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エッセイ167:禹 成勲「『20世紀少年』たちと『ともだち』」

世界的な金融危機状況が続いている。経済や金融体制に関してはまったくの素人である私としては、こうした金融危機がどうして起こるのか、どのように危機を克服できるのか全然分からない。ただ、様々な原因究明の意見の中で、「現在の『経済システム』の誤りによる」という指摘が気にかかる。

 

  
浦沢直樹の「20世紀少年」という漫画を原作とした同名の映画が世界同時公開された。年齢の側面からも経済の側面からも鑑賞可能な「20世紀少年」たちが、この映画に熱狂しているという。

 

 
ケンヂという人物を中心とする主人公「20世紀少年」たちは、幼い頃、地球を滅亡させようとする敵が現れたら、皆共に戦い、敵をはね除けて地球を守る約束をする。このことは、やがて忘れられ、主人公たちはおとなになって平凡な日常を過ごしている。ところが、ある日、地球全体を対象にした恐ろしい事件が次々と発生する。主人公たちは、これら一連の事件が、彼らが幼い時に考えた地球滅亡シナリオと同じであることに気付く。一連の事件に絡んでいる謎の男「トモダチ」は、主人公らが幼い時に考えた空想を、次々と現実に再現し、これらを解決することで英雄になって支配者になり、「国家」となる。

 

  
現在の経済危機を発生させた「経済システム」は、我々「20世紀少年」たちの現在と未来のくらし、そして夢を守り実現させる存在になりながら「TOMODACHI」となった。「20世紀少年」たちがその存在を認めたことで、それは各種制度を創り出したし、国家の一部になった。 いや、むしろ現在の国々は、「20世紀少年」たちの人生と夢を維持するため、その「TOMOTACHI」に従属しているようにも見える。あたかも漫画の中の「トモダチ」のように。

 

  
漫画の主人公ケンヂは、幼い頃の「ともだち」に、彼らの象徴である旗を、彼らの力で取り戻そうと呼び掛ける。たとえその旗が、世界を滅亡させようとする「トモダチ」の象徴物として使われていても、厳密にそれは彼らのものであり、彼らの未来への夢であった。

 

  
我々の暮らしを破壊し、夢を押し倒すものを、我々の「敵」と見なす時、今の経済危機を作り出し、現在と未来の暮らしと夢を威嚇している「間違った経済システム」は、明らかに我々の「敵」である。しかしそれは、20世紀的な「トモダチ」とは違う。見えないし実在もしない。見えない「TOMODACHI」と何をもってどのように戦って、我々の暮らしと夢を守り、平凡な平和を取り戻せるのだろうか。見えない「TOMODACHI」と対決し、我々20世紀少年たちの旗を、一緒に取り戻してくれる真の「ともだち」は誰なのか。

 

  
漫画の中の「トモダチ」は、その存在が一貫してベールに包まれていた。漫画が終わる時点に至って、疎外感が作り出した「トモダチ」とは、主人公たちと幼い時に別れた「ともだち」であることが明らかとなる。疎外されていたと考えていた「トモダチ」は、主人公たちが自らの存在を記憶しており、「ともだち」として認めているという事実を確認して死を迎えた時、彼らは互いに許しあい和解する。

 

今の経済危機を打開するために先進国を中心に新しい金融システムを作り出そうとする動きが報道されている。新しい「トモダチ」はどのような姿であろうか。もしかしたらこれによって「TOMODACHI」は、我々「20世紀少年」たちと和解もできないまま死を迎えるかも知れない。いや、もしかすると「TOMODACHI」は、全く新しい姿に仮装して現れるかも知れない。私は、我々「20世紀少年」たちの真の「ともだち」とは、どのような姿をした誰なのか、それが知りたい。

 

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<禹 成勲(ウ・ソンフン)☆ Woo Seonghoon>
韓国成均館大学建築科を卒業後、2001年に日本へ留学、2007年東京大学で博士号を取得。現在、日本学術振興会外国人特別研究員。SGRA会員
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