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エッセイ131:林 泉忠「中台関係は果たして改善するのか」

去る3月の総統選で当選した馬英九は22日に中華民国第12代総統に就任し、台湾は新たな時代に入る。馬英九時代の中台関係は改善する方向へ進むだろうと期待されているが、その根拠には必ずしも十分な説得力をもつとは限らない。中台関係は果たして蜜月の時代になるか。馬氏の強みと弱みを探ってみたい。

 

 
陳水扁時代の民進党政権は、中国に対話の相手として一貫して承認されてこなかった。そのため、1990年、李登輝時代に設置された中台間の実務窓口である台湾側の海峡交流基金会と、中国側の海峡両岸関係協会によるハイレベルの対話も事実上ストップしたままであった。中台対話中断の背景には「台湾独立」を掲げる民進党に対する中国側の深い不信感がある。

 

一方、当時の国民党主席・連戦氏は、2005年に57年ぶりに中国本土を訪問し、共産党との歴史的和解の道を開いた。その後4回にわたって国民党と中国による経済フォーラムが開催され、経済分野における台湾の中国進出の便宜図りに実績を積んだ。

 

これは両岸関係における国民党の強みにもなり、こうした中国の発展の勢いを台湾経済の活性化にうまく利用しようとする姿勢が、今回の台湾の政権交代につながったものとみることができる。

 

 
しかし、中台の政治的対話の進展や台湾の国際社会における存在感の強化については、楽観視できる材料が必ずしも多くない。馬氏個人の中国との交流歴はほとんどないばかりか、これまでにも中国を批判する言動が少なくない。

 

例えば、毎年6月の天安門事件記念座談会への出席や、「反国家分裂法」への反対、共産党独裁に関する批判文の発表、法輪功に対する寛容的対応の呼び掛け、そして最近のチベット問題に対する中国への批判など、これらはいずれも中国の逆鱗に触れるものであった。

 

また、馬氏は一昨年、国民党主席在任中に「独立は台湾の未来における選択肢の一つ」という新聞広告を出し、さらに昨年、総統選における国民党候補の公認になった後、「国連復帰」を求める住民投票を推進していた。これら一連の行動は中国の怒りを買うことにもなった。

 

ただし、馬氏は昨年の暮れから中国に妥協する姿勢も示した。中国は、民進党の「国連加盟」とともに国民党が自ら進めている「国連復帰」の住民投票に対し、アメリカや日本といった台湾に影響力のある国への反対表明呼び掛けを成功させたと同時に、国民党名誉主席の連戦氏や、中国に進出している台湾企業などにもボイコットを呼び掛けさせた。

 

こうして、これまであくまで自らの立場を堅持した馬氏は最終的に中国に屈服し、「国連復帰」を含めた住民投票のボイコットを事実上容認し、不成立に追い込んだのであった。

 

 
馬英九氏の台湾新総統就任によって、中国との両岸間の経済関係や人的交流は今後一層強化されるだろうが、政治的対話は果たしてどの程度進むかは依然不透明のままである。両岸の統一について、馬氏は任期中協議しないと公約したため、今後は、馬氏が承認を強く求めている台湾の地位をどう扱うかということが焦点になる。

 

これまで中国は台湾を自らの一つの省としか公式に認めず、台湾の国際社会における存在感の強化を厳格に阻止してきた。中国は李登輝政権の後半から陳水扁政権にかけて、台湾が希求してきた国連復帰(もしくは加盟)や世界保健機関(WHO)への加盟キャンペーンを「台湾独立の動き」として片づけてきた。

 

しかし、これらの動きに対しては国民党も支持し推進してきた。来る馬英九新時代においては、このようなキャンペーンは今後も継続されるか、国民党の選択を迫られる一方で、中国にもプレッシャーを与えている。

 

なぜならば、馬氏は北京の顔を伺いながら、国際地位の強化運動を止めることになれば、台湾内部からの反発を受け、政権の安定に悪影響を及ぼすことになるからである。しかし、統一派のイメージが鮮明な馬氏が、もしこのような運動を継続させた場合、中国は苦しい立場に追い込まれることになる。

 

というのは、もしそれを同じく「台湾独立」の動きとして批判するならば、両岸の民衆のみならず海外数千万の華僑・華人からの支持が得られない。そればかりか、そうすると台湾社会は朝野を問わず皆独立に傾斜することになり、これまで独立派は少数にすぎないという中国自らの主張と矛盾するだけでなく、台湾の遠心力を阻止できなかった、過去二十数年間の対台湾政策の失敗を事実上認めることになる。

 

国連やWHO加盟問題だけではない。そもそも中国は、これまで「総統」や「外交部」(外務省)と呼ばず「指導者」や「渉外部門」と台湾を「矮小化」する名称を使用してきた。これに対して強い不満を表明してきた馬氏は、名称の正常化要求を堅持する限り中台の摩擦は避けられない。

 

馬英九新時代の中台関係は、ますます目が離せなくなるに違いない。

 

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<林 泉忠(リム・チュアンティオン)☆ John C. T. Lim>
国際政治専攻。中国で初等教育、香港で中等教育、そして日本で高等教育を受け、東京大学大学院法学研究科より博士号を取得。琉球大学法文学部准教授。4月より、ハーバード大学客員研究員としてボストン在住。
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*このエッセイは、『沖縄タイムス』朝刊3月30日、31日に発表された記事を加筆修正し、筆者と新聞社の許可を得て転載させていただきました。