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エッセイ170:包 聯群「中国の経済発展は農民たちに何をもたらしたのか:黒龍江省でのフィールドワークから見えたこと」

言語接触や言語変容に関する調査のために中国黒龍江省に、9月から10月にかけて約1ヶ月ほど滞在した。調査地は主に大慶市ドルブットモンゴル族自治県、チチハル市の泰来県が中心だった。移動手段は鉄道や車を利用した。ちょうど農民たちが農産物を収穫している忙しい時期でもあった。各地域内での移動は車だったので、これらの地域の変化を直に自分の目で確かめることができ、また農民たちとも話をする機会があった。

 

○中国東北地方の中都市(城鎮)の変化

 

 
2003年の調査を最後に、黒龍江省大慶市ドルブットモンゴル族自治県に足を運んだのは5年ぶりのことだった。街は見違えるほどの変化だった。道路が整備され、大きなビルが道路の両端に立ち並ぶ。その数は倍増し、かつての古い街並みは変貌してしまった。新しい商店街ができ、多くの人でにぎわっていた。夜になると、多種多様な電灯が住宅のビル全体をてりつけ、華やかな街並みとなっていた。現在の街は昔の何倍にも拡大され、マンションを買う農民も増えているようである。本県の領域では、石油の採掘ができることが経済発展に直接結びついていると市民たちが話していた。

 

黒龍江省泰来県では石油の資源がないため、経済的に他の県とある程度の差がみられるが、それでも、村と村を繋ぐ道路が整備されるなど、昔と比べると、発展しつつあることが見うけられた。このように、地方都市の外観からでも中国の経済発展の一角がみられるのである。

 

地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を排出しない太陽光の自然エネルギー利用への転換は、環境やエネルギー資源に対する積極的な取り組みととらえられるが、中国東北地域では太陽エネルギーの使用が普及しつつある。各家庭の給湯、シャワーなどで使われている。これもまた5年前には見られなかった風景である。街にしろ、農村にしろ、屋根の上に横1メートル以上、縦60cm程度(?)の管を横に並べているのがはっきり見られる。太陽熱温水器の値段は、一番安いものが3000人民元(約5万円程度)であり、一般的な家庭でも設置できる手ごろな値段と言われている。業者が村まで行ってチラシ(“東北王太陽エネルギー”)を配っている事情をみると、太陽エネルギーを使用する家庭がさらに増えているのだろう。環境問題が世界的に取り上げられている時代では、これは地球環境を守る一つの手段と言えよう。

 

○中国東北地方の農村の変化

 

言語調査の傍ら、農村の生活を体験し、その変化を感じ取ったことも今回の収穫の一つだと言える。黒龍江省チチハル市泰来県ウンドル村で行われたインタビュー調査をもとに中国農村の変化をみてみよう。

 

 
筆者:今の生活をどう思いますか。

 

農民Aさん:今は昔と比べると、毎日“過年”(お正月)みたいだ。今は、毎日お米や麺類を食べられるようになった。さらに魚、鶏肉、豚肉をいつでも買って食べられるしね。70年代末まではお腹いっぱいに食べられず、いつも空腹感が残っていたので、大変だったよ。新しいトウモロコシが食べられる秋になる前に、それまで食べていた食べ物がすでになくなってしまう。今、トウモロコシを食べる人は一人もいないよ。

 

筆者:それはよかったね。

 

農民Aさん:そうですね。これだけじゃないよ。今はね、農民の土地から税金を取られなくなったよ。逆に国から一畝の土地に300元以上の耕地用の支援金をくれるのよ。昔なら、絶対想像できなかった。収穫があってもなくても税金を払っていたよ。

 

筆者:そうですか。

 

農民Aさん:うん。今はね、満足しないことがないよ。今年からね、数年間をかけて、国が土で建てた家を壊す計画が出ているよ。誰かが(煉瓦で)新しい家を建てると、国から一万元(農村で100平方メール近くの家を建てるには安くても大体8万元ほどかかる)の補償があるよ。家を建てたい人は登録をすでに済ませて、これからその政策が実行されるとみんなが言っているよ。

 

筆者:けっこうすごいですね。

 

農民Aさん:そうだよ。今、ウンドル村では、農業以外、酪農用の牛を育てる家庭も増えているよ。国の支援策があるからね。今農村でも忙しいときに人を雇って農業をやっているよ。昔の地主みたいね。勤勉の人は結構お金を儲けているよ。

 

筆者:そうですか。

 

農民Aさん:農民たちは新しい家を建てる際にも、先進的な設備を備えるように工夫している。街にあるシャワー、暖房、水道などの設備がすべてあるよ。

 

筆者:なるほど、これをみると、昔の農村のイメージと大分違いますね。農村と思えないほどの変化ですね。

 

農民Aさん:そうでしょう!!(自慢気に)。

 

(次号に続く)

 

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<包聯群(ホウ・レンチュン)☆ Bao Lian Qun>
中国黒龍江省で生まれ、1988年内モンゴル大学大学院の修士課程を経て、同大学で勤務。1997年に来日、東京外大の研究生、東大の修士、博士課程(言語情報科学専攻)を経て、2007年4月から東北大学東北アジア研究センターにて、客員研究員/教育研究支援者として勤務。研究分野:言語学(社会言語学)、モンゴル系諸言語、満洲語、契丹小字等。SGRA会員。
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