時に困りました。東村山市萩山に住んでいたので、学校から帰るときに国分寺で乗り換えが必要でしたが、どう行けばいいのか分かりませんでした。その時、ある日本人の方にホームまで案内していただきました。いま思い出しても、まだ心が温かくなります。その後、何度もこのように親切に助けていただきました。修士課程の時からは、奨学金をいただきました。奨学会は毎月例会を行って、お金をあげるだけではなく、日本での生活、学業など幅広いことについて話し合って、大変助かりました。これも日本人の親切の表現だと思います。

 

日本の生活は便利で、食品が安全であることがとても好きです。何の業界でもルールがあって、皆が守っていることはすごくいいと思います。車が横断歩道の手前で止まって歩行者に譲ったり、電車やバスに乗るのに列を作って待ち、なんでもスムーズに動いています。市役所に行っても、警察署に行っても、サービス精神溢れる公務員からサービスを受け、大満足でした。皆が自分の責任をしっかり認識して、守るべきことを尊重しています。

 

日本へ来て、自分自身でいろいろ新しい情報を手に入れて、日本人に対する印象、日本に対する感情が大きく変わりました。昔のことの痛みはまだありますが、塩に水をかけるように、だんだん薄くなってきました。そして、今の平和を望んでいる日本人に、昔の罪に対する罰を与えることも不公平だなと考え、自分の視線は未来志向へ変わり、平和が続くように願い続けています。

 

様々な感動があって日本を好きになりましたが、まだ日本人のすべてを理解できるとは言えません。ルールが多すぎるせいかもしれませんが、日本人の中には、機械のように生きている方がたくさんいるように思います。皆が活発になるように何かをしてあげたいです。これは私の独りよがりの考えで、間違っているかもしれません。

 

それから、ある政府の関係者から、日本の政治家の中には右翼的な方が相対的に多いことを教えていただきました。個人的な考えですが、そのような状況がちょっと不安です。

 

日本に来て、私の視野が広くなりました。日本人と付き合って、日本に対する敵意がなくなりました。日本で生活をして、日本が好きになりました。日本も中国も、良いところを続け、良くないところを直していって、皆の幸せのために平和的な発展を目指し続けましょう。個人の力だけでは何も変えられないですが、我々地球市民の皆の力を合わせば、何でも変えられるでしょう。

 

頑張ろう、日本! 頑張ろう、皆! 私も頑張るぞ!

 

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<尹 飛龍(イン・フェイロン) Yin, Feilong>

東京農工大学工学博士。専門は自動車工学。車と人間の情報伝達手段として、アクセ ルペダルの反力を制御することで、安全かつエコの運転を実現する方法を研究してき た。現在は井関農工株式会社海外営業本部に所属し、海外向け製品の技術サポートを 担当している。2012年度渥美奨学生。

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2013年8月28日配信