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エッセイ243:イェ チョウ トゥ「テレビから学ぶ日本」

母国ミャンマーではニュース番組を除いてテレビをほとんど見なかった私だが、来日後は時間を見つけては見るようになった。というのは、日本のテレビ番組には素晴らしいものが多く、学びの可能性が無限に広がっているからだ。

来日当初は、主に日本語の学習のためにテレビを見ていた。NHKの教育番組だけでなく、ドラマから日常会話や若者の使う日本語などを学んだ。字幕付きの番組も多く、漢字の勉強に役立った。日本語がだんだん分かるようになると、スポーツ、旅行、文化、ドキュメンタリーなど、さまざまな番組を見るようになり、日本の文化に対する理解が少しずつ深まっていった。最近では、お笑いや政治番組も理解できるようになり、くだけた日本語や逆に硬い日本語を学ぶのに役立っている。

このように日本のテレビ番組は私にとって貴重な学びの場であるが、中でもドキュメンタリー番組からは多くのことを学んだ。たとえば、戦争体験者の話から日本の歴史的事実を初めて学んだ。ミャンマーにいた時は、戦争を体験した日本人の痛みなど全く知らなかったが、つらい時代を過ごした日本人の語る内容に強い衝撃を受け、戦争について深く考えるきっかけとなった。また、障害をもった人や病気の人が懸命に生きようと頑張っている姿を描いた番組を見て、心を揺さぶられ、命の重さについて考えさせられた。歴史上の偉人、研究者、政治家など、日本を変えるために人生をかけている人についての番組もよく見る。このような立派な人々の努力があったからこそ、日本はここまで豊かな国になったのだと実感する。そんな時、自分もできることを精一杯やらねばという思いで胸が熱くなる。

もちろんテレビが与える影響には良いものも悪いものもあり、場合によっては危険性もある。しかし、私は、日本のテレビ番組は素晴らしい教育手段のひとつであると考える。研究を行う上で手がかりとなるような幅広い知識を得ることもでき、私にとっては知識の宝庫といえる。

学会などで海外を訪れた際は、短時間でもテレビ番組を見るようにしている。そうすることにより、文化、流行、教育などに触れることができ、少しその国に近づけたような気がするのだ。このような経験から、日本に来たばかりの人へアドバイスをするとすれば、テレビから学ぶ日本をお薦めしたい。わずかな時間でも、何かを学び取ろうという意識をもってテレビを見ることで大いに勉強になるということを伝えたい。

寝転がっていながらリモコンひとつで勉強ができる日本では、いくらでも知識を増やしていくことができる。今夜もテレビをつけたまま居眠りして朝を迎えることになりそうだ…。

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<イェ チョウ トゥ☆Ye Kyaw Thu>
1975年、ミャンマー(ヤンゴン)生まれ。2000年、Dagon University(ミャンマー)物理学部卒業。
2006年、早稲田大学大学院国際情報通信研究科修士課程修了。現在、同大学助手。ヒューマン・コンピュータ・インタラクション、自然言語処理、子供および障害者を対象とした教育に関する研究を行い、博士号取得を目指している。趣味は、武道(合気道、テコンドー、カンフー)、読書、旅行。
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2010年4月21日