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エッセイ310:宋 剛「SMAP北京コンサートに見る中日の文化的相違」

9月16日に、SMAPが北京でコンサートを開いた。私の知り合いの教え子がその準備作業に携わっていた。この学生によると、共同作業をした日本と中国のスタッフの間で、文化の違いによって、多くのトラブルが起きたそうだ。興味深い話なので、学生の同意を得て整理してこのエッセイを書いた。(以下、便宜上、第一人称で記すことにする。)

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ジャーニーズが好きで、今回のコンサートのボランティア――とはいえ、ステージから一番遠い席のチケット1枚と毎日100元の謝礼がもらえる――に応募した。専門知識はないが、照明部門に配属された。仕事内容は日本の業者の人と北京現地の機材会社の従業員の意思疎通役だった。10日の午後11時から、18日の午前10時まで、昼夜合わせて8日間現場にいた。木村君を至近距離で見ることができてもちろん大満足だったが、現場で見た日中両国の文化の違いもなかなか忘れられない。

酒とベッド

初日の夜、コンサート会場の工人体育場に到着すると、ステージ組み立ての材料や道具がまだコンテナの中に入ったままなので、照明部門の仕事は2日目の午前9時から始まるという予定変更だった。早く帰れてラッキーだと思ったが、日本側の担当者と顔合わせをしたら、酒を飲みに行こうと誘われてしまった。中国側の担当者に打診してみると、「今、何時だと思ってんの、明日は朝9時からだから、今のうちに寝ておかないと体が持たないぞ」と完全に世間知らずだと思われた。結局、日本側の担当者3人と夜中の3時まで酒を飲んで、3時半に寮に戻って、4時間弱寝て、また現場に行った。

酒のおかげで、日本側の3人と仲良くなった。その後の数日、現場で冗談混じりの会話ができて、とてもフレンドリーな雰囲気だった。でも、やはり2日目と3日目は体がだるくて、集中力も普段よりだいぶ弱かったように感じた。酒とベッド、チームワーク優先と個人プレー優先の相違が見えてきたのではないか。

マニュアルと指示

実際に仕事をすると、スポットライト、ハイスタンドライト、ストリーマー、チューブイルミネーションなど、学校で勉強しない専門用語がたくさん出てきたが、両方の担当者は英語でたいてい通じるので、具体的な機材より、作業の流れについてのコミュニケーションが多かった。

日本側の担当者は3人いるが、早・中・遅のローテーション制で出勤する。3人で同時に出てきたのは初日と本番の16日だけだった。3人は同じ作業マニュアルを持っている。当番を交代するとき、何ページの何番目まで進んでいると伝えるだけで進捗状況が明瞭だ。一方、中国側は作業員が20数人いるが、その半分が日本人担当者の配下となり、残りの半分は一人の責任者の指示に従って動いていた。作業には特に決まった順序がなく、まったく責任者の経験と判断で作業を進めている、と一人の中国側の作業員から聞いた。

後で分かったが、照明部門だけでなく、音響、ステージ、道具などの他部門も大体同じ状況で、日本側は作業マニュアルどおり進むが、中国側は各部門のトップの指示が絶対視される。ここから、ドグマチズムとワンマン主義、言い換えれば、それぞれにルール依存とリーダー依存傾向のある国民性の相違が浮き彫りになっているといえないだろうか。

3時間と3分間

SMAPが来た。今までテレビでしか見られなかった5人のスーパースターが目の前に現れた。世代的には嵐のほうが好きだが、日本の代表的なアイドルであるキムタクを生で見て、やはりじっとしていられなかった。

SMAPの北京入りは14日だった。到着早々、リハーサルが始まった。服装とゲスト以外、歌やダンスなど、全ては本番同然だった。大雨で中断したが、その気合の入った様子に感心した。翌15日の午後1時半から再びリハーサルだった。コンサート本番は2時間だが、5人は丸々3時間歌ったり踊ったりした。歌がけっして旨くなく、おしゃべりのイメージが強い中居君も終始真剣に取り組んだ。リハーサル終了後、香取君と草彅君はなお振付師について遅くまでダンスを練習した。

一方、16日のコンサートの盛況はともかく、その後の中国側の作業員の切り上げの早さは、日本人と対照的だった。午後9時半閉幕の予定だったが、アンコールなどで9時50分まで延長された。中国側の作業員の勤務時間は10時までだったので、ほとんどの人がステージの解体作業を放り出して、10時を過ぎると2、3分でみんな消えてしまった。それもそのはず、朝9時から夜10時までの13時間労働であり、私の謝礼と同じ程度の低賃金も拍車をかけて、モチベーションが出ないのは当然だ。しかし、日本側の多くの作業員が眉を曇らせながら作業していたのも確かだった。20時間も連続で作業した人もいたと聞いたが、彼たちには仕事が中途半端で作業場を離れる行動はどうしても理解できなかったのだろう。反対に、20時間勤務の日本人作業員は、中国側では馬鹿と見なされていた。

3時間と3分間には、仕事優先と自己中心という両国作業員の勤務スタイルが露わになっているかもしれない。

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もう少し立ち入って考えてみれば、現場にいた学生の話の中には、記述に値するところがまだまだありそうだが、ここで終わりにしよう。ただし、上記の比較は良し悪しを競う意味ではなく、異文化理解とコミュニケーションの大切さを意識しながら読んでいただきたい。

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<宋 剛 (そーごー)☆ Song Gang>
北京外国語大学日本語学部講師。SGRA会員。現在大東文化大学訪問研究員。
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2011年10月5日配信