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エッセイ252:葉 文昌「台湾の大学から日本の大学に移って思うこと(その2)」

○ 授業の雰囲気

今の学科がそうであるように、日本の多くの大学では授業中の飲食は禁止されている。台湾ではつい最近、台湾大学の先生が、「今の台湾で最エリートの台湾大学医学部の学生が、授業中平気でフライドチキンを平らげていて嘆かわしい」と新聞に投書して論争を呼んだように、授業によっては朝には朝飯、昼に近づけば弁当、の授業情景が繰り広げられる。実は学生は授業の最初に先生の反応に探りを入れており、そこで先生が指摘しなかったから、その授業でこのような行為がはびこるのである。ちなみに僕は、他の受講者に迷惑をかけるかどうかを基準としているので、飲み物はよいが、匂いや音の出る食べ物は駄目としている。しかし、世の中一般の状況はどうだろうか?ネットで調べると日本では学生の飲食に対して「師と学生には上下の関係があるから学生の飲食は不敬」、「社会通念上、非常識な行為」としている意見が多い。これは師と生徒を上下関係とする儒教の影響を受けているのであろう。一方でアメリカの大学の状況をネットで調べて見ると、授業中の飲食はありがちのようで、学生だけではなく中にはスナック菓子を食べながら授業をする先生もいるそうな。師と生徒が従属関係になく、よりフラットな関係にあるからなのであろう。台湾の国立大学の教授の7、8割がアメリカで博士号を取得しているが、その影響で台湾の大学でも、授業中の学生の飲食に寛容になったのではないか。

しかしながら、積極的に発言するアメリカの学生と違い、台湾の学生は日本と同様あまり意見を表したがらない。台湾の初頭教育に学ぶ論語の一番最初の語句が「剛毅木訥、近仁(口数が少ない人は、道徳の理想とする仁に近い)」、また俗語に「多説多錯(多く話すだけ過ちが多くなる」「沈黙是金(沈黙は金)」「禍従口出(口は禍の元)」などがあり、それを以って親や初等教育の先生が子供に諭すように、台湾では自分の意見を曝け出すことは良しとしない風潮がある。だから台湾の大学生は意見をあまり表さないでいるのである。「日本人は謙虚で内気な民族である」と、その民族的特徴を捉える人がいるが、多くは単に儒教文化の影響を残しているだけなのだと思う。もっとも学生が自分の意見を述べたがらないのは先生の責任であるので、研究室ゼミで学生が自分の意見を述べられるように努力している。学生が自分の意見を話すようになると、ゼミはとても面白くなる。

○ エコ意識

15年前頃から日本の大学当局はエネルギー消費量の削減を宣伝していたし、研究室では指導教授が電源をきちんと切るように指導していた。島根大学でも、学生は帰宅前にはポットの電源を切って帰るし、研究室でも出来る限りクーラーをつけないようにしていてエコへの意識は高い。そしてごみもちゃんと分類するよう指導されている。しかし、台湾で大学がエネルギー消費量削減の宣伝をしているのは見たことがない。学生もパソコンの電源をつけっぱなしにしている方が普通である。実は台湾の電気代は日本の1/2、韓国の2/3と安い。これが影響しているのではないか。といっても台湾では全くエコ意識がないと言うわけではなく、使わなくなったプリントは多くの場合裏面でもう一回使っているように、それなりのエコ活動はしているようだ。

○ 研究設備

着任してから一生懸命助成金獲得への企画書を書いているが、研究費の獲得がどれくらい大変であるかは、まだわからない。実験パーツの見積りは始めているが、日本の実験パーツは同じアメリカ製品でも台湾と比べて高いものが多いことに気づいた。中には価格が2倍のものもある。今やパソコンやディスプレイなどの民生工業成品は日本でも台湾でも価格はほぼ同じであるのに、なぜ実験パーツにこれほどの差があるのかは理解し難いところである。だから実験装置を作りあげることに関しては、日本の方が高くつきそうだ。

○ 学科会議

台湾での学科会議では、会議に関する厚いプリント資料が一人一人に配られ、「Xページ目の何処何処に示された…」という具合に会議は進行する。ここで少しでも集中力が散逸すると議題のスポットを探すのにひと苦労する。「映像放映が無料の時代になぜプリントなのか?日本ではパワーポイントを利用するなどもっと賢いやり方をしているに違いない。」と思っていたが、日本に来てみたら全く同じだった。台湾に居た頃、せっかく素晴しいプロジェクターが各部屋にあるのだから、せめて会議で進行中のプリントを画面に映し出したらどうかと提案したことがある。幸い聞き入れてもらってそれ以降はそのようになった。会議の進行自体は大差ないが、頻度に関しては日本の学科会議は年間25回程あるのに対し、台湾では4回程しかない。出席率も日本では100%に近いのに対し、台湾ではおおよそ70%程度である。台湾では議決は権利なので欠席は権利を放棄したとみなされるのに対して、日本では議決は義務とみなされているようだ。だから日本での欠席は予め委任状の提出が求められる。この違いが出席率に現れているのではないか。また台湾では会議時間が11:30から午後の授業が始まる13:30までで、学科支給の無料の弁当を食べながら会議をするのに対して、日本ではお昼時間を避けて会議が始まる。台湾の会議は午後の授業が始まる13:30までには終わらせるのが普通であるが、日本の場合は4時に始まって7時に終わることも度々ある。

違いはまだまだあると思うが、また気づいたらお知らせしたい。

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう) ☆ Yeh Wenchuang>
SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。台湾での9年間では研究室を独自運営して薄膜トランジスタやシリコン太陽電池が作れる環境を整えた。2010年4月より島根大学電子制御システム工学科准教授。
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葉 文昌「台湾の大学と日本の大学(その1)」

2010年6月30日配信