SGRAかわらばん

エッセイ104:李 鋼哲「中国人の近隣感覚」

日本では中国人の反日感情が非常に強いと思う人が多い。しかし、中国人の近隣感覚は必ずしもそうではない。最近、インターネット・メディア「新華網」が発表した「中国人の隣国イメージ調査」によると、「最も好きな隣国」はパキスタン28%でトップ、ロシアが二番目で15.1%、日本が三番目で13.2%という結果が得られた。また「最も好きではない隣国」の第一位は隣の韓国が40.1%、日本が30.4%で第二位、インドネシアが18.8%で第三位である。調査は中国ネティズン1万2千人を対象に行ったもの。

 

日本人にとって嬉しいことか憂うべきことかそれぞれの判断であろうが、注目したいのはインターネットが感情発散のはけ口で、反日感情が強いと思っていた中国のネティズンは、意外と冷静に隣国を見ているのだとする中国の専門家の分析である。20の隣国と接する中国にとっては、「善隣友好」関係は政府も国民も望ましいが、現実では近隣関係は理想的ではなく、近隣環境が厳しいと見る人が少なくない。

 

日本に対しては、愛と憎みが入り混ざっていると関係者は分析している。「日本は歴史的な原因により嫌いな国であるが、我々が学ぶべきところが多く、日本民族の多くの特徴は我々の自己反省の鏡となる」と調査結果を読んだある読者は自分の意見をネットで書いたという。

 

パキスタンが最も好きな隣国になった理由は、パキスタンは中国を裏切ったことがなく、いつも中国人に対して友好的だから。しかし、中国人はパキスタンについてどれぐらい知っているだろうか。昨年パキスタンを訪問した中国人はわずか6万人である。中国を訪問するパキスタン人も限られている。つまり、お互いに接触が少なく、ある「造られたイメージ」による判断になりかねない。

 

筆者が小学校や中学校時代の1960~70年代、中国は「日本は中国を侵略したが、それは日本の一部軍国主義者が悪いので、日本国民も被害者である」と国民を教育したので、反日感情というのはそれほど見られなかった。もちろん、日本を訪問できる人はほとんどいなかったので、日本の実態を分かる人は誰もいなかった。つまり、「造られたイメージ」により国民は日本を想像し、日本人を認識したのだ。それが、1日平均1万人以上の交流時代(今年は双方訪問者500万人になる見通し)になると、日本に対する評価も様々である。

 

近年、韓国ドラマで韓流ブームになっていた中国国民のなかで韓国人嫌いが急速に増えたのは、「韓国人は中国で偉そうに振る舞っている」、「中国人を見下ろしている」からであると前記の調査では解説している。近年急増して日本を超える規模の韓国人の中国訪問者、そして現在70万人といわれ、来年は100万人になるといわれる(駐中国韓国大使の話による)中国での韓国人居住者。付き合いが多くなると好き嫌いも明確になるのではないか。やはりドラマで見るのと実物を見るのは違うのか。

 

—————————————–
<李鋼哲(り・こうてつ)☆ Li Gangzhe>
1985年中央民族学院(中国)哲学科卒業。91年来日、立教大学経済学部博士課程修了。東北アジア地域経済を専門に政策研究に従事し、東京財団、名古屋大学などで研究、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、現在、北陸大学教授。日中韓3カ国を舞台に国際的な研究交流活動の架け橋の役割を果たしている。SGRA研究員。著書に『東アジア共同体に向けて―新しいアジア人意識の確立』(2005日本講演)、その他論文やコラム多数。
—————————————–